第26話


「んえ?」


私は驚きと戸惑いの声を上げた。


心臓がドキドキと高鳴り、海斗の言葉の意味を必死に理解しようとした。


"焦った"


その言葉が頭の中でぐるぐると回り、どうしてそんなことを言うのか理解できなかった。


海斗の言葉が信じられず、ただ立ち尽くしていた。


「いや、なんか避けられるようなことしたかなとか、色々考えたんだからな」



彼の言葉に、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がした。


バレないように、自然に振舞っていたつもりだったのに。気づかれていたなんて。


「ご、ごめんごめん」


私は慌てて謝った。


なんだ。


ただ都合のいい偽カノを失うのが嫌で焦っただけか。


少しだけ、期待していた自分が恥ずかしくなった。


「てか翔は?」


「あー、なんか邪魔するのも悪いからって帰って行ったよ」


試合が終わるなり、じゃあ先に帰るねー!と言って颯爽に去って行ったのを思い出した。


翔くんの気遣いに感謝しつつも、今はあんまり二人きりで痛くないのにと思ったり思わなかったり。


「なんだそれ」


海斗が軽く笑いながら言った。


「気にしなくてもいいのにね。ま、翔くんらしいけど」



私は微笑みながら答えた。


翔くんのそういう優しいところが好きだった。


「…残念だったな」


海斗がぽつりと言った言葉に、私は驚いた。


「え?」

思わず聞き返した。


「翔と帰れなくて」


そうだ。


海斗はまだ私が翔くんのことを好きだと思ってるんだ。


「別に、残念じゃないよ」



心の中では、海斗と一緒にいられることが嬉しかった。


「え?」

驚いた顔をしている。


「きょ、今日は結構一緒にいれて満足だから。それにほら、あんまり長く一緒にいると心臓もたなくて」



私は照れたふりをしながらそう言った。


危ない。


海斗にバレるところだった。


"あんまり一緒にいると心臓がもたない"

私なりの海斗に対するメッセージだ。


心臓がバクバクして、顔が赤くなるのを感じた。彼に気持ちがバレたらどうしよう。


海斗の反応を知るのが怖くて、海斗が何か言う前に、私は話を続けた。


「いやぁ。でも、本当に逆転勝ちしちゃうなんて。さすが海斗だよね」


私は笑顔を作りながら言った。


「負けてんじゃないわよ。だっけ?」

なんてバカにしたように言ってくるから


「もう!人がせっかく応援してあげたのに!」

そう言って海斗の肩にパンチをお見舞してやった。


私がどんな気持ちで応援してたか知らないくせに…!



「冗談だって。お前がいたから頑張れた」

海斗が少し照れたように言った。


その言葉に、私は一瞬息を呑んだ。



彼の真剣な眼差しが私の心を揺さぶった。

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