第3話
私が、海斗と付き合ってるという噂が回ったのはあっという間だった。
さすが王子様。
…偽だけど。
漫画でよくある今日からお前の席ないから的ないじめはなかったんだけど、みんな私の陰口を言うようになった。
あんな奴、海斗の隣に似合わないんだよとか、身の丈考えろよとか。
そんなの自分でも分かってる。
ぼっちで部屋の片隅にいるような私だもん。
まぁでも。裏でコソコソ人の悪口言ってるあんたらみたいなのよりかは?私の方がお似合いだと思いますけどねー。
なんて、喧嘩になりそうだから言わないけど。
そもそも好きでこんなことしてるんじゃない。
私だって翔先輩と…なんて無理だってことぐらい分かってる。
話した事も、それどころか、私の存在を知ってるかすら危ういのに。
それなのに、どうして私の目の前に先輩が立ってるんだ?幻覚か?
「君が雫ちゃん?」
喋った…
「は、はい」
ってことは本物!?
何?私今日死ぬの…?
「あ、そっか僕のこと知らないよね」
知らないわけないじゃないですか!
「翔先輩…ですよね、」
「あ、なんだ知ってくれてるんだ」
もちろんです!
「はい」
「海斗から聞いたよ」
「…へ?」
私が翔先輩の絵を描いてること、言わない約束で偽カノしてるのにどうして、
「彼女なんだってね」
「え、」
「あれ、違った?」
「そ、そうです」
良かった。言ってなかったんだ。
「海斗って変に気が強いと言うか、変わった奴だけど、悪い奴じゃないんだ。責任感強いし、友達思いでいい所もたくさんあるから、海斗の事よろしく頼むね…って、ちゃんと分かってるから付き合ってるんだよね」
「は、はい」
どうしてあいつの事をそんなに理解してるのかな。
この前は信じてなかったけど、ほんとにすごく仲良いのかな。
「ごめんね、かわいい弟の事だからつい熱くなっちゃって…」
「そうなんで…へ?」
ちょっと待って、今なんて。
「え?」
誰が、誰の弟だって…?
「い、今なんて、」
「ん?」
「しょ、翔先輩の弟さんは…」
「海斗だよ」
「えー!」
仲良いって、仲良いで済まされる関係じゃないだろ。
あいつ…
わざとだ。わざと私に兄弟だって教えなかったんだ。
「そんなに驚くこと?苗字だって同じなのに」
「そう言われてみれば…」
如月 翔、如月 海斗…
珍しい苗字なのに。性格が違いすぎて気づかなかったよ。もはや本当に兄弟なのか疑った方がいいような気もするけど…
「苗字が珍しいから大体の人は知ってるけど、海斗の奴…肝心なことは教えないとこあるんだから。きっと言う必要ある?それ?とか思ってそうだな…」
絶対に思ってますね。
「見当もつかなかった…です」
悔しいけどイケメンのDNAを引き継いでるのは認める。だけど、他はどうしたよ!優しさ全部翔先輩に持ってかれたのか!
「ふふ、」
「え、」
「雫ちゃんってかわいいね」
「わ、私が可愛い…」
一番好きな人に、一番言って欲しい言葉言われちゃった。
やっぱり私、今日死ぬのかな…
「だって面白いぐらいに表情がコロコロ変わるんだもん」
「…」
馬鹿にされてるのか?
それでもいいや。翔先輩と話せてる時点で幸せだもん。
嘘でも可愛いって言って貰えただけでも感無量だもん。
「あ、怒った?」
「いえ、怒ってなんて…へ、しょ、翔先輩?」
「よしよし。もう怒らないで?ね?」
子供扱いされてることは100も承知だけど、怒ってないのに、頭ヨシヨシなんかされちゃったらもう嬉しすぎて泣ける。
もう金輪際、頭は洗いません。
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