第30話
気のせいだよね、誰かに身体、触られてる、かも。
怖くて、声が出ない...
このままだとスカートの中に手が、必死の思いで、海斗の腕を掴んだ。
「ん?」
...お願い気づいて。
海斗の顔がぼやけて見えるから、多分、涙目なんだと思う。
「...おい、俺の女に触ってんじゃねーよ」
彼の口の悪さに驚くよりも、"俺の女"と言われたことに驚いた。
こんな時にキュンとしてる場合じゃないんだろうけと。
そして、
「な、なんだ!大人に向かってその口の利き方は!最近の若者は言葉遣いがなってないんじゃないか!?」
痴漢したのは向こうなのに、逆ギレをし始めた男の態度にはさらに驚かされた。
すごく怖かったけど、海斗が私を背中に隠してくれた。
その瞬間、少しだけ安心感が広がった。
海斗の背中越しに見える男の顔は怒りに満ちていた。
だけど海斗は冷静に、そして挑発的に笑いながら言った。
「電車で痴漢するような奴が大人なわけ?最近の大人はそうなんだ。へー、なら俺は大人になんてなりたくねーわ」
普段から人を煽るのが得意な海斗の言葉は、この場面で一層鋭く響いた。
今まで伊達に人のことを煽ってたわけじゃいんだ。まさか海斗の煽りがこういうところで役に立つなんて。
私は彼の強さに感謝しつつも、その場の緊張感に飲み込まれそうだった。
急に暴れだして海斗に被害を加えようとしたらどうしよう。
その事ばかり考えてた。
海斗が私のせいで怪我をするのは嫌だ。
「なっ、」
男が言葉を詰まらせると、海斗はさらに追い打ちをかけるように続けた。
「取り敢えず次の駅で降りてね」
駅員さんに引き渡されるのを恐れたのか急に怒り出した。
「俺はお前らと違って忙しいんだ!」
何よその言い訳…
もっとまともな言いわけないのって、
痴漢してる時点で言い訳も何も無いか。
「痴漢してる時間あるんだから、大丈夫ですよね」
周りの人々もクスクスと笑い出し、私は少しだけ肩の力を抜くことができた。
「いい歳して痴漢とか恥ずかし」
「こんなやつに、最近の若者はとか言われたくねーし、大人の恥だな」
と周囲の声が聞こえてきた。
男は恥ずかしくなったのか、諦めたのか、急に大人しくなった。
海斗の背中越しに見える男の顔は、今や怒りから羞恥に変わっていた。
周囲の視線が彼に集中し、彼は次第に居心地の悪さを感じているようだった。
私の心は少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。
電車が駅に到着すると、男は急に走り出した。
だけど、
「おっさん逃げてんじゃねぇよ!」
「くそっ!」
海斗の足の速さには勝てなかったみたいで、あっさり捕まっていた。
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