第34話

「美味しかったね」

「そうですね、」


話についていけなくて、パスタの味がしなかった。


心ここにあらずの状態で、ただ口に運んでいただけだった。


海斗と一緒にいるのに、まるで一人で食事をしているような気分だった。


「この後は何するの?」

「別に終わりだけど」


海斗が淡々と答えた。


期待はしてなかったけど、やっぱりそうだよね。


少しでも特別な時間を過ごせると思っていた自分が馬鹿みたいだ。


「えぇ?せっかく休日に会ってるのにご飯食べて終わり?」

「別に学校でも会ってんだから」


休日に会う特別感なんて、海斗はないよね。


私にとっては特別な時間なのに。


学校で会うのとは違う、私服でのデートがどれだけ楽しみだったか、海斗には分からないんだろうな。


いや、そもそもデートだって思ってもないか。


「だからだよ。制服じゃなくて私服で会うのに意味があるんだから」


海斗もお兄さん思考ならどれだけ良かっただろう。


「わっかんねぇ」


私は心の中でため息をついた。


海斗の無関心さに、胸の奥がチクチクと痛んだ。


海斗は服とか悩まなかったんだ。


私は、何日も前から悩んで悩んで…海斗に少しでも良い印象を与えたくて、何度も鏡の前で試行錯誤したのに。


「服、結構悩んだんだけどな、」

私は小さな声で言った。


自分の努力が無駄だったように感じて、悲しさがこみ上げてきた。


「もう、ほら雫ちゃん落ち込んじゃったじゃん」

先生が気を使って言った。


「そんなの気にすることないだろ。服なんてどうでもいいんだから」


その言葉に、私は凍りついた。


彼の無神経な一言が胸に突き刺さった。


悩んだって言ったのに、どうしてそんなことが言えるの?


私の気持ちなんて全く考えてくれてないんだ。


心の中の何かが切れたような気がした。


「…もういいよ」


私はゆっくりと立ち上がり、バッグを手に取った。


もうこれ以上ここにいたくない。


「は?どこ行くんだよ?」

「帰る」


「は?なんで」


「ご飯食べて解散だったんでしょ?だったらもういいじゃん」


「ちょっと待てよ、雫」

海斗が慌てて立ち上がり、私の腕を掴んだ。


「放して」


私は冷たく言い放ち、その手を振り払った。


いつもは手が触れるだけでもドキドキするのに、今日は何も感じない。それどころか…


「なんでそんなに怒ってるんだよ?」


海斗は困惑した表情を浮かべた。


「なんでって…」

私は言葉に詰まり、涙がこぼれそうになるのを必死にこらえた。


「もういい、話したくない」


私はそのまま店を出た。


涙がこぼれないように、必死に前を向いて歩いた。


こんな予定じゃなかったのに。


誕生日だって祝ってあげたかったし、

プレゼントを渡して喜んでもらおうと頑張って作ったのに…


あ、プレゼント渡せなかった。




無駄になっちゃったなぁ。

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