第79話 【ミラベル視点】結婚ていいものですか? はい、羨ましいです

【ミラベル視点】


イザベルは早速、ルーカス君の家へ。

私たちも付いていく。

って、まずは実家じゃないの?


その家は庭に花が咲き乱れるちょっとメルヘンな家だ。

建物にちょっとツタが絡まっている。

たぶんルーカス君が建てたんじゃないと思う。


「お邪魔します」


中に入ると女性が二人。


「いらっしゃいませ。ルーカスのお姉さんとそのパーティですよね。はじめまして、ルーカスの妻のエレノアと申します」


「ルーカスの妻のリネットです。よろしくお願いします」


妻?

二人とも?

ルーカス君は苦笑いしている。


「……結婚した?」


イザベルが首を傾げる。


「うん、この前ね。まあ、いろいろあって二人と結婚しました」


彼女たちは薬指に赤い紐の指輪を嵌めている。

幸せそうに笑っている。


ルーカス君。

イザベルに似てカッコいい。

身長も平均より高いし、細身でスッとしている。

イザベルに存在感も、どことなく似ている。

だけど強者の迫力のようなものは感じられない。

優しそうだし、モテるだろう……


だけど妻二人。

ちょっとイラっとする。


なんだ私は恋人もいないのに、いや、これが私が選んだ人生だし。

そりゃ、そういう幸せもあるだろうけど、結婚したって相手がいい人じゃなくなることもあるし。

結婚適齢期って何だ?

若けりゃいいってもんじゃないぞ、チクショー!


まあ、まだ私は若い。

全然大丈夫だ。

問題ない……


「秋に結婚式があるんですが、お義姉さん、帰ってこられますか?」


エレノアさんがイザベルに聞く。

イザベルは首を振る。

そう、ここはそんなに頻繁に帰ってこれるところじゃない。


「そうですか、残念です」


エレノアさんは残念そうだけど、リネットさんはホッとしているような……


「そうだね……」


ルーカス君が深いため息をつく。


「ま、手がないわけじゃないけれど……やりたくないというか……」


「ルー君、頑張ってみようよ。お姉さんだよ。お祝いしてもらいたいでしょ」


「ルーカス、お姉さんも忙しいんだから、無理言っちゃダメでしょ」


うーん、リネットちゃんはイザベルが苦手?

何かやったな、イザベル。


「……ルーカス」


「姉さんも出たいの? しょうがないな。実は簡単なんですが……。内緒ですよ」


彼が苦笑いながら渡したのは、一枚の羊皮紙。

そこには綺麗な、見事な魔法陣が描かれている。

この魔法陣は……何?

私には解析できない……

聞いてみる。


「これは何でしょうか?」


「これは転移の魔法陣ですよ」


さらっと爆弾発言!


「えっ! 遺跡から発掘した?」


「いいえ、僕が描きました」


爆弾発言その2!


いや、描いたって?

転移魔法はほぼ失われた技術。

数百年前にはどこかの天才錬金術師がいて、その人だけが使いこなしていたらしい。

しかし、その人が亡くなってからはダメ。

試そうとした人がいたが、うまくいかず、実験失敗の事故で死亡。

誰もそれを再現できず、死亡事故が積み重なる。

そして封印……


「これ……は、正しく発動するの?」


ルーカス君は質問が理解できないようにキョトン顔。


「やってみます?」



家の一室、床に魔法陣が描かれている。

たぶん転移の魔法陣。

あの羊皮紙は隣の部屋の床に置かれている。


彼がそれに乗り、魔力を入れ、魔法陣が輝く。

瞬間、彼は消える。


急いで隣の部屋に戻る。

そこに彼がいる。


……凄い、本物だ。


「あ、逆ですね。こっちから、そっちに移動しないと」


魔法陣が発動。

ルーカス君は隣の部屋に戻る。


こともなげに転移を発動する……

天才だ……


「こ、これは距離は? 誰でも使えるの? 世間に公表は?」


「ちょっとミラベルさん、落ち着いて」


大変失礼した。

しかし、この魔法が再現されたことは魔法界にとって重大事件!

魔法学院がハチの巣だぞ!


「ああ、公開はしませんよ」


「何故?!」


「危ないですから」


「やはり事故が?」


「その安全は保証します。……うーん、あれです。文明が発達しすぎるんですよ……」


どういうことだろう?

それはよいことでは?


「そうですね……」


ルーカス君は語る。

これが危険な技術であることを。


移動の劇的な発展と情報の伝達速度向上、範囲の拡大。

それの軍事転用。

戦争の規模の拡大……


たしかにあり得る話ではあるが……


「君は、その功績を世に認めさせたくないの?」


私は素直にそう思う。

これだけのことをしたのに……


「僕は村の農家です。静かに暮らしたいだけですよ」


彼は静かに笑う……

年齢に似つかわしくない落ち着きだと思う。

老成している感じ。

イザベルの弟という年齢とは違和感がある。

いや、この姉があるから、この弟か。

苦労したんだね。


「……ルーカスは覇気に欠ける」


イザベルがそう評する。

が、彼女もそれほど深刻には思っていないようだ。

好きにすればいいという感じに見える。


「……それより剣だ!」


イザベルには転移魔法陣の重要性がわかっていない!

が、まあ、彼女には剣、らしい……


……しょうがないな。

この技術は秘密か。

ちくしょう、もったいないな……



「これは……」


イザベルが剣を手に取る。

あのエルフ、レティーシャが持っていた剣に比べ、しっかりしたつくりの剣。

あの剣と同様に薄く紫に光る。

やはり魔剣……


「いい出来でしょ。鍛冶屋のブレットさんはいい腕してるよね」


そこじゃない!

確かに普通の剣としても上等ではあるが、そこじゃない。

錬金術による強化がおかしい。

何だこの魔力。

ちょっと怖いくらいだ。


「……よし」


イザベルは気に入ったようだ。

無表情だが、たぶんとても喜んでいる。

私もこの子に慣れたなあ、感情がわかるようになるなんて……


「あ、魔力を込めるんだったら、外にして」


ルーカス君の注意により、庭に出る。

危険、ということか?



イザベルが魔力を少しずつ籠める。

剣の輝きが少しずつ増していく。

さらに光り……

ジッ、ジッ、ジッと音が鳴る。


「……鳴いている?」


「うん、雷の属性を付与してみた。雷っていいよね。これで斬られると感電して、一瞬動きが止まるんだ」


ルーカス君がやはり簡単に言うが、それはおかしい!

雷属性は勇者が使う属性だ。

神様から授かる属性。

もちろん魔法学院の教員も使えないし、書物にも載っていない。


「……雷か。面白い」


ここにいる誰もそれに突っ込まない。

知らないの?

私以外?

私が突っ込んで流れを止めると、空気読めないみたいじゃない!

誰か他にまともな魔法使いいないの!?


「強度も切れ味も前のよりよくなっているはずだよ。それと、ちょっと問題があってね……。魔力を込めすぎると一気に放電されちゃうんだよね……」


ん?

それは……


イザベルは魔力を込める……

剣はジジジと強い鳴き声をあげる。


「あ、空に向けて!」


ルーカス君の指示通り、空に剣を向けると、先端から空に向かって雷が撃ち上った……

雷の攻撃魔法……

まさしく勇者の魔法じゃない!


「当初の仕様どおりではないんだけれど、まあ、そういう仕様の武器だと思ってほしい。仕様変更ってことで」


困ったように笑っていた……


「よし! 魔獣を倒しに行こう!」


「ダメだよ、姉さん! 母さんたちが歓迎の料理を作っているんだから、今日は実家に行って!」


「……でも」


「母さんに怒られるよ!」


「……実家行く」


どうやらイザベルにも苦手なものがあるらしい。

やはり母は強いか……

どこの家も同じだな。


「ねえ、ルーカス君。私も欲しい」


デニース、うらやましそうに見てたからな……

しかし、そんな簡単にあのレベルの武器が手に入るはずない。


「メイスと盾? んー、いいですよ。面白そうだし」


簡単に手に入るらしい……


「やったー! ありがとう!」


デニースが、たぶん力いっぱいルーカス君を抱きしめる。

普通の人ならひとたまりもない、必殺のベアハッグ……

ルーカス君、身体強化!

あれを耐えるか!


「ちょっと、デニース! 彼は結婚してるんだから、抱きしめちゃダメ!」


「でも、この潰れない感じがいいよ。イザベル以来だよ」


楽しそうに頬ずりしている。

うん、どんなけの男を潰してきたんだ、デニースよ。

死屍累々か。


エレノアとリネットがいなくてよかった。

二人は実家に歓迎準備の手伝いに行っている。


「そうだ、ミラベルさんも杖作ってみていいですか?」


上機嫌のデニースにグルグル回されながら、ルーカス君が言う。

杖だとう?


通常魔法使いは、一般的なただの杖に魔物の魔石を嵌めたものを使う。

少しだけ魔力消費を抑えられる。

錬金術師が作った杖はとても高価で、Aランク以上の魔法使いが使っていたりする。

魔法の発動が効率的になり発動速度が向上したり、さらに魔力消費が抑えられたり。

本当に高価なものになると自分の使えない属性魔法を撃てたりする。

国宝になっていたりする。


天才ルーカス君が作る杖に興味がある!


よっしゃ!

死ぬ思いしてココに来たかいがあった!


ルーカス君最高!

後でほっぺにチューしてあげよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る