菊原慶介の人生⑬

 名取の行動は大男を驚愕させるに十分だった。


「あ、こらぁ! ちょっと待てこら!」


「貴様、東京湾に沈めるぞ!」


大男が必死に名取を取り押さえようとする。


こんなの、絶対に殺される!


止めなくちゃ!


美晴は決死の思いで名取の行動を止めようとする。


「ダメです! 名取さんこのままだと殺されてしまいますよ!」


「お~い、大山隆也ぁ! いるんだろ~! 早く出てきてくれよ~、こっちは時間がないんだぞ~!」


「おい、コイツを坊ちゃんの所に連れて行くな!」


「お、おぉ!」


しかし、大男3人がかりで名取にしがみつくが、名取は歩みを止めなかった。


そのままズルズルと大男を引きずりながら、


家の中を土足のまま散策し始める。


なんて力なの?


男3人がかりがしがみついてるのに止まらないなんて。


名取……カイト……、この人は……。


大広間に辿り着くと、そこには騒ぎを聞きつけた大勢の男たちが、


大山の周りを固めていた。


見たところ大山は特に様子の変わったところはない。


大山はどこにでもいるような普通の男性だ、


背格好や体格、髪型までもがはっきりいえば地味。


なのに、周りにいる男たちを押しのけ、


ソファに堂々と腰を掛けている。


大山を確認した名取は大声を発しながら近づいた。


「あぁ、やっといたぁ! もう、時間がないんだからさぁ」


「えぇっと、どなた様ですかぁ?」


大山は白々しく名取に話しかけた。


昔名前を買ったくせに、


名取さんを知らないフリをするなんて……。


「ぼ、坊ちゃん、こいつぁ、一体」


「おい、俺のお客なんだから離れなよ、お前たち」


「は、はい」


大山の言葉で大男は名取から離れて、


大山の後ろに並んだ。


「さてと、菊原慶介……知ってるよな?」


「えぇ、慶介さんは僕の元上司ですから、それがなにか?」


「お前だろ? SNSで菊原慶介が少女監禁事件の主犯の少年Kだって投稿したの」


そういって名取は美晴にコピーさせた資料を取り出して見せつけた。


「おい! 坊ちゃんがそんなことするわけねぇだろ!」


「なめてんのかぁ!」


「生きて返さねぇぞこら、覚悟しろよ」


男たちは大山の代わりに大声を上げて威嚇する。


しかし名取は全く動じなかった―――

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