第4話 ゲームブックは茨の道
五月の下旬、田中市太郎は書類の束を抱きしめ、非電子遊戯研究部の部室を訪れた。
「あら市太郎、こんにちは」
「こんにちは、知尋ちゃん。ようやくできたよ」
「ということはソフィアクエストのシナリオができたのね」
「うん、そうだよ。これがそう」
ドサッと市太郎は書類の束を机の上に置く。
「何これ、すごい量だけど市太郎。もしかして全部ソフィアクエストのシナリオなの……」
「そうだよ。知尋ちゃんのアイデア全部入れたら、これだけの量になったの。ほらゲームブックてさ、選択肢でシナリオ分かれるじゃない。そのパターン全部いれると普通のシナリオより多くなるのは当然なんだよね」
「流石は中田太一郎先生ね」
「もう知尋ちゃん、その名は学校ではよばないてよ」
プーと市太郎はふくれる。
「市太郎その顔かわいいわね」
「もう知尋ちゃん、話をそらさないで」
「わかったわよ。もうその名前では呼ばないわよ。それにしてもかなりのボリュームよね」
「そうなんだよ。さすがにこれを文化祭で配布するわけには行かないから、ソフィアクエストのイベントやセリフなんかを削りたいんだよね。でそれを知尋ちゃんに相談したかったんだよ」
「わかったわ。とりあえずざっと読ませてもらうわ」
知尋は市太郎の持ってきたシナリオを読む。およそ三十分ほどかけて知尋はそれを読んだ。
「確かに多いわね。私こんなにアイデアだしてなのね。市太郎が聞き上手だからついつい喋りすぎたわ」
「知尋ちゃんが楽しそうに話してるから、止められなくてね。それで知尋ちゃんのアイデア全部盛りみたいになっちゃったんだよね」
「文化祭にだすのはコビー本だから、もっとシンプルにしないとね。うーんでもあれとこれはいれたいし……」
しばらく知尋は腕組みをして、考え込む。
「逆にさ、これだけは入れて欲しいのシーンってある?」
「うーん、そうだね。主人公とヒロインが出会うシーンはマストだよね。それと魔法使いグレイとの別れ。竜の少女を仲間にするところとやっぱりラストは入れたいわ」
「ラストってあの魔王の正体を知るところだよね知尋ちゃん」
「そうそう、他のシーンは削れてもあそこはマストよね」
「激しいラストバトルのあと、魔王を倒した勇者は魔王の仮面をとるか取らないかの選択をする」
「そうそう、そこなのよね。ラストはエンディングを二つ用意してるのよ」
知尋は書類の束から一枚を取り出す。
「あーこれこれ」
市太郎もそれを見る。
「このラストは僕も良いと思うよ。ここは絶対入れたいよね。王道でベタだけどそういうのが良いと思うね。奇をてらうよりもこういう真正面から描くのは僕には出来ないんだよね」
「えっこれって王道なの。私、むちゃくちゃ考えてすごくいい独創的なアイデアだって思ったんだけど」
「えっマジで!!知尋ちゃんそれ本気で言ってる?」
「うん、本気も本気。ガチのマジでそう思ってますよ」
「あの……このラスボスが父親だったって設定それはもう何十年も前からこすられまくってるよ有名なスペースオペラもそんなのあるし」
「ふえっそんなに前からあるの。私、すごい活気的なアイデアだと思ったんだけど。やっぱりやめようかな……」
「知尋ちゃん、これこのままいこう。別にいいじゃん。僕はこのシナリオ好きだよ。王道こそ正義だよ。テンプレ上等、二番煎じ三番煎じどんとこいだよ。オリジナリティもいいけどわかりやすいのが一番だよ。一般の人はそんなの気にしないよ。面白ければ良いんだって」
「市太郎、急に熱いわね」
「うん、そうなんだよね。ちょっと前に批判コメントみたいなのもらっちゃてさ。何処かで見た事あるって書かれてたんだよね」
「へえー、そんなのがあったのね。私、市太郎の小説好きよ」
「あ、ありがとう知尋ちゃん。リアルで言われるとむちゃくちゃうれしいね」
「ふふーん、市太郎も褒められて伸びるタイプなのね。私たち気が合うわね」
「そうみたいだね。もういっそつきあう?」
「うん、どっか買い物でも行くの。良いわよ、次の休みに友ヶ浦モールにでも行きましょうか」
「あの……知尋ちゃん、もしかしてわざと言ってる?」
「わざとにきまってるわ。いい市太郎、私ってもっとロマンチックなのがいいの。乙女はロマンチストなの。こんなノリで言われて、まあ嬉しいのは嬉しいけど、時と場所は考えて欲しいわ」
「わかったよ、知尋ちゃん。その件は保留としてまずはゲームブックソフィアクエストの完成を目指そうか」
「そうよ市太郎。楽しみに待っているわ」
知尋は市太郎に微笑んだ。
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