第39話

歩いていると、突然後ろから腕を引っ張られた。


「やっと見つけた」

驚いて振り向くと、そこには海斗が立っていた。


「っ、海斗、」


会いたいけど、会いたくなかった人が目の前に。

心の中で複雑な感情が渦巻いていた。


「お前、今までどこに隠れてたんだよ」


海斗の声には苛立ちが混じっていた。


言い訳を考える余裕もなく、頭も回らない。


トイレであれだけシュミレーションしてたのに。

私の一週間は一体なんだったんだ。


「別に隠れてなんか…」

私は視線を逸らしながら答えた。


「一週間も連絡無視してたくせに」

海斗の声がさらに強くなった。


言い訳…言い訳…何かまともな言い訳…。


「黙ってないでなんとか…」


適当に理由でもつけて立ち去ろうとした時、ふらついて、思わず海斗に寄りかかってしまった。


「おい、どうした大丈夫か?」

海斗の心配そうな声が響いた。


「ご、ごめん、」


私は急いで離れようとした。


だけど、体が思うように動かなくて、再び海斗に寄りかかってしまった。


「おい、しっかりしろ」

海斗の声がさらに心配そうになった。


「最近眠れてなかったからかな、体が上手く動かないや、」


私は力なく答えた。


「保健室行くぞ」

そう言って私の肩に手を置いた。


「一人で行けるから」

私は弱々しく反論し、海斗の手を振りほどこうとした。


「いいから。じっとしてろ」

海斗の声には強い意志が感じられた。


今は抵抗する力は残っていなかった。


大人しく海斗の腕に支えられながら、私は保健室へと向かった。


優しくされたら…


離れるのが辛くなるだけなのに。


保健室に到着すると、先生が心配そうな表情で迎えてくれた。


「雫ちゃん…、?どうしたの?」


「雫の体調が悪そうで、熱があるかも」

海斗が私の代わりに説明してくれた。


先生は私の額に手を当てて、体温を確認した。


「確かに少し熱があるみたいだね。体温計で測ってみようか。座れる?」


私は椅子に座り、体温計を測り始めた。


しばらくして、体温計が37.8度を示した。


「37.8度…少し高いね。お家の人に迎えに来てもらった方がいいかもしれない」


お家の人…


「両親は共働きで、すぐには来られなくて…私一人でも帰れます」


お父さんもお母さんもいつも8時にならないと帰ってこないし、今ならまだ一人で帰れるだけの気力は残ってる。


「そんなのダメダメ」

先生が優しく言った。


「俺が家まで送る」

海斗がすぐに申し出た。


今日はやけに優しい。


「海斗は授業があるでしょ」


そうだよ。

これ以上、迷惑はかけられない。



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