第9話

「雫ちゃん!」


廊下を歩いていると、後ろから声をかけられ、振り向くとそこには翔君がいた。


「あ、翔君」


私のために走って来てくれるなんて。


「ごめん!」


「え…?」

謝られることなんて何も…


「海斗から聞いた。雫ちゃんが怖い目に遭ったって。その傷も俺のせいで…ほんとごめん」


そんなに謝られたら、こっちが申し訳なくなる。


「翔君のせいじゃないよ」


あいつ余計なことを…


「女の子の顔に傷なんて、」


「痕は残らないって保健室の先生が言ってたから、心配しないで」


私のために心配してくれる姿を見れただけでも、得した気分だ。


「保健室…ってことは、美波ちゃんとも会ったんだね」


美波ちゃん…?

先生のことを名前で呼んでるの?


「仲良いいの?」

「家が近所で昔から仲良くしてもらってるんだ」


あぁ、そういうこと。

どうりで仲がいいと思った。


「そうなんですね」


「それに、兄のお嫁さんだしね」

「え…?兄って…」


「あれ、言ってなかったっけ。俺たち三人兄弟なんだ」


「聞いてないです、」

海斗は、私に自分の事を何一つ話そうとはしてくれない。


「今月結婚するんだよ」

「そうなんですね、」


「おい、雫」


「海斗…」


今先輩と話してたのに


「探したんだぞ」

「ごめん、」


休み時間にどこ行こうが、私の勝手でしょ


「またそんな言い方して。そんな冷たい態度取ってたら、いつか雫ちゃんに捨てられるぞ?」


「は?俺が、雫に…?」


何?そのバカにしたような笑みは。そんな顔でこっちを見るな。


「その自信はどこから湧いてくるんだか」


この関係がバレて困るのは私。


海斗は私から離れるなんて、そんな馬鹿なことしないって確信してる。

事実だから何も言えない。


「ははは、」


笑うしかない。


「もしかして脅されてる?なんてね」


冗談で言ったんだろうけど、実はそうなんですよね…


「え、そ、そんなわけないじゃないですか」


「何かあったらいつでも言うんだよ?俺が叱ってあげるから」


「ありがとうございます」


私はただ翔君に嫌われたくない。


「ところで雫ちゃんに美波ちゃんの話をしてなかったんだな」


「別に必要ないと思って」


必要ないねぇ。まぁ確かにそうなんだろうけど。


「必要ないってお前…。雫ちゃん、ほんとこんなやつの何が良かったの?」


「ははは…」


いい所…残念ながらひとつも思い浮かばないや


「じゃ、おじゃま虫はこの辺で」

「おじゃま虫だなんて、」


おじゃまなんかじゃないのに…むしろメインなのに。


「よく分かってんじゃん」


「ったく、ほんと可愛くないなぁ。じゃあ、またね雫ちゃん!」


「はい」

あー、行っちゃった

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