菊原慶介の人生③

 だ、誰!?


というより、なんで血を流しているの?


美晴は驚きを隠せない。


テーブルの下に潜っていることもそうだが、


鼻から血を流しているというのが全く理解できない。


この男、全身を黒のスーツで身に纏い、


女性よりも長いサラサラの黒髪。


妙に整った顔立ちと、額に身に着けている大きめのサングラス。


独特の雰囲気を醸し出すこの男ははっきり言って不気味だ。


それに白と言っていたはず……!


次の瞬間、美晴は思わずスカートをグッと引き延ばした。


美晴の今日の下着は白だったのだ。


見られた……。


美晴はやかんが沸騰したかのように顔を真っ赤に染めた。


「ちょ、ちょっと何なんですか!?」


「何って、俺がテーブルの下にいたらお前が来たんだろう。ったく、白なんて味気ない下着を履きやがって、色気の『い』の字もねぇな」


男は鼻時をスーツの袖でグイっと拭きながら、


テーブルの下からスッと立ち上がった。


立ち上がるとさらに異様だ。


身長は190㎝はあるか、


全身を黒で統一した大男が目の前に立っている。


それだけで美晴は男の放つ雰囲気に圧倒された。


だが、美晴は正直ムッとしていた。


人の下着を見て鼻血を出しておいて色気が無いだと?


「あの、すみませんが、人の下着の色まで見ておいてその態度はないんじゃないですか?」


「うるせぇ! お前のシミのついたパンツに興味はねぇ、サテンじゃなきゃ興奮しねぇんだよ!」


「よく言いますよ! 鼻血流してるじゃないですか!」


「これは猫ちゃんの下着がサテンの赤だからだよ、ねっ♪ 猫ちゃん!」


男は顔を横に傾けながら美晴の後ろにいる女性に視線を送った。


「ね、猫ちゃん?」


「申し遅れました、私は名取名義販売事務所の事務員、猫山ニーナと申します」


猫山はそう言って頭を下げて、お椀にお茶を注いだ。


「この方はこの名取名義販売事務所の代表取締役、名取カイトです」


「えぇっ!?」


この男が、代表!?


美晴は目を疑った。


「なに、もしかして依頼人?」


美晴は心の底から後悔した。


自分で解決すればよかったと―――

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