第12話


「今度、試合行くから見に来て」


朝一で話しかけてきたと思ったら、試合?

誰の、なんの試合だ?


「試合?なんの?」


「サッカーに決まってんだろ」

「サッカー?」


サッカー好きなのか?

一緒に見に行こうってこと?


「は?もしかして俺がサッカー部だって知らない?」


こいつサッカー部だったの?


いや、知らねぇよ。逆になんで知ってると思った。


「知らないよ」


「お前なぁ。彼氏の部活ぐらい覚えとけよ」

そんな呆れられても、興味無いんだから仕方ないでしょ。


「じゃあ私が、何部か分かる?」


「帰宅部だろ」

「正解!」


なんで知ってるんだ。


まぁ、こいつの部活終わるまで、何もせずに教室で待ってるんだから、分かるか。


「どうでもいいけど、絶対来いよ」

「えぇ、暑いのに」


炎天下の中、サッカーをしてる所を見ると、こっちまでしんどくなる。


「なんだその理由。彼氏の試合を見に来ない彼女がどこにいるんだよ」


「だってぇ」

それはそれ、これはこれじゃんか


「雫ちゃん!」

「あ、翔君」


「あ、海斗。ちょうど良かった。雫ちゃん海斗の試合見に行くよね?」


「えーっと『行くって』」


ちょっと、言い訳考えてたところなのに!

まさかの強制参加?


契約にそんなのなかったのに。


「良かった!じゃあ一緒に行こうよ!」


翔君と休日も会えるってこと…?

実質デート…


試合に出てくれてありがとう海斗。


「いいんですか!?やったー!」


あ、つい本音が。


「ん?もちろん。ふふ、そんなに喜んでくれると思わなかったよ」


笑った顔もかっこかわいい。


「一緒に行く人いなくて探してたところだったので、つい…」


危ない危ない。


「そうだったんだ。海斗も珍しく試合出るって張り切ってたよ」


「余計なこと言わなくていいから」


意外と可愛いとこあるんじゃん。


「そうなんですね」

「頑張って応援しようね」


「はい!」


いつも一緒に帰ってるけど、試合が終わるまでは遅くなるそうで、暫くは一緒に帰れないと言われた。


私としては、部活が終わるまで待たなくていいから嬉しいけど…



一人で歩く帰り道が、こんなにも寂しかっただろうか。



今日も、先に帰る予定だったけど、


「雫さん、ちょっと手伝ってくれないかな」

お爺ちゃん先生に、ファイルの整理を頼まれた。


他の先生なら断れるのに、この先生だけは断れないんだよなぁ。


そして、気づいたら7時。


こんな時間まで学校に残ったのは初めてだなぁ。

そう思いながら外に出た時、


海斗…?



海斗の姿があった。


こんな時間まで残って練習してるんだ。


あ、…目が合った。


「お前、今から帰んの?」

「そうそう。ちょっと先生に雑用頼まれちゃって、気づいたらこんな時間になってた」


「俺も帰る。着替えてくるから待ってて」


久しぶりに一緒に帰れる。


嬉し…


いやいや。違う。




一人で帰るのは退屈だから。


他に理由なんてない。

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