第80話 【ミラベル視点】えっと…魔法の杖ってこういうものだっけ?

【ミラベル視点】


村では歓迎を受けた。

泊まりはイザベルの実家。

彼女の家族は、父、母、イザベル、ルーカス君。

なので、子供二人が出て行って寂しい思いもあったのだろう。

両親はだいぶ嬉しそうだった。

ルーカス君のあの転移魔法陣が普通に使えればもっと帰ってこれるのにね。


父、ウィリアムさんはイザベルと似て無口。

色々考えているのかもしれないが、言葉にならないタイプっぽい。


母、マイラさんは優しい母親。

だけど、たぶん、魔法使いとして優秀な人だと思う。

魔力が…私と同じくらい?

それ以上?

ちょっと自信が……


ルーカス君宅も合流し、バーベキューパティー。

美味しいお肉と、お酒。

農家だということで、野菜も採れたてで美味しい!

あの、ジャガイモを焼いてバターで食べるヤツが……

お肉は、猪の香草ハーブ焼きが好み。

ここのお肉なら干し肉も美味しそう。

あとでもらっていきたい。


本当にイザベルの家族は仲が良さそうでうらやましい。

イザベルとウィリアムさんは無口だが、マイラさんがうまく回している。

ルーカス君は笑ってすべて受け入れている感じ。


ルーカス君ところも仲が良い。

エレノアさんもリネットちゃんも幸せオーラが全開で……

ああ、羨ましい。

あんなに幸せそうなら結婚もいいなあ、と思ったり。


私が家族とうまくいっていないからかな…

魔法学院に入れてくれたのは感謝している。

半分家出同然で行ったのだけれど、お金だけは出してくれたからね…

少しは恩返しをしないとね…


実は私はそこそこいい家の出だったりする。

まあ、魔法学院に通っていた時点で貴族とか豪商とか金持ちであるんだけれど。

あそこお金かかるから一般人はほぼ無理なんだよね。

まあ、そういう家って、女の子ってだいたい政治的な材料になるじゃない。

母さんはそういうのだったけど、受け入れていた。

たぶん、従うだけでなくて、自分の意思で家のために嫁いだ感じ。

父さんは母さんのことを言うこと聞くだけの女だと思っているけれど、甘いな。

そのうち痛恨の一撃を食らうのではないだろうか。


まあ、私はそういうの合わないから出てきちゃった。

そんな感じなので、帰省とかないな。

母さんには手紙を出しておくか…


家庭ね…

私がもし、この村に生まれていたなら…

もしかしたらルーカス君の隣で幸せそうに笑っていたのは私だったりして…

結構年上好きそうだし。

イザベルの友達として家に遊びに行っているうちに仲良くなって…

「ずっとミラベル姉さんのことが…」

「でも親友の弟だし…」

「それは関係ないでしょ。ミラベルさんがどう思っているかを聞かせて欲しい!」

「…私だって…」

てね。


リネットがこちらを睨んでいる。

なんかそういうのに鋭い子だ。

ただ妄想。

それだけ。


手をパタパタ振って「無い、無い」とアピールしておく。

まだ、睨んでいるな…


妄想は乙女の生きるための栄養。

許してほしい。



私とデニースの武器作成の間、イザベルの剣の試し切りに付き合わされた。

森だ。

怖いからあまり入りたくないんだけど…


結果。

雷属性の剣って言いうのは魔獣にすごく効果的だった。


少し掠っただけで、体に電気が流れ、ビクッっと少し感電、動きが止まる。

それが一瞬だったとしても、相手がイザベルレベルの達人になると致命的な隙になる。

すぐに斬られて、ジエンド。

あっけない。


猪に鹿に熊。

相手にならない。


蛇も出た。

レアらしい。

しかし、爬虫類は苦手…

もちろん私は遠距離から火属性魔法を連打。


「気持ち悪いんじゃ! こら! 近づくなって言ってるだろが!」


イザベルとデニースとで袋叩き。

イザベルに斬られて、体がいくつもに斬り分けられても、動き、しぶとかったが、頭を真っ二つで討伐した。


「…微妙」

「ちょっと苦手かも」

「私は全然ダメ」


肉の味はちょっとダメ。

栄養はありそうな味だが、好んで食べるものではない。

骨が多いのもマイナスだ。


皮等の素材は上級らしい。



剣から電撃が走るタイミング。

あれは音のリズムでだいたい分かりそうだ。

魔力を込め始めると、弱く、ゆっくりの間隔で、ジ、ジと鳴き出す。

魔力が高まっていくにつれ、強く、速くなる。

それが、高まっていき、ジジジジと鳴り出すと、ドカーンと雷撃になる。


その雷撃、熊にすら大打撃だった。

かなりの威力だ。

間違っても人間に相手に使うものじゃない。



イザベルとルーカス君が対峙している。

姉弟の定例の力確認とのこと。

それにしては激しい…


イザベルが新しい剣を使って、ジ、ジ、ジと鳴きながら、私ではとらえ切れない速さで動き、斬る。

ルーカス君はそれをいなし、よけ、たまに反撃している。

彼は魔法の防御を纏っている。

たぶん、あの剣の雷対策。

通常、前衛は身体強化で防御力、魔法抵抗を上げているので、防御魔法を使用しない。

しかし、それだけだと雷を防ぎきれないのかもしれない。

魔法の防御が必要。

彼は剣士にして、魔法使い。

だからできるけど、普通の前衛戦士は?

まあ、普通の人間相手に使う剣じゃないよね…


「デニース、見えてる?」


「うん。ミラベル、魔法職だとキビシイよね。見えるけど、私だとあの速さに付いていけないよ。ルーカス君も速いよね」


ルーカス君は魔法使いでもあるけれど、魔法は使っていない。

剣だけの勝負ということなのか、あの速度の戦闘だと魔法を使えないのか。

剣と魔法を両方得意だとしても掛け算で強くなるわけじゃないのかな?


しばらく打ち合うと、イザベルの剣がジジジジッと騒ぎ出す。

そろそろか……


そして、轟音!

ルーカス君は!

イザベルからちょっと距離があるところに退避していた?

あの一瞬で?


「ちょと、姉さん、それは人間相手じゃダメだって」


「…でも、ルーカス、避けた」


これで手合わせは終わりみたいだ。

イザベルは嬉しそうにしている。

弟に構ってもらえてよかったんだろう。

久しぶりなのに手合わせがコミュニケーションとは、イザベルは不器用。

もしかしたら、戦うことが好きなだけかも?



しかし、ルーカス君の戦闘力はイザベルと同等ということか…

常々化け物と思っているイザベル。

彼女は確実にSランクの戦闘力を持っていると思う。

Aランクといえどかなりの幅があり、Aになったばかりの者からSに近いもの。

SランクもAランクに近い者もあるが、上は限りがない。

Sランクの上が無いからだ。

Sランク冒険者はみな化け物だ。

しかし、その中には本物の化け物がいる。

それがイザベルのような種類の人間だと思う。

きっと今より強くなって、国を代表するような冒険者になるだろう。


そして、それに匹敵する化け物が、ルーカス君。

直接戦闘力は互角かもしれない。

その他、魔法、錬金術まだある。

少なくも農家にしておくには惜しい。


まあ、本人が農家が良いと言うのだからしょうがない。


私だって、誰かに結婚して主婦になるのが一番幸せになると言われたって、「知るか!」と答えるだろう。

失敗するにしろ、自分が望んだことをするのが良いだろう。


じゃあ、私はSランクの冒険者になれるだろうか?

イザベルはすぐにでも、デニースもきっとSランクになる。

そのときに私もSランクでいたい。


魔法学院を次席卒業だ!

Sランクになれる!


こういう才能の塊を見ると、自分に発破をかけないとやっていけない。


イザベルとデニースには弱音は吐けないよね。



まあ、新しい剣の検証はこんなところで終了。

そして、デニースと、私のが出来上がる。


デニースは、元の装備とほぼ同じ形のモノ。

その方が使いやすいだろうということだった。


「で、盾は普通に強度を上げて、魔法の防壁を組み込みました」


うん、何が普通かは突っ込まないでおこう。

魔法の防壁が組み込まれた盾って買ったらいくらするかな……


「武器防具強化で盾は硬くなるけど、魔法相手だと心もとないからね」


デニースが巨大な盾を持ち、魔力を籠める…

首を傾げる。


「あれ、強化はできるけど、どうやって魔法は発動するのかなあ?」


「デニース…水魔法は使えたでしょ。あの感じ」


「あ、そっか!」


改めて。

魔力を籠めると、魔法の防壁が展開する。

デニースの身長を越える大きさ。

デニースの魔力量であの壁か……

どうやっているんだろう。


「おお!……ね、ミラベル、魔法撃って」

「いや、デニース。それは危なくない?」

「いいから!」


知らないからね!

軽く火の矢を放つ。

矢は壁に阻まれ消えた…


「全然熱くない!」


…私の…Sランクになろうという私の火の矢が何事もなかったかのように……

最低クラスの魔法だとしても…

ちょっとショック…


「うん。よし。じゃ、次、武器ですね」


ルーカス君はメイスを渡す。

普通に持っているけど、あれってデニース用の巨大メイスだから重いはずなんだけど……


「これは何が付いてるの?」


デニースは興味津々。

テンション上がっている。


「これは普通に強度を上げたのと…ちょっと重さを変えられるようにしまして…」


彼はポリポリと頭を掻く。

…うん、それはやっちまってる。

そんな武器見たことない。

本当か?


「??? どういうこと?」


「魔力を籠めてみてください」


「おお! 重くなった!」


本当か?

重量変化の魔法?

聞いたこともない…


「重くするのは簡単なんですよね…軽くするのはコツがあって、持ち手の方のこの一点だけ魔力を籠める感じで」


「んー…難しい」


「手の指をここにおいて、その指だけで魔法を撃つような…」


「…うー。できない…」


まあデニースは魔法使いじゃないから、細かい操作は難しいか…


「本当に重さが変わるの?」


ちょっと私もやってみたくなる。

デニースにメイスを地面に置いてもらって、ルーカス君が言った軽くするポイントに魔力を籠める。

重い…

さらに魔力を籠めていくと、だんだんに軽くなって、何とか持てるまでになった。

20キロくらい?

一応、私も冒険者なので、一般人よりは筋力があるんだ。


魔力を抜くと重くなって、持てなくなって、地面に落とした。


…これはスゴイ!


「で、何がいいの?」


デニースは首を傾げる。


「いや、デニース。すごいのよ、これは! 振るときに軽くすれば早く振れるし、敵に当たるときに重くすれば破壊力倍増よ!」


もしかすると国宝クラス!

…いやダメか。

この冗談みたいな大きさ。

デニースしか使えない、専用武器みたいなものだ。



「ね、ね、私の杖は?」


早く試してみたい。

早く!


「こちらです」


ルーカス君に苦笑いされた。

が、気にしない!

よっしゃ、杖だ!


たぶん、この森の木で作った杖。

長さ1メートルほど。

一応殴る用途でも使えそうだ。

やらないけどな!


その先端に大きな魔石。

反対側には少し小さな魔石。

何で二つ?


「これも普通に魔法補助ですよ。消費魔力の減少と、発動速度、威力向上、するはずです」


「やってみる!」


森の木に向けて火の槍を発動!

ん?

あっけないような手ごたえで魔法が発動し、いつもよりデカイ槍が木に直撃!

これは……


「すごいじゃない、ルーカス君。君、天才!」


よし、チューしてあげよう!

何故、手を突っ張って阻止する?

この美少女を!


「で、問題は反対側なんですよね。便利だか、不便だか…」


「ん?」


「反対を前に向けて、魔力を入れてください」


言われたとおりにやってみる。


水の壁が発動した?

私が水の壁?

あんなおっきな?


私は水属性はそれほど得意でない。

簡単な魔法はできるが、戦闘に使えるレベルじゃない。


ということは?


「反対側の魔石、それに魔法が刻まれています。で、これです」


ルーカス君の手にいくつかの魔石。


「もしかして、それぞれ違う魔法?」


「さすが、ミラベルさん。察しがいいですね」


魔石はそれぞれ少しだけ色が変わっている。


「交換式にしてみたんですよ。戦闘中とか換えるのは大変なので実用的かはどうか…」


「何の魔法なの!」


「はい。水の回復魔法、氷の槍…」


「水の槍じゃなくて?」


「水の槍だとちょっと迫力が無いじゃないですか。なので氷にしました」


水魔法使いで氷の槍を使っているのすごく少数…

純粋な水魔法じゃないから難しいんだ…

いや、ここはスルーだ、まだ魔石がある。


「で、ちょっと間接系も必要かなってことで、睡眠、精神虚弱。あと、オールステータスアップ…」


「おーるすてーたすアップ?」


「ほら、火魔法で筋力、水魔法で魔法抵抗力、風魔法で俊敏性、土魔法で防御力ってそれぞれ上げるの面倒じゃないですか。だから一つの魔法に詰めました」


おい!

そもそも強化魔法って人気が無いのでほぼ知られていない魔法だぞ。

火と風は知っているけど、水と土もあるなんて知らなかった…。

しかも、4つの魔法を一つの魔石に共存させた?

本当か?


「前衛が姉さんとかじゃないですか、これ掛けておけば基本大丈夫かな、と」


さらに強化されたイザベルとか恐怖。

悪夢でしかない…


「…ああ、そだね」


しかし、突っ込まない。

私は杖をもらう立場。


「……で、ちょっと問題がなのがこの二つで…重力と、電撃攻撃…」


うん。

だめ。

明らかにダメ。

一般的に知られていない魔法。

使ったら「なにそれー」ってなるね。


「剣とメイス作る時にそれぞれ研究したじゃないですか、なら、こっちにも入れとかないともったいないっていうか…要ります?」


「重力って杖が重くなるの?」


「いえ、掛けた対象ですね」


…使いどころは難しいが、すごく強力な魔法。

この二つを使いこなせれば、もしかしてSランク?

大っぴらに使うと、私の専用魔法見たく見えちゃうかも。

実は杖の力でしたってのに。

武器性能でSランクになっている冒険者もいるからありだけど。

私的には…

自分の実力でSランクになりたい。


でも、もらえるものはもらっておく!


「ありがとう! すっごくうれしい!」


だから、なぜ、私のチューを拒む?

私が言うのもなんだけど、美女よ、私。



それから、交換のやり方を教わって、試し撃ち。


重力はヤバい。

兎に使ってみた。

動きが平野の兎程度まで遅くなった。

ジャンプが1メートルくらいしか跳べない。

角での突撃が届かない。


電撃はヤバい。

兎が丸焼き。

魔法の速度が早すぎて、回避不能。

しかし、音が大きくて耳が痛い…


何気に嬉しいのが、回復魔法。

ちょっとデニースに切り傷作ってもらって、回復させる。

私の回復魔法よりだいぶ上位っぽい。


きっとあれだな。

うちのパーティ回復薬がいないから、心配だったんだろう。

イザベルお姉ちゃんもいるしね。

回復魔法が有るか無いかで生存率がずいぶん違うから。


その後、三人で森の魔獣を狩りまくって、満足!



さて、さて、そろそろ村からお暇しようかと思っていたとき。

後ろ髪を引かれる思いで、発とうとしていたとき。


森が騒がしい。

森の魔力が高まっている。

魔獣の咆哮が轟く……


これは…もしや…

魔獣の氾濫?

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