第2話 双子の変態

 ――状況はよくない方向へと進んでいた。

 相変わらず拘束された状態のままに、アリシアの身体を双子の変態が撫でまわす。


「師匠って本当に肌綺麗だよね」

「うん、すべすべしてる」

「や、やめなさいっ!」


 まだ服は脱がされていないが、太腿の辺りや服の中に手を滑り込ませて、お腹の辺りに触れていた。

 少しくすぐったいような感覚に、堪らずアリシアは腕を下ろそうとするが――カシャンッ、と枷が虚しくなるだけ。


「拘束するのはさすがにやりすぎですよ!?」

「でも、師匠にはこれくらいないのハンデがないとねぇ」


 そんな風に言うのはレーノだ。

 昔はこんなに明るい性格ではなかったが――こうして一緒に生活するうちに、彼女はいたずら好きな側面を見せるようになった。

 ――今の状況は、いたずらにしてもやりすぎではあるが。


「ハンデってなんですか! これは稽古でも何でもないでしょう!? 第一、あなた達ももう十分独り立ちできるくらい強くなったんですから……っ」

「これは強さとは関係ない。師匠としたいだけだから」


 そう、ストレートに言うのはリィルだ。

 彼女は幼い頃から口数が少なく、レーノの後ろに隠れがちなタイプであったが――今も口数が少ないのは変わらず、けれどクールになった、と言うべきだろうか。

 ただ、クールなままにこうやってやりたいことははっきりと言うし、やるタイプなので困っている。

 そんな二人が――ずっとさわさわと優しく身体を撫でてくるのだ。

 正直、何が楽しいのかアリシアには分からない。

 エルフとしてはすでに子供という年齢は過ぎて、アリシアは成人と言えるくらいには成長している。

 特に、エルフは長命であるが成長が遅いわけではない――ある一定の年齢までくると、成長がほとんど止まるのだ。

 アリシアに関しては、身長も低ければ胸もない――本人曰く『貧相』に成長してしまった。

 子供じみた体系、と言われても否定はしない。だから、


「そ、そもそもこんな身体触って何が楽しいんですか!」

「えっ、師匠の身体はすごく魅力的だけど?」

「うん、わたしは好き」

「いやいや、あたしも好きだって言ってるんだけど」

「わたしの方が好き」

「ちょっと、こんなところで張り合わないでくれる!?」

「でも、最終的には師匠を気持ちよくさせた方が勝ちって話だから」


 ――どんな勝負をしているんだ、と思わずアリシアは眉を顰めた。

 変態二人には何も言っても仕方ない――というより、獣人は定期的に発情することがある。

 今のレーノとリィルがまさにその状態であり、このように突飛な行動にでがちなわけだ。

 よりにもよって、同性な上に子供っぽい体系のエルフに発情しているのだから、やはり変態には違いないのかもしれないが。

 だんだん、二人の手が胸の方や下腹部の方にまで伸びてきたところで――


「……いい加減に、しなさいっ!」


 アリシアは両手に魔力を込めると同時に、勢いよく拘束していた枷を壊すと、二人の頭を叩いた。


「ごへっ!?」

「痛い……」

「……全く、悪ふざけも大概にしないと本当に怒りますからね?」

「いや、怒った後に言ってるじゃん……」

「当たり前です! 発情の始末くらい、私の身体を使わずに自分達でやりなさい」

「自分達でって……それはいつもしてるもんね?」

「うん、こんな感じで」


 そう言いながら――レーノとリィルは二人で唐突に口づけを始めた。

 しかも、挨拶程度のものではなく、舌を絡めるようになしっかりとしたもので。

 アリシアは思わず突っ込みを入れる。


「急に何を始めているんですか!?」

「んっ、師匠が自分達でやれって言った」

「そうそう、だから、二人でやってるわけ」

「今すぐにやれという意味ではありません! それに、ここは私が借りた部屋――ああ、もういいですっ。とにかく、今日は仕事がありますから、済ませたら出かけますからね」


 アリシアはそう言って、仕方なく部屋を後にした。


「全く、どうしてあんな風に育ってしまったのか――って、寝間着のままだ……」


 今更、部屋に戻れる状況にはなく、しばらく寝間着のままで部屋の前で待つことになるアリシアだった。

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