第3話 知尋のゲームブック作成
五月の上旬のある日、黒澤知尋はノートパソコンでなにやら文章を打ち込んでいた。
「知尋ちゃん、なにしているの?」
「うわっびっくりした、なんだ市太郎か……」
「めずらしく真剣な顔でパソコンとにらみあってるから、なにしているのかなって」
「ふふんっ教えて欲しい、市太郎君」
「うんっ教えて欲しい」
「じゃあその前に私の質問に答えてくれるかしら。ここで質問です。至高のアナログゲームとは何でしょうか」
「えっそれは一番面白いアナログゲームってこと」
「ええそうよ。そう言っても過言ではないわ。さて市太郎が考える一番面白いアナログゲームは何かしら」
「うーん、そうだね。カードゲームも面白いし将棋やチェスは競技人口多いし、あっボードゲームも捨てがたいな。ドイツなんかはボードゲームの人気はかなり高いっ言うしね。うーん、なんだろうな……」
「うふふっ市太郎君、そのどれでもないわ」
「えーじゃあなんだろうな。あっそうか。あれもアナログゲームだな」
「あらっ何か思いついたようね。さすがは我が友ノ浦高校非電子遊戯研究部部員ね」
「そうだね、知尋ちゃん。テーブルトークロールプレイングゲームじゃないかな」
「惜しい、実に惜しいわ。TRPGはけっこう人数がいるでしょう。ゲームマスターの技量もかなり問われるわね。一度やってはみたいんだけどね」
「そうだね、知尋ちゃんってボッチだもんね。僕以外に友達いないでしょう」
「し、失礼ね。友達ぐらいいるわよ。プンプンッ!!」
「だってこの非電子遊戯研究部も僕以外部員いないじゃない。学校の帰りもいつも僕と一緒だしね」
「ち、違うわよ。それは市太郎と二人で帰りたいからよ」
「えっそ、そうなの。それは嬉しいな」
知尋と市太郎はお互い顔を赤くして、しばらく見つめ合った。
「それじゃあ、答えを発表するわよ。それはねゲームブックよ」
「あーそれがあったか。たしかにゲームブックもアナログゲームだよな。最少人数一人で遊べるし、シナリオがよかったら没入感も高そうだし。あっもしかして知尋ちゃん、ゲームブックをつくっているの?」
市太郎は知尋の眼の前にあるノートパソコンの画面をのぞきこむ。
「ちょっと近いわよ、市太郎」
「ええっいいじゃない知尋ちゃん」
「し、仕方ないわね。じゃあ隣に座りなさい。今ね、文化祭にだすためのゲームブックのシナリオを作っているのよ」
「おおーこれは非電子遊戯研究部っぽい活動ですね。知尋ちゃん、ちゃんと部活してるだね」
「なに言っているの市太郎、あなたもゲームブック作成に協力してもらうわよ」
「えっいいの」
「いいにきまってるっじゃないの。市太郎、あなたも立派なこの非電子遊戯研究部の部員なのだからね」
「いやあっうれしいな。で今はどんなシーンを書いているの?」
「今はね、ラスボスの邪竜魔王との戦いのシーンよ」
「へえっじゃあ、もうクライマックスなんだね」
「いいえ、まだ書き始めたばかりよ。私は書きたいところから書くタイプなのよ」
「へえっそうなんだ。ねえっ知尋ちゃんプロット見せてもらっていいかな?」
「えっ何プロットて……」
「プロットってのはシナリオの設計図のようなものだよ」
「へえっさすがはウェブ作家中田太一郎先生ね」
「ぎくっ……どうしてその名前を知ってるの」
「蛇の道は蛇っていうでしょう。あなたがカクヨムに投稿しているのは承知しているのよ」
田中市太郎は顔を赤くして、額に流れる汗を手の甲でぬぐった。
「知尋ちゃん、それを誰かにいったりした?」
「いいえ、私にそんなことを言う友達がいないのは知ってるでしょう。はー自分で言ってへこむわ」
「良かった、身バレしてなくて。知尋ちゃんに友達がいなくて本当に良かったよ」
「ったく市太郎君、本当に失礼ね。これは部長命令よ。あなたもこのゲームブックその名もソフィアクエストの作成に協力しなさい」
「わかったよ知尋ちゃん。ソフィアって古代ギリシャ語で叡智って意味だよね。知尋ちゃんの知の字とかけてるんだね」
「す、すごいわね。一晩考えたタイトルなのに一発で理解するなんて、さすがわ中田太一郎先生ね」
「もうそこをいじらいないでよ!!」
ぷんぷんと怒りながら市太郎は言った。
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