第78話 【ミラベル視点】何で森に来た、私? 強制だが…

【ミラベル視点】


漆黒の森。

魔獣の森。

その中に村があるなんて誰が信じる?


だが、実在する。

冒険者には有名は話だ。

ときよりその村出身の優秀な冒険者が現れるからだ。


確かにその村で生き残れる村人なら戦闘力はAランクを超えるはず。

しかし、なぜそんな危険な森に住む?

いくらでももっと住みやすいところはあるだろうに。


人生で初めてこの森に入る。


「…じゃ、行こう」


「なんかすごそうな森です」


こんな森に出してくれるもちろん馬車はない。

徒歩での移動になる。

徒歩で2日程度。

この森で夜を越える?

正気か?


「ほら、ミランダ行くよ」


デニースに引きずられ森に入った。



森の中は…意外に光が入り、清々しい気さえする。

ただ、魔力が満ちている…

地面からか?

どこかに発生源があるのか、強い魔力だ。

この魔力が狂暴な魔獣が発生する原因かもしれない。


なんで?

魔獣がデカい。

一番弱い鼠でさえ1メートルを超える。

そして狂暴だ。

兎が高速で突撃する?

可愛い顔して?


イザベルは慣れた感じで兎の突進を躱し、斬る。

兎が私に突進した時はデニースが盾で受け止める。

凄い音がする。

それでも、さすがデニース。

完全に受け止める。


…さすがに猪は無理。

デニースに抱えられて回避。


炎の槍を叩きこむ。

一発では死なないので、複数叩き込む。


死ねや!

怖かったじゃないか!


「…うん。ミラベルも慣れたね」


慣れてねーわ!

必死だっての!


「ここ良いよね。魔物じゃなくて、魔獣ってところが」


なんだかデニースは楽しそうだ。

言っている意味は分からない…


「…じゃあ、食べるか」


何で、食べる?

魔獣をか?

ここの村人は狂ってる!



猪を二人が楽しそうにさばいていく。

ここが何肉で、こっちが何肉と会話をしている。

楽しそうだ。


焚火を作り、それを焼く。

単純に串に刺して、塩を振っただけのもの。


「…懐かしい味」

「美味しい! これ、美味しいですよ!」


イザベル、デニースが美味しそうにかぶりつく。

私も恐る恐るかじってみる。

肉は柔らかい。

こんなに柔らかい肉は初めてだ。

脂が甘く、うま味のジュースが口いっぱいに広がる!

しかし、後味はさっぱりと、後に残らない。

まだ食べろ、まだ食べろと言っているようだ。


「これ、美味しい…」


「…だろ」


何故か勝ち誇ったイザベルの顔。

そうか、こういうものを食べて育ったから、街での食事に不満があるのか。

これに慣れたらダメだ。

戻れない。

これを求める体になる…


しかし、食べずには居られるか!


肉を齧る。

焼けたら取る。


おい、デニース、それは私の肉だ!



夜。

涼しい風が吹き抜ける。

遠くで遠吠えが聞こえる。

何か寂しい感じがする。


「イザベル、本当に良いのか?」


「…ああ。問題ない。昼にちょっと寝る」


イザベルが夜の見張りを担当してくれた。

慣れているのと、索敵範囲の広さから最適とのこと。


「おやすみ。イザベル」


デニースは素直だ。

木に寄りかかりすぐに寝る。

すぐに寝れるのは冒険者としての才能だ。

私も寝ようとするがさすがにこの森は怖い。

なかなか寝付かれない。


「…イザベルはさ、どうして冒険者になろうと?」


そういえば聞いたことないと思いだした。

デニースは冒険者になるしかなかった。

イザベルは、村でも生活できたのでは?


「…強い姉でいたかった。だから冒険者になった」


強い姉。

弟に対してということだろう。

出来の良い弟と聞いたことがある。

剣、魔法の天才。

一瞬でも気を抜けば追い抜かれると思ったのだろう。

冒険者として経験を積み、さらに強くなる。

弟には負けないということだろうか。

それもまた家族愛か?


「で、強くなれた?」


「…強くなった。だが、ルーカスがどうか」


自分が成長しても、相手も成長する。

その差はどうなったのか?

不安ということか。


私から見たら化け物レベルのイザベル。

イザベルが天才と認めるルーカス。

ルーカス君、どんな子なんだ?

きっとまぎれもなく化け物だけど。


「会うのが楽しみね」


「…ああ」


少し微笑んだ。

うれしいんだね。

もう少し頻繁に帰郷できればいいが、さすがに西の果て、漆黒の森の中じゃね…



「いやあー! 熊ー!」


4メートル越えの熊!

もうボスじゃね?

1パーティじゃ無理!

レイドだよ!

この森、無理!


「ははっ! 久しぶり熊!」


喜び勇んでイザベルが突撃。

攻撃を避けながら、斬りつけていく。


「潰れろや! 熊公!」


デニースも参戦。

こちらも楽しそう。


魔力の高まり!

魔法も使うのか。

この魔力量だと、たぶん受け止めるのは無理。

受け流す。


「うおりゃ! そそり立て壁!」


土魔法で壁を作成。

ちょっと斜めに。

熊の風の魔法、たぶん切り裂き系が壁に当たって、逸れていく。

しかし壁は崩壊。

ギリギリだ。


「危ねえだろ! ちょっと待っとけや、熊公! 穴穿ってやるかんな!」


風の槍を複数展開。

それを回転させながら発射。

私のオリジナル。

といっても、既存の魔法をちょこっと応用しただけ。


熊の硬い皮をグリグル削り、肉に到達。

と思ったが致命傷に至らず。

クソ!


「ナイス!」


イザベルがその傷に剣を突き立てる。

そこから切り裂く。


それが致命傷となり、熊を撃破!


ああー怖かった…

ほんと、いやだこの森。


もちろん熊も美味しくいただく……

捕って食う、原始人的なイザベル。

ちょっと慣れつつある自分が嫌。


意外に熊肉も美味しい。

もっと臭いのかと思った。



目の前に高い壁。

やっと森の中の村に到着した。


もう、この森は…

魔獣の数は多いし、みんなデカイし…

何度命の危険を感じたか…


いやあ、ホッとした。


「ここが村なのね…イザベルが生まれ育った」


「…そう。帰ってきた」


「わあー。しっかりした壁ですね。さすが森の中の村ですね」


そうか、この森の中に村を作るにはこれくらいの壁が必要か…

と、変な感想がでる。


村に近づくと……

強力な結界!


「イザベル。これ!」


「…ああ、結界。魔獣が入れないように。壁は保険」


「すっごい結界ですねー。チリってします」


デニースは巨人の血、人間外の血が入っているので、少し結界に引っ掛かりがるのかもしれない。


地面を見ると、巧妙に魔法陣が隠されている。

見たこともないくらい精密な、高度な魔法陣。

たぶん魔法学院の教師陣でも書くことができない程のもの。

この村には英雄の子孫が暮らしているっていう噂は本当かもしれない……

ということは、それがイザベル。

しっくりきすぎる…



門のところに人が見える。

数人。

手を振っている。


「…あ、母さん、ルーカス、父さん」


イザベルの家族の出迎えのようだ。

仲が良いようで良いね。


それにしても、どうして帰郷が分かったのか?

知らせていなかったはずよね。

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