菊原慶介の人生⑤
その人の過去?
それが代金の代わりになるってこと?
「あの~、人の過去が代金になるってことで大丈夫ですか?」
美晴は堪らず名取に質問をした。
いまだに理解ができない美晴に少しずつ苛立ちを隠せなくなってきた名取は自分の口で説明を始めた。
「あぁ~、人の過去ってのは人の数だけ溢れてる。真面目に過ごした者、他人を蔑むことで自身を守ってきた者、困難に立ち向かう者、そうでない者。『人』ってのは過去にどんなことをしてきたかで人生は決まってるもんだ。俺はそいつらの過去を知る代わりに、新しい名義を売ってやるのさ」
名取は不敵に笑いながら説明をした。
何となく理解してきた……この人は……
変態だ。
それも生粋の変人。
「わかりました、要するに名取さんは人の過去を知りたい、名義を購入する代金はその人の過去や名義ってことですね」
美晴は資料をテーブルでトントンとそろえながら話す。
「そういうことだ、それで名義を変えたいんだろ?」
「はい、ですが私ではありません。名義が欲しい人はこちらの方です」
美晴はそう言って、黒のカバンから資料を取り出して、名取の前にスッと差し出した。
チラッと眺めた後、左手で資料を取り上げた名取はペラペラと資料をめくる。
「その人の名は菊原慶介さん、37歳、以前は広告代理店で営業をされていたそうですが、事件の容疑者じゃないかとSNSで誹謗中傷されたことで名前や住所まで特定され、少しずつ生活が変わっていったそうです」
「あぁ~これ知ってるわ、確か『少女誘拐拉致監禁殺人事件』だろ? 犯行グループは10代の高校生5人組、主犯は少年Kだったな。なるほど……菊原のKってわけね」
そういって資料をテーブルの端に避けると猫山が資料をスッと持ち、自身の机に戻った。
「はい、ですがこの事件はもう15年も前です。当時の菊原さんは22歳、はっきりいえば事実無根です。なのに、こんな目に遭うなんてひどすぎます」
美晴は考えるだけでSNSで誹謗中傷した人たちに怒りが込み上げてくる。
しかし、名取は表情を変えることなく口を開いた。
「そんなの分からなくね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます