第33話

「オシャレなところだね!」

お兄さんは店内を見るなり大はしゃぎで、


「へぇ、海斗がこんな店知ってるなんて」

保健室の先生が感心して言った。


むしろ海斗はおしゃれな店しか知らないと思ってたけど、


「俺の事なんだと思ってる訳?」

海斗が少し不満そうに答えた。


「可愛い弟みたいに思ってるよ」

「弟ねぇ、ま。別にいいけど、」


海斗が一瞬悲しそうにしたのを、私は見逃さなかった。


どうしてそんな顔、


そんなのまるで…いやいや、まさかね。


「うわぁこのトマトパスタすっごく美味しそう。このピザも美味しそうだし」


なんか、やっぱり翔くんに似てるなぁ。


「慎二くん落ち着いて」


保健室の先生がお兄さんをなだめた。


「ごめんごめん、」


「ほんっと兄ちゃんて美味いものに目がないよな」


なんて、海斗が呆れて言う。


「お恥ずかしい」

「そうそう。この前デート行った時もね、」


三人の会話に、私はただ黙っていた。


なんか、私だけ蚊帳の外って感じ…

話についていけない。私は少し寂しさを感じた。


「雫、何食べる」


そんな私に気づいたのか、海斗が声をかけてくれた。


「えーっと、このカニのトマトクリームパスタかな、」


私はメニューを見ながら答えた。


「了解」


「海斗は?」

「俺はミートスパゲティ」


クリーム系が好きだと思ってたけど、意外だな。


「出た。海斗ってちっちゃい時からミートスパゲッティ大好きだもんね」


へー。

私が勘違いしてただけか。


「兄ちゃんうるさい」

「なんでだよ!」


その後も昔の海斗の話をして、知らない海斗を知れて嬉しい反面、海斗のことなんにも知らないんだなって、悲しい気持ちにもなった。


考えてみれば、わたしほんとに海斗のことなんにも知らないんだな。


海斗は私のことをただの便利な偽彼女としか思ってないから、自分のことは何も言わなくてもいいと思ってるんだろうけど。


私は…。


やっぱり、片思いって、悲しくて寂しい。


「お待たせいたしました〜」


わぁ。すごくいい匂い。


「美味しそう、いただきます」

私は料理を見て、少しだけ元気を取り戻した。


「雫?」

「ん?」


海斗の声に、私は顔を上げた。


「なんか元気ないけど、大丈夫か?」


彼の心配そうな顔に、私は少しだけ安心した。


私を放ったらかしにするつもりはなかったんだ。


「元気なくないよ」

私は無理に笑顔を作った。


「俺のと変える?」


パスタが美味しくないから元気ないと思ってるんだ。


そんなんじゃないのに。


「あ、いや、美味しいよ」


「なら良かった」


鈍感なんだか鋭いんだか。

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