菊原慶介の人生②
気配が全くしなかった。
え、いたの?
美晴は思わず大声を出した。
「きゃぁ!!!!!」
振り向くとそこには綺麗に整理整頓された机でパソコン作業をしている女性がいた。
見たところ10代か?
物凄く若い風貌だが、
とても分厚い丸眼鏡のせいで目が見えない。
喪服かと間違えるほどの黒スーツにチラッと見える白いカッターシャツから覗くはちきれんばかりの胸。
髪も黒髪の長い髪でおさげのツインテール。
ちょこんとしている感じがとても愛らしいが、
不愛想で、それ以降何も言葉を発しない。
「あ、ごめんなさい驚いてしまって」
「……」
「あの~、ここは名取名義販売事務所だと思うんですけど……」
「……」
「え? ここは名取名義販売事務所ですよね?」
「質問はこちらがしています」
「はっ?」
「私は先程『ご用件は?』と尋ねました。にも関わらず、『驚いてしまった』は質問の趣旨から外れています。質問に答えてください」
こっちには視線を送らず、パソコンをカタカタと音を立てながら作業をしている。
もしかしてこの人がそうなのか?
美晴は気を取り直して、少し強めの口調で話した。
「実は名義を販売していると聞いてお尋ねしました。名前を……」
美晴が話し終わるより先に、女性が話に割って入る。
「かしこまりました、それではそちらのテーブルにお座りください」
女性は左手で目の前の広めのテーブルを指した。
状況が理解できぬまま、美晴は恐る恐るソファに腰を掛ける。
もしかしてとんでもない所に来てしまった?
美晴は少し後悔した。
こんなことなら自分で何とかすればよかった。
美晴が腰を掛けると、
女性は立ち上がり、まるでロボットのようにキッチリとした動きで棚に向かうと、
棚から茶葉を急須に入れて、お椀を用意して美晴の前にお椀を置いた。
「あ、ありがとうございます」
「ふ~ん、白か……」
今度は男の声だ。
何処から?
美晴は周りを見渡したがどこにもいない、
けど絶対声がしたはず……。
「あの~、今男性の声がしたと思いますけど」
「いますよ、あなたのテーブルの下に」
「はぁっ!?」
美晴はバッと勢いよくテーブルの下を覗いた。
そこには男が鼻から血を流していた。
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