第81話 魔獣、豊漁!

魔獣が大量発生中とのことだ。

村へ向かって大行進?


「よっしゃー、祭りじゃ、祭りじゃ!」


師匠がハイテンションで、今にも踊り出しそうだ。

まあ、他の村人たちも大体同じようなものだから、しょうがない。


どうやら数年ぶりの魔獣の氾濫らしい。

少なくとも僕の記憶にはない。


魔獣が大漁。

村人の頭の中は魔獣狩り、肉の確保でいっぱいだ。


村長はありったけのマジックバッグを取り出し、村人に配る。

普段森に入らない村人も戦え者は倉庫から武器を引っ張りだす。


ちょっと不安だ…

怪我をしないだろうか?


最低でも武器は新しいのにするか…

僕が作った試作品たちを出すか…

武器たちも死蔵するよりは使ってもらった方が良いだろう。


さて、僕も準備しないといけない。


魔獣の肉の保存は、状態維持が付いたマジックバッグに入るだけ入れて、入らないのは干し肉。

地下に氷室を作れば、一か月くらいは持つか?

氷魔法で冷やす魔道具を作れば、冷凍庫になりそうだが、やりすぎだよなあ…

うん、僕の家だけならバレないだろう。



「ルー君、大丈夫なの?」


心配そうな顔をしているのはこの村出身ではないエレノアさん。


「大丈夫だよ。たまにあるみたいだからね。今年は肉の豊作だと思ってドッシリしていたらいいよ」


まだ、心配そうな顔をしている。

なので、優しく抱きしめる。


「…僕は君の勇者だ。君を悲しませるようなことはしないよ」


ちょっと臭いセリフを言ってみる。

いつもなら笑い飛ばしてくれるけど、今回は涙をこらえ、ただ素直に頷くだけだった。

エレノアさんの方がちょっと心配…


「あー! エレノア、ズルい! 私も抱きしめなさいよ!」


リネットは通常運転。

氾濫時、彼女は壁の上に立って、魔法をぶっ放し、魔獣の数を減らす任務に就く。

村有数の攻撃魔法の使い手だからね。


「はい、はい。リネットもこっち来て」


「えー、二人一緒?」


「いいじゃない。家族、家族」


二人を抱きしめる。

うーん、幸せの形?


少し離れたところでネルが見ている。

羨ましい?


「ネルも来る?」


「行くか! …それより、本当に大丈夫なんだろうな…魔獣の氾濫なんて、冗談じゃないぞ…」


「僕が倒れたら困る?」


ちょっと意地悪を言ってみる。


「…そりゃ、そうだ…新しいご主人を探さないといけないしな。お前みたいな甘ちゃんが都合よくいるもんか…」


意外に素直。

心配してくれるらしい。


問題ないさ。

この村はちょっとやそっとで潰れやしない。

村人はほとんどが戦える人たちだ。

…父さんと師匠で何とかなりそうな気もしないでもない…



さて、ちょっと索敵をしてみる。

……


「うん。魔獣、その数、300ってところかな」


戦える村人を50人とすると、一人6匹。

ま、大丈夫じゃない?


イザベル姉さんのパーティも参戦してくれるというし。

たぶん戦いたいだけだけど。


「…300…本当に大丈夫なんだろうな…」


「大丈夫さ、ネル。心配しないで待っててくれ。終わったら一緒に飲もう」


「…お前、わざとだろ…死亡フラグっぽく言いやがって!」


ネルも転生者。

たぶん成長にボーナスが付いている。

きっと近い将来、簡単に魔獣を倒せるようになるだろう。

次回の氾濫では、彼女も主力だ。

ガンバレ!



村は防衛の準備を整えた。

さて、接敵まで一時間というところか。


「ルーカス君。結界の方は大丈夫だろうね」


村長、エドワードさんに聞かれる。


「はい。義父さん。完全に作動しています。若干の強化も施しました。大丈夫だと思います」


「義父さん」という単語に、ピクリと顔が引きつる。

まだ、慣れないのか…

もういい加減観念すればいいのに。


「父さん、武器、配り終わったぜ」


こちらはリネットの兄のジェフリー。

最近は真面目に村長見習い中。


「義兄さん、武器足りました?」


「義兄さん」という単語に、ピクリと顔がひきつる。

別に、シスコンじゃなかったはず。

どうして?


「ルーカスに『義兄さん』と呼ばれるのは違和感がある」


ジェフリーは子供のころ、イザベル姉さんに恋していたことがる。

そのまま行けば、僕の「義兄さん」になったんだが…?

その想像はしなかったのかな?

いや、逆にその過去があるから「義兄さん」がダメなのかもしれない。

ちょっと可愛そう。



僕は村の西側に配置される。

まあ、森の深い方の方角だ。

一番の激戦が予想される。


後ろの壁の上には、母さんと、リネット。

攻撃魔法の主力。

スージーを含めた弓部隊。


壁の下には主力。

僕と、父さん、クリフ君。

イザベル姉さんのパーティ。

ブライアンさんを含めた狩人さんたち。


ちなみに師匠は北側を率いている。

村長が南で、ジェフリーが、友人の樵ビリーと一緒に東だ。

東が一番楽っぽい。


西側のリーダーは父さんということになる。

大丈夫か?

バーサーカーだぞ…

ま、壁の上に母さんがいるから問題ないか。



「…来る!」


さすが父さんの索敵は鋭い。

魔獣が姿を現す。

巨大な魔獣の総突撃…

兎に猪、鹿、熊、蛇。

ちょっとだけトカゲが混じる。


すごい迫力だ…


「…行くぞ!」


父さんの合図に皆が動き出す。


壁の上から火の魔法が降り注ぐ。

数が多いので少し間引く感じだ。

森が焼けるが、一年で元通りになるらしいので、問題はないとのことだ。

さすが、異世界。

不思議な森だ。


魔法の力はまだ母さんがリネットより上か。

ちなみに、二人にも僕が作った杖を渡してある。

結構な魔法の連射が飛んでいく……


「母さん、リネット! 殺しすぎ! お肉が丸焦げになる!」


ちょっと注意しておく。


魔法攻撃がうちばになり、魔獣がまばらにこちらに突撃してくる。


一番槍はやはり父さんだ。

強大な身体強化、両手に鍬と鎌をもったいつものスタイル。

この鍬と鎌は僕がプレゼントしたもの。

戦闘用に作ったものだ。

少しだけ普通の物より大きめに作ってある。

父さんは農作業に普段使いしているけど……

攻撃力は以前の段違い。


猪を簡単に切り裂き、次の熊へ!


「…この程度か! 獣ども! 足りない、足りないぞ!」


攻撃力が明らかに上昇して、生き生きしている。

うーん、父さんの武器グレードアップはやりすぎ?

鬼に金棒?

だって、普通の鍬と鎌じゃ心配じゃない。


「は、は! 潰れろ、潰れちまえ!」


クリフ君もバーサーカーモード発動し、突撃。

左右のこん棒で魔獣を殴り倒している。

うん。

平常運航。

ミンチはダメだぞ。

食べるところが少なくなる。

ハンバーグならOK?

いや、傷みやすいな…


ブライアンさんは二人が撃ち漏らした魔獣を冷静に槍で突き刺している。


イザベル姉さんは…

やはり速い。

雷のように速く、鋭く、魔獣を切り刻む。


デニースさんは盾で熊の攻撃を防ぎ、メイスで殴る。

重力魔法に慣れつつあるんだろう。

熊は吹っ飛ばされて木に激突した。


ミラベルさん…


「てめえら、うぜえんだよ! 死んじまえよ!」


この人も狂戦士系だったか……

姉さんパーティの常識人だと思っていたのに。

類友なんよ、きっと…


ガンガン魔法を撃っている。

たぶんリネットと同レベルかな?

まあ、頼もしい限りだ。



ちなみにデニースさんとミラベルさんにあげた装備、ちょっとやりすぎちまった系。

ネルと一緒に色々アイデアを出していたら、ああなってしまった…

研究所の錬金術の本には色々書いてあり、使いたいと思っていた技術がいっぱいあるんだ。

好奇心には勝てないというか…なんというか…

まあ、本人たちは気に入ったようなので、良しとしよう。



僕も魔法を改造していたりする。

これもネルと色々ガヤガヤやった結果だ。


まずは、ブレット。

異世界転生物に多い魔法。

拳銃のような魔法。

小指の先ほどの物理的物体、弾丸を高速で打ち出す魔法。

その弾速は音速を超える。

躱すのはむずかしいだろう。


熊がいるので、人差し指を向け、魔法を発動。

パンッ

乾いた音がして、熊の頭に命中。

後頭部から血が噴き出す。


やはり穴が小さい。

確実に急所に当てないと倒せないな。

急所に当てたなら、肉が残るので、狩りにはいいかもしれない。



次、破壊属性の魔法だ。

猪の突撃に向けて打ち出す。

バスケットボール大の球体の魔法が猪と衝突。

この魔力に触れると分子の結合力をなくす。

故に崩れる。

破壊というか崩壊?

猪の頭に丸く穴が開いた。

うーん。

もう少し奥に浸透するようにしたい。



最後、次元断(仮)。

まだ、遠距離攻撃にできていないので、剣に魔法を刻んで魔法剣とした。

名付けて「次元剣(試作)」。

マジックバッグから取り出す。

魔力を入れると紫に光る。


光の移動魔法でトカゲ……

父さんに取られた…

なので、熊に突撃。

剣で斬りつけると、スルっと、滑るように斬れる。

成功だ!


これ次元断と名付けているが、実は部分転移だ。

剣の振れた部分のみを他の空間に転移させている。

行き先は森の地下深くに掘った穴。

そこは多分、肉塊が溜まってグロイことになっているだろう。

…定期的に焼却殺菌が必要。


ネルと、勇者召喚や転移があるのなら、時空系の魔法も使えるんじゃね?

という話題になり、しかし、そんな高度な魔法を創ることはできず、できたのがこのなんちゃって次元断(仮)…

グロイ魔法を創ってしまった…


意外に簡単に出来たんだよね。

転移先は固定で良いし、転移対象を決める処理をスルっと削除して、剣の接触部分だけにして、その分発動スピードを強化。

それで触れた部分だけを転移させる魔法の完成!


相手の魔法抵抗が高いと効かないかもしれない。

次元を分断する魔法を本当に開発したいところではある。



さて、創った魔法はまずまず。

トカゲ肉確保のために動こう!


索敵の魔法を実施すると…

大きいのがいる……

何かヤバそうな……


「アルベルタ、あれって?」


きっと付いてきているだろう闇の精霊に確認する。

他の精霊もいるけど、なんか一番頼りになるんだよね。


『…そうね。ルーカスが行った方がいいわ。他の人でも倒せると思うけど…』


ほら、普通の表情で、いるのが普通のように、アルベルタがいる。


アルベルタが言うのだから、僕が行った方が良いのだろう。

たぶん相性的な問題か?


「母さん、奥に大きいのがいる! 行ってくる!」


この現場の指揮は母さんだよね。

父さんはバーサーカーモードで聞いていないし。


「ルーカス! 気を付けるのよ!」


「ルーカス、無茶しちゃダメよ!」


母さんとリネットの言葉を背に、森へと走る。


どんな魔獣がいるんだろうか?

そして、どんな味なのだろうか?

未知の味が待っている…

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