第21話

私は走り続けた。心臓がドキドキして、頭の中が混乱していた。


海斗の言葉が頭の中で何度も繰り返される。

"仮にも彼女なんだし"


その言葉が胸に刺さる。


家に着くと、私は玄関で立ち止まり、深呼吸をした。


心を落ち着かせようとするけど、海斗のことが頭から離れない。


「どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう…」


自分に問いかけても、答えは見つからない。


私はリビングに入り、ソファに座った。


心の中のざわめきが収まらない。


その時、スマートフォンが鳴った。画面を見ると、海斗からのメッセージだった。


「ちゃんと家に着いたか?」


その一言に、どうしてか涙がこぼれそうになった。


彼の優しさが、私の心をさらに揺さぶる。


「うん、着いたよ。ありがとう」

そう返信すると、すぐに返事が来た。


「無理するなよ。何かあったらすぐに言え」


「ありがとう、海斗」


心の中でそう呟きながら、私はスマートフォンを握りしめた。


彼の優しさに感謝しつつも、自分の気持ちを隠し続けることの辛さに耐えなければならない。


その夜、私はベッドに横たわりながら、海斗のことを考えていた。


彼の優しさや気遣いが、私の心を温かくする一方で、契約カップルという現実が私を苦しめる。


"本気で惚れたりするなよ"


彼の言葉が頭の中で何度も繰り返される。


私はその言葉に縛られて、自分の気持ちを隠し続けなければならない。



だけど、隠せる自信がない。



明日からどうやって顔を合わせれば…




作戦を練らないと。



作戦その1


友達に相談す…


そうだ私友達いないんだった。


作戦失敗



作戦その2


変な雰囲気になった時に、話題を変える。


放課後、教室に一人残り音楽を聴いていると


「雫」

「海斗、今から部活?」


「そう。お前は何してんの」


「日誌書いてたの」

「ふーん。何聞いてんの?」


「洋楽。海斗知らないと思うよ?」

「貸して」


そう言うと、私の右耳につけていたイヤホンを取って自分の耳にはめた。


無線イヤホンだからか、いつもより海斗が近く感じる。


ち、近い…


心臓がドキドキして、顔が赤くなる。


「ぶ、部活ー!行ってきなよ!!」

「びっくりした…急に大声出すなよ」


作戦失敗



作戦その3


自分の時間を大切にすること。


とりあえず、海斗のことを考えないように、他のことに没頭する。


ひたすら絵を描き続けた。


海斗との契約が始まってから、あまり描けていなかったからちょうど良かったのかもしれない。


「雫ちゃん」

「あ、こんにちは」


「こんにちは。最近よく会うね」

「ですね、」


「絵、描いてるの…あ、海斗だ」


無意識に、海斗を観察して描いてた。


作戦失敗



作戦その4


自分を励ます。


毎日、自分にポジティブな言葉をかけることで、前向きな気持ちを保つ。


「大丈夫、私は強い。海斗の前でもいつも通りの私でいられる」


鏡の前で自分に言い聞かせる。


「おい、鏡の前で何やってんの」

「おっふ…」


「は?」


駄目だ。

全く意味ない。


これも作戦失敗。


もうこれ以上作戦は…



仕方がない。


奥の手を使うしかないか。

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