第13話

「毎日遅くまで練習してたんだね」


何にも知らなかった。

これでも、彼女なのに。


私は、海斗のことをよく知ろうとしていなかったのかもしれない。


「部活自体は六時までだけど、自主練は八時までできるから」


「へぇ」


私はそんな時間まで学校に残ったことなかったな。

別に、待っててって言うなら残ってあげなくも…


いやいや、早く帰れるに越したことはないだろう。


「まぁ、朝練もあるんだけど」


「朝も…大変じゃん」


すごい。

授業の時以外、常にサッカーを…


「別に?好きだから平気」

「サッカーほんとに好きなんだね」


「まぁな」


夢中になれるものがあるって


「いいなぁ」


「何が?」


口に出てたか、


「いや、何かに本気になれることって凄いことだなと思って」


私にはそんなものないから。


「いや、お前にもあるだろ」

「私にも…?」


私には何も…


「絵、好きなんじゃないの」

「絵…?好きだけど、」


「よく描いてるじゃん。まぁ、主に翔だけど。たまに景色とか描いてるのも見るけど」


絵は確かに好きだけど、


「そんなに上手くないから」


夢中になるには程遠いっていうか、

そこまで本気になれてないというか、

小っ恥ずかしいというか、


「…は?」

「え?」


それはどういう反応なんだ?


「充分上手いだろ」


まさか、海斗の口から褒め言葉が出てくるなんて


「いやいや、私より上手い人なんてこの世の中には沢山いるから」


上手くないのに、本気だなんてそんなの恥ずかしいじゃん


「んだそれ。そんなこと言ったら俺だって、自分より上手いやつ沢山いて悔しい思いも死ぬほどしてきた。だけど、楽しいだろ」


「楽しい…」


確かに、絵を描いている時は嫌なことも忘れられる


「どんなことがあっても、楽しいと思えることが大事だと思うけど。それが本気って事じゃないの?」


「…そうかも」


本気になってしまったせいで、嫌なことがあったとしても、結局楽しい。


周りと比べて自分の実力不足を痛感するけど、それでも楽しい。


「それに、本気になれるものが必ずしも得意なものじゃなくてもいいだろ。ただ好きでしてる事だし、そこに意味があるんだから」


楽しければ、そこに、上手いも下手も関係ない。


なんか、珍しく良いこと言ってる…


「うん。海斗の言う通りだわ。じゃあ、送ってくれてありがとね」


いつもはそうでもなかったけど、今日は何故か時間があっという間に過ぎて、もう家の前だ。


お礼を言って家に入ろうとした時、


「なぁ」


珍しく呼び止められた。


「ん?」


「お前はさっき自分よりも上手い奴なんか山ほどいるって言ってたけど、俺は…今まで見た絵の中で一番上手いと思ったから」


「え、それって」


慰めてくれてる…?


「だから、お前の絵が好きだって言ってんの!そんだけ。じゃあな!」



このドキドキは…


絵を褒められて嬉しかったからなのか、



それとも…

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