菊原慶介の人生①
犬飼美晴はボロボロの事務所の前に立っていた。
東京のとある場所、人通りの多い時間だが寂れた雰囲気を醸しているのか、
周りを見渡してもそれほど人を見かけない。
シャッターが下りてる店がいくつも存在する、
ここはいわゆる『シャッター街』と言われるところだろう。
「ここ……であってるよね?」
美晴はアイフォンの地図アプリを使って『名取名義販売事務所』の前で何度も地図を確認した。
彼女は正義感の強い女性だ。
警官になってからもそれは変わらずだった。
それは時に上司にウザがられ、同僚からは暑苦しいとまで言われた。
それでも彼女は信念を曲げなかった。
正義は正しいと信じて生きてきたからだ。
今回の依頼人の件もそうだ。
彼は悪いことは何もしていないのにSNSで誹謗中傷を受け、
酷い目に遭っている、
せめて彼がこれからの人生を明るく過ごせるのなら、
できることはしよう!
肩まである黒髪をヘアバンドで後ろにくくり前髪を両耳にかける。
グレーのスーツのしわを少しずつ手で伸ばし、
少し厚めのヒールの汚れが無いかを確認した。
両手で頬を叩き気合を入れる。
「よし! 行こう!」
目の前の事務所は2階建て、
下にはアパレルショップらしき店が入っているようだが、既に中はもぬけの殻のようだ。
店の横には階段がつけられており、そこから上にあがると『名取名義販売事務所』に繋がっている。
美晴は階段を上り、事務所の前に立つ。
そこには小さく『名取名義販売事務所』と書かれている。
恐る恐るドアノブを回す。
ガチャっと昔ながらの音をたて、ギィッと金属の嫌な音が響いた。
中は電気がつけられていない。
窓から入る光で全貌は確認できるが、
分かるのは客を迎えるための大きめのテーブルと向かい合っているソファ、
奥には事務所の社長が使っているであろうグチャグチャの机と、
横にはお茶を入れるためのポットやお椀などが棚に収められている。
意外と普通だ……。
美晴は一瞬そう思った。
「ようこそ、名義販売事務所へ、ご用件は?」
突然右から女性の声がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます