菊原慶介の人生⑯

 大山のそばには幹部の男が1人だけ。


「お、おい! 高木、お前1人で大丈夫なのか? やつがまた撃ってきたら……」


「ご心配なく、この高木が坊ちゃんを必ずや守って見せ―――」


バンッ!


突然銃声した後、高木の声は止んだ、


徐々に目が暗闇に慣れてくる。


月の明かりで高木の姿が鮮明に映り、


高木のこめかみから血が噴き出していたのだ。


ぐちゃっと気持ちの悪い音を立てながら高木はその場に倒れる。


「あぁぁぁ! 高木っ! 誰か! だれかぁ!」


えっ? 殺した? 一瞬で!?


「さて大山~、後はお前だけだ。さっさと罪を認めた方が楽じゃないのか?」


「名取さん! 何をやってるんですか!」


正義感の強い美晴は目の前で平然と殺しをする名取に激昂した。


「何って……精算だよ? 見てわからないか?」


「わかりません! どんな理由であれ、殺人は立派な犯罪です!」


「そ、そうだぞ! 女の言うとおりだぞ? いいのか!」


名取は無表情のまま、CSAAの撃鉄を引いた。


「ま、待て! 分かった認めるから、命だけは許してくれ! 俺はもっと上に行きたかったんだよ! なのにずっと菊原が課長の座にいるからちょっと脅すつもりでやっただけなんだ」


ついに認めた。


これで菊原さんは無罪だ!


後は、SNSの投稿が無くなれば……


「ってか、なんでヤクザじゃねぇんだよ。普通ヤクザの息子って後を継ぐもんじゃねぇのか?」


「そ、それは……」


大山が口を濁していると、暗闇から男の声がした。


「おめぇが真っ当な人生を送りたいって言ったんだろうが、修吾ぉ」


暗闇から現れたのは車いすに乗せられた年配の男だ。


後ろには先程までいた男たちが暗闇でもわかるほど真っ青な顔で列を作っていた。


「よぉ、おやっさん、元気してたのかよ。10年ぐらいか?」


年配の男は大山の父親のようだ。


話しを聞く限り、昔からの知り合いのようだが……


「はっ、あたりめぇだろうがよ、18の若造がいっちょ前にヤクザに交渉なんか持ち込みやがって、今度は息子まで買い取ってくつもりか?」


「買い取るわけねぇだろ、名義は1度しか買えられない、つまりこいつは桐山修吾、大山隆也の2人の人生を棒に振ったってわけだ」

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