倒置法で愛を伝える

ShiotoSato

第1話

「霜山さん……恐らく脈アリだぞ、お前」


「…………」


 全く以って言葉の意味を咀嚼できない。脈アリ? 僕が? 霜山さんと?


「聞かせてもらおうか。その根拠を」


 内なる興奮を原田に悟られないよう、僕は努めて低い声で伺った。


「俺、霜山さんと席近いだろ」


「ああ」


「結構あっちから話し掛けて来るわけ」


「うん」


 小さく頷いて、彼の次の言葉を促す。


「……聞いて驚け。お前の話をメッチャして来るんだ」


「は……え?」


 動揺を隠せない。霜山さんが僕の話を?

 

「『面白いよね……片桐くん』とか、『いつも元気だよね……片桐くん』とか」


「僕等の会話を見て言ってる? それ」


「多分な」


 いつも下ネタしか言ってない気がするんだけど。まずい、別の意味で動揺を隠せないぞ。


「まぁ、ともかく俺、霜山さんと話付けといたから」


「?」


「いやお前って霜山さんのこと好きだろ。だから話してくれってお願いした」


「……」


 こいつ、コミュ力えぐ……。

 



🌞 W―――そして放課後―――E 🌛




 すっかり日の暮れた教室。差し込む僅かな月明かりが、僕と、霜山さんと――


「えっと……居てくれた方がありがたいけど、どうしてここに?」


 原田を照らしている。


「あぁ。霜山さん、俺が居た方が緊張しないって言うから」


 彼の視線の先。まるで僕とは住む世界の違う――お淑やかで理知的な女性、霜山祐衣が確かにそこに立っていた。

 ……僕の方こそ緊張して言葉が出ない。


「…………」


 肝心の彼女はというと、地面とひたむきに睨めっこをしていた。


「…………」


 お互い沈黙が続く。何とかしてこの状況を打破せねば。


(思い立ったが吉日……)


 僕が言葉を紡ぎ出そうとした、その瞬間――


「話があるの……原田くん、片桐くん」


 先手を打ったのは彼女だった。


「来てくれて嬉しい……片桐くん」


「え、あ、ええ、あ、あ」


「やっと伝えられる……この気持ち」


 鼓動が高鳴る。彼女は頬を赤らめると、やがて俯きがちに言った。


「ずっと前から好きでした……」


「…………」

 

 その言葉を、僕は静かに噛み締める。ハッキリと彼女は口にしたのだ――"好き"と。

 こんなに嬉しいことってあるだろうか? 片思いをしていた相手から、放課後の教室でまさかの告白?


 これはもう、原田には感謝しかない。ありがとう。本当にお前、いいヤツだよな。


「…………原田くんのことが」


「え?」


 これはもう、原田には怒りしかない。ふざけんな。本当にお前、〇〇〇〇だよな。

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