第37話


「純怜ちゃん、大丈夫…?」


驚いて顔を上げると、心配そうな表情の先生が立っていた。


今は会いたくなかった。


昨日の今日で気まずかったから。


「先生、」


心の中でそう思いながらも、言葉にはもちろん出さなかった。


まぁ、でも確かに、早いうちに謝らないとって思ってたからちょうど良かった。


「土曜日はごめんね」


先生の言葉に、私は一瞬戸惑った。


「え?」


急に帰ったりして、むしろ謝らないといけないのは私の方なのに。


なんで私が謝られてるんだ…?


「ごめんね、私達のせいだよね」


「なんで、そう思うんですか、」

先生の言葉に驚き、思わず問い返した。


「海斗に彼女が出来たことが嬉しくて、ついはしゃいじゃって。雫ちゃんのことも考えずに勝手に盛り上がってた」


確かに、疎外感はものすごく感じたけど、それだけじゃない。


先生のせいじゃない。


ただ、私が、、


「先生のせいじゃないです、ただ急用を思い出しただけで、」


勝手に浮かれて、傷ついて、こんな自分が馬鹿みたいで。


逃げ出した。


先生が負い目を感じる必要なんてない。


「ほんとに?私たちに気を使ってるとかじゃなくて?」


「ほんとです」


先生の問いに、私は必死に微笑んでみせた。


「ほんとのほんとに?」

「ほんとのほんとです」


「よかったぁ」

先生がほっとした表情を見せた。


「心配おかけしてすみません、」


まさか先生がそんなふうに思ってたなんて、思ってもみなかった。


「謝らないでよ」

先生の言葉に、私は少しだけ心が軽くなった。


「すみません、」


頭を下げたけど、心の中ではまだ重いものが残っていた。


「じゃあ海斗とも喧嘩してないんだよね」


喧嘩は…


「…してないです、」

視線をそらしながら答えた。


あれは、喧嘩ではない。


私が拗ねて怒ってるだけ。


私ってほんと子供っぽいなぁ。


「じゃあさっきはどうして暗い顔して歩いてたの?」


「それは、」

痛いところをつかれた。言葉に詰まった。


「やっぱり海斗のこと?」


「それは、、」


どうしよう。


海斗と揉めてるって知られたら、また自分のせいだって気にしちゃうはず。


「まぁ、学生さんだし、勉強のこととか色々大変なことあるもんね」


先生が鈍感でよかった。


「そうなんですよ、」

私はほっとしながら答えた。


「そっか、」

先生が微笑んだ。


「はい、」

私は微笑み返した。


「なんかあったら話聞くから、いつでも保健室来ていいからね」


「はい。ありがとうございます、」


感謝の気持ちを込めて微笑んだ。


心の中ではまだ整理しきれない感情が渦巻いていた。

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