第25話

海斗の温もりを感じながら、私は一瞬、時間が止まったように感じた。


周りの歓声や喧騒が遠くに聞こえ、ただ海斗の存在だけが鮮明に感じられた。


「か、海斗…?」


なんで、私いま抱きしめられて…


「ありがとう、お前が喝入れてくれたおかげ」

海斗が耳元で囁いた。


その声は、試合中の緊張感とは対照的に、優しくて温かかった。


「うん」

私は少し照れながら答えた。


顔が赤くなるのを感じた。


だけど、彼の笑顔を見ていると、そんなことはどうでもよくなった。


もう少しこのままでいたい。

そう思ったけど、


「海斗ー!コーチが呼んでるぞー!」

チームメイトの声が響いた。


海斗は私の肩を軽く叩き、

「待ってて」と言った。


その言葉に、私は力強く頷いた。


その後、チームメイトたちが海斗を囲み、勝利の喜びを分かち合った。


私は少し離れた場所からその光景を見守りながら、彼の頑張りを誇りに思った。


試合後、夕焼けが空を染める中、私たちは並んで歩いた。


彼の隣にいるだけで、心が温かくなった。


「海斗大活躍だったね」

「まぁな」


「最初から見たかったなぁ」


まぁ、自業自得なんだけど。


「昨日なんで電話出なかったんだよ」


問いかけられた瞬間、私は胸がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。


海斗の声には少しの不安と疑問が混じっていた。


「ごめん、寝ちゃって、」

と私は焦りながら答えた。


「何回もかけたんだぞ」

「ごめん、」


「てか、お前の顔ちゃんと見たのも久しぶりになんだけど?」


海斗の言葉に、私はさらに緊張した。


視線が私に向けられているのを感じ、顔が赤くなるのを抑えられなかった。


「そうかなぁ、私は別に久しぶりって感じじゃないけど、?」


言葉が詰まって、思わず視線をそらした。


「最近俺の事避けてただろ」

と海斗が直球で問いかけてきた瞬間、私は心臓がドキッとした。


頭が回らなくて、言い訳が思いつかなかった。


「えっ、いやぁ、そんなわけ、、」

必死に否定しようとしたが、声が震えてしまった。


心の中では、気持ちが溢れ出しそうになっていたけど、本当の気持ちを伝える勇気がなかった。


「正直に言って」


正直に…


「…サッカーに集中してもらおうと思ったから、です」

と、私は小さな声で答えた。


ホントのことなんて言えるわけない。


好きになったことがバレてしまったら、この関係は終わってしまう。


偽りの関係でも、海斗の傍にいれるならなんでもいい。


「は?それだけ?」

「…うん、」



海斗は深く息をつき、少し笑みを浮かべた。




「んだよ、それだけかよ。焦った…」

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