菊原慶介の人生⑦
名取の足取りは軽やかだ。
すでに日は沈み、歩いている人はほとんど見かけない。
閑散とした住宅街を何の迷いもなくツカツカと歩いていく。
美晴は名取の行動が不思議でならなかった。
美晴は名取に菊原慶介の居場所は伝えてない、
なのに、名取が進んでいるのは菊原慶介の自宅経路だったのだ。
「あの、名取さん私、菊原さんの自宅教えてないのになぜ分かるんですか?」
美晴は慌てて名取の後をついてきたからなのか、持ってきたバックからは資料やらが今にも飛び出しそうになっていた。
美晴は後を付け、必死に資料をバックに戻しながら名取の後ろを慌ただしくついていく。
「あぁ? んなもん、資料にかいてたじゃん」
「で、でもここまで地図もなにも見てないんじゃ……」
名取は歩む足を止め、美晴は背中にぶつかってしまう。
そして名取は美晴を見下ろしながら、バックを持っていない左手の人差し指をこめかみにトントンと当てた。
「地図は俺の頭に入ってる、番地も含めな」
そしてすぐに名取は歩くのを再開する。
「えぇっ!」
東京の地図が頭に入っている!?
しかも番地も把握しているって……
そんなことできるわけない、
やっぱりこの人……普通の人じゃない!
名取は歩くのを止め、家の前で止まった。
名取と美晴は菊原慶介の自宅に辿り着いたのだ。
しかし……
「名取さん?」
「ん? なんだ?」
「その、言いにくいんでけど、サングラスはちょっと……名取さん見た目がマフィアみたいで」
そう、名取は190以上ある背格好に、黒のスーツと黒のサングラスを身に着けている。
端から見たらマフィアだ。
このまま会えば委縮してしまうかもしれない。
美晴はそれを懸念していたのだ。
しかし、名取は表情を変えない。
左手でサングラスの縁を触ると、
何かを手で探るような仕草をした。
すると、サングラスは瞬く間に色を失い、
透明なレンズに変わり、
眼鏡に早変わりした。
「えぇっ! なっ、なんで?」
「さぁ、行くぞ」
そういうと、先程までの冷たい表情から一転、
明るい表情に変えてインターホンを押した。
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