菊原慶介の人生⑰

 大山は自分の立場が悪くなったのか、


急いで言い訳をし始めた。


「ち、違うんだ親父! これは―――」


「黙れ! 15年前の事件で一体お前にいくらの金を積んだと思ってやがる! お前の名前を買うのにどれだけうちの組が苦労したのかわかってんのか! せっかくの人生を2度も棒に振りやがって!」


あまりの迫力に男たちだけでなく、大山、さらには美晴までがゾッとした。


大山は全てを諦めたかのようにその場に泣き崩れ、


大山の父親は車いすから必死に立ち上がろうとするが、


足が不自由の為すぐにその場に崩れ落ちる。


男たちに支えられようとするがその手を払いのけ、


両ひざを突いて、頭を下げた。


「わりぃが、コイツのけじめはこっちで片付けさせてもらっていいか? どんなにクズだろうがよ……こいつは俺のたった1人の息子なんだ。名前なんか変えなくても真っ当にさせるからよ」


大山の父親は体が全身震えていた。


おそらく本心だけじゃなく、自らの育て方を後悔しているような震える声だった。


「ふん、ヤクザのおやっさんに言われても説得力ねぇけど、まぁそこまでされたら野暮なことはできねぇよな」


そういって名取はCSAAを腰にしまうと、机の上に並べられた資料を片付け始めた。


「名取さん! あなたを逮捕します!」


美晴の手には手錠が握られている。


目の前で高木を殺害した名取を美晴は見逃すことはできなかったからだ。


しかし名取は動揺することなく、資料をバックに入れてその場から帰ろうとした。


「ま、待ってくだ―――」


「いいんだ嬢ちゃん、これはってことで処理されるからよ」


大山の父親は車いすに戻りながら、


美晴に説明をした。


美晴は納得がいかない。


「いえ! これは立派な殺人です、私は目の前で目撃したんです、見逃すことはできません」


「ならどうする? もし俺を逮捕すれば、菊原の名義は変わらないぞ?」


美晴はハッとする。


そうか、ここで名取を逮捕すれば菊原はこの先も……


手錠を持った手がブルブルと震える。


美晴が口を開くのをじっと見つめる名取、


何が正義かわからない。


葛藤する美晴が答えを出したのは―――

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