菊原慶介の人生⑥

「どういうことですか?」


美晴の目つきはきつくなった。


無実の人をそんな風にいうなんて……


この人もSNSや見えないところから人を意図的に傷つける人間なんだ。


美晴はそう思った。


「お前はこの男の何を知ってる?」


「えっ?」


「この男が誰から生まれ、何処で育ち、何を学び、誰と交わり、何を目標としていたのか。お前は答えられるのか?」


「それは、答えられませんが、菊原さんは決して悪い人ではありません!」


「根拠は?」


「それは……勘です!」


美晴の話を聞いていた名取はキョトンとした顔をした後、ゲラゲラと高笑いをした。


「お前マジか! 自分の勘で決めつけてんのか? それはSNSする奴らと同じ真理だ」


「えっ?」


「この男の事を何も知らない人間が、1人で歩き出した噂を頼りに、人相を勝手に決めつけ、自分の勘を信じて『コイツはこういう人間だ』『コイツはこうだろう』とSNSで誹謗中傷をする……お前もそいつらとなんら変わらんな」


美晴はさらに目つきが悪くなった。


我慢ができなくなった美晴は思わず立ち上がり、


名取に向かって声を荒げた。


「なら、名取さんはこの人がやったと思ってるんですか?」


「わかるわけがないだろ、それに俺にとっては重要じゃない」


「どういうことですか?」


「この男がどんな過去を持っているか、興味があるのはそれだけだな」


そう言って、名取は立ち上がり指をパチンと鳴らした。


指を鳴らすと、猫山はスッと立ち上がり、


黒のスーツケースと時期に合わない黒のロングコートをテーブルの上に置き、


名取にヘアゴムを渡した。


ヘアゴムを受け取って長い髪を後ろで束ねた。


額にかけたサングラスをおろしサングラスを身に着け、


ロングコートを颯爽と羽織り、スーツケースを持ち上げると、


事務所を出ようとする。


何をするのかわからなかった美晴は名取に声を掛ける。


「ちょ、ちょっと。どこに行くんですか!?」


「決まってる、そいつの名前、俺が買ってやるよ!」


そういって事務所を出て行った。


しばらく呆然とした美晴は、事務所を後にするように急いで名取を追いかけた。

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