エルフですが、気まぐれに拾った双子の獣人娘に貞操を狙われています
笹塔五郎
第1話 貞操の危機
――カチャリと金属の擦れる音がした。
「ん……?」
違和感を覚えながらも目を覚ますと、視界に入ってきたのは二人の少女。
黒髪に動物的な特徴の耳を持ち、同じように尻尾もある獣人――顔も似ているのは、二人が双子だからだ。
「あ、ようやく目覚めた? 昨日は随分と酔ってたみたいだもんね、師匠」
「うん、本当によく眠ってた」
見た目は似ていても――性格はまるで違う。
明るい口調でよく喋る子と、少し眠たげな表情をしてどこか抑揚のない声をしている子――双子でも、当然性格に違いは出るだろうが、彼女達の『とある考え』は一致している。
「……これはどういうことですか?」
手枷で身動きを封じられたままの姿で、少し怒ったような表情を浮かべたのはエルフの少女であった。
エルフの少女――といっても、双子の獣人よりは年齢は上になる。
まだ、エルフとしては随分と若い方であるし、見た目的にもどちらかと言えば幼いと言えるだろう。
長い銀髪に、尖った耳――特徴的な姿をしているからこそ普段、出かける時はフードを目深に被るようにしているし、仮面で顔を隠すことも多い。
だが、自室にいる時は別だ――ある意味、一番油断している時と言えるだろう。
「どうもこうも、状況を見れば分かるでしょ?」
「……一応、理由を聞いているんです」
「師匠とえっちなことがしたくて」
「――」
全く理由を包み隠さないことに、エルフの少女は思わず引き攣った表情を見せた。
そう――双子の獣人少女は、エルフの少女の貞操を狙っているのだ。
よく見れば、二人の頬は少し紅潮している。
太腿の辺りに手が触れると、思わず身体が少し跳ねた。
「ちょ、何を……!?」
「だから、師匠とえっちなことがしたいの! でも、師匠はどうせ逃げようとするから、ちょっと拘束させてもらったってわけ」
「逃げるって、当たり前じゃないですか! いつも言っているでしょう、発情期の処理くらい自分でやってください!」
「そんなつれないこと言わないでよ。だって、ねえ?」
「うん、わたし達は師匠のこと、好きなんだから」
そう言いながら、二人の魔の手が忍び寄ってくる。
――今、エルフの少女はまさに貞操の危機に瀕していた。
***
アリシア・リールスは生き残りのエルフである。
生き残り、というのはそのままの意味で、以前は集落などで集まって暮らしていた時期もあったが――エルフの血は万病に効く、などという根拠のない噂や実際に数が少なかったこともあって、エルフ狩りが行われた過去がる。
そのため、人里の近くに住むエルフはほとんどいないし、アリシアもここ数十年以上――同族にあったことはない。
ただ、身の危険を回避するためにできることと言えば、強くなることだけだった。
武器の扱いや魔法の習得など、アリシアは自身にできる限りのことをした――長命なエルフだからこそ、才能がなかったとしても、ある程度の高みに行くことができる。
アリシアには武術も魔法の才もそれほどなかったが、一人で生き抜くには十分な力を身に着けた。
――そうして長い時を生きていると、いわゆる拾いものをすることがある。
アリシアが拾ったのは、孤児だった双子の獣人だった。
いずれもまだ子供で、おそらくアリシアが保護しなければ長くは生きられなかっただろう――偶然、森で彷徨っているところを助けたのだ。
正確に言えば、奴隷にされかけていたところを逃げ出したようで――彼女達は追われる身でもあったようだ。
正直、そんな彼女達に関わるのはアリシアにとってもリスクではあった。
何せ、アリシア自身も見つかれば――執拗に追いかけられる可能性がある。
初めはどこかで別れようかとも考えていたが、二人はずっとアリシアの後についてきたのだ。
「どこかに行く宛はないんですか? 故郷は?」
「……」
アリシアに問われた獣人の少女は、首を静かに横に振る――彼女達には帰る場所はない。
迷った末のアリシアの答えは、
「……まあ、少しの間だけながら面倒を見てあげます」
――それから、数年間は一緒に過ごすことになった。
ずっと面倒を見るつもりもなかったし、アリシアはある程度戦える力を身に着けさせて、二人が独立するまで見守るつもりだったのだ。
エルフの寿命は長く、それこそ獣人の少女達が十分に戦える力を身に着ける程度の時間なら、さほど長いものではない。
双子の獣人――リィルとレーノはそれぞれ立派に成長した。
どちらも魔法はあまり得意なタイプではないが、剣術に関してはアリシアよりも上だろう。
もはや、アリシアが教えることは何もない――立派に独立できるはずの二人であったが、そんな彼女達から今、アリシアは狙われているのだった。
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