菊原慶介の人生⑨
「な、なんですか?」
美晴の顔の近くに資料がある。
これは……並べろってことか?
美晴はそんなわけないと名取に確認をした。
「いや、資料を並べろってことだよ、商談できないだろ? ついてきたんだからそれぐらいしろよ」
やっぱりそうか。
美晴は一気に沸点が上がった。
「別に私はついてきたんじゃなくてですね、菊原さんに何かあったらと思って」
「ったく、馬鹿か? すでに何かあるから俺が来たんだろ? 早く並べろ」
美晴はムッと頬を膨らまして、
渋々資料を並べた。
しかし、資料といっても何をかいてあるかさっぱりわからない、
とりあえず適当に並べると、
名取は一部の資料を手に取り、菊原に渡した。
「それじゃ商談といこう、名義を売買するにあたって注意してもらうことがあるんだが……」
「はい」
菊原は唾を飲み込む。
「1つ、名義を変更できるのは1度のみ。
2つ、名義に関係する全ての情報を買い取らせてもらう
3つ、名義の精算に関して文句をつけない
以上だ、何か質問は?」
名取は3本の指を立てて、菊原に説明した。
「それ……だけですか?」
菊原は拍子抜けた。
もっといろいろ条件が重なるものだと思っていたからだ。
「それなら、問題はなさそうですね菊原さん! あとは代金だけか……」
「は、はい。えっとお支払いは……」
「あぁ、そうだな~。今のところはまだ何とも……ん? あれは?」
名取は視界に入った何かを見つけた。
それは菊原の職場の集合写真のようなものだった。
「あぁ、あれですか? これでも仕事を辞める前は広告代理店の課長をしてまして、大きなプロジェクトに取り組んだ時にとった写真です。私の横で大きく笑ってるのが部下の大山隆也といいまして、とても可愛い奴なんですよ」
菊原はそう言いながら立ち上がって写真を手にとった。
美晴は立ち上がり、横から写真を覗いた。
「へぇ、みんな楽しそうですね! それなのに……SNSで仕事を無くすなんて」
「いや、もういいです……私が辞めた後、大山が課長代理を務めるようになったようですし、大山なら十分に務めてくれる思いますから」
「よし、料金決めた!」
名取はそういいながら腕を頭の後ろで組んだ―――
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