第32話


「ひとりじゃ心細いか」


「うん、」

彼の言葉に、私は素直に頷いた。


「じゃあ行くか」

そう言って、手を繋いでくれた。


心細さが少しだけ和らいだ気がした。


海斗の手を握り返し、私は彼についていった。


海斗の手の温もりが心強かった。


「人気の洋食店があるから」

「洋食店?」


海斗って洋食好きなんだ。


「雫、洋食好きだろ?あの時も美味しそうに食べてたし」

「あの時?」


あの時っていつ?


「いや、なんでもない」


海斗と初めて二人で遊んだ時、パスタを食べたことを思い出した。


そのことを覚えてくれていたんだ…


「あ、海斗!」


突然、保健室の先生の声が聞こえてきた。


驚いて振り返ると、隣には男の人も一緒にいた。


「え、なんでここにって兄ちゃんまでいるのかよ」


海斗のお兄さん…?


うわぁ。


兄弟三人とも、どうしてこうも顔が整っているんだろう。


如月家のDNA…恐るべし。


「デート?」

先生の言葉に、私は顔が赤くなった。


「別にそんなんじゃ、」


そう言って海斗は私の手を離した。


「またまたそんなこと言ってぇ〜」

先生はその事に気づいてないみたいだった。


「初めまして。僕は海斗の兄の慎二です」

そう言って手を差し伸べてきた。


「は、初めまして、雫です」


緊張しながらも、私は彼の手を握り返した。


「あぁ、君が雫ちゃんか。海斗からよく話を聞くよ会えて嬉しいよ。」


多分海斗からではなく、主に翔くんからだろう。


「そ、そうなんですね」


海斗のお兄さんって二人ともフレンドリーなんだなぁ。


「二人はどこに行くところだったの?」

「えっと、ご飯を食べに、」


「そうなんだ!ちょうど良かった。僕たちもご飯を食べよって話してて。良かったら一緒に」


「ちょっと慎二!ごめんねぇ、聞かなかったことに」

先生が気を使ってお兄さんの言葉を遮った。


デートの邪魔をしたら駄目だとか思ってるんだと思う。


デートじゃないのに。デートじゃなかったのに。


「別にいいけど」


海斗の言葉に、私は胸が締め付けられる思いだった。


海斗が私と二人でいることにこだわっていないことが分かって、心が痛んだ。


「え、、いいの?雫ちゃんと二人で…」


「いいよな雫」


そんな聞き方されたら嫌だなんて言えない。


それに、海斗の誕生日なんだから、いたい人と一緒にいればいい。


私と二人きりはつまらないみたいだから。


「うん、」


彼の目を見つめながら、私は頷いた。


本当は海斗と二人でいたかったのに、海斗がそう思ってくれていないことに傷ついた。


勝手に勘違いして、傷ついて、馬鹿みたい。




もう、なんか、どうでもいいや。

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