第77話 【ミラベル視点】キャロルも冒険者に毒されて残念美人化している

【ミラベル視点】


フロストジャイアントを討伐し、王都に帰還。

ギルドへ報告する。


キャロルは嬉しそうに迎えてくれる。


「撃滅の戦乙女、いい調子じゃないですか。やっぱりパーティーって良いもんでしょ?」


「いやいや、あのメンバ。強烈すぎるって」


「いやいや、ミラベルさんもその一員ですって」


二人と同列に並べられるのは納得できない!

断固抗議する!


「そういえば、最近、一人すごい女性冒険者がいるんですよ」


「へえー。何、Aランク級?」


「そう。Aランク級。ソロなのでそこまで行くかは分からないですが。しかもエルフ」


「エルフ?」


それは珍しい。

エルフは北の森に国を作り住んでいて、閉鎖的で、ほとんど外界には出てこない。

たしか、身長が高く、容姿端麗。

寿命が長く、若干偉そう。

魔力が高く、腕力は弱い。

そんな感じ?


「じゃあ、魔法使い?」


「それがね、剣士なのよ」


「剣士。エルフで?」


「そう。聞いた話によると速攻型。風のように走って、鎌鼬のように切る。付いたあだ名が『風神の鎌』」


速攻系の剣士か…

イザベルが食いつきそうな話。


「イザベルに知れたらひと悶着ありそうね」


「決闘? 面白そうじゃない」


「ギルド職員が冒険者同士の争いごとを面白がってどうすんのよ」


「だって実力者同士の戦いなんて見ものじゃない」


いや、一般人があれを見ても何がすごいのか分からない。

動きが速すぎて見えないし、理解できない。



「で、噂の彼女の登場ね」


キャロルの視線を追う。

そこにはエルフの女性。

やはりすごい美人で、細身の体。

とても剣士をやれるとは思えない。


「キャロル。戻った」


声も綺麗。

彼女はマジックバッグから魔物の頭を取り出す。

マジックバッグ!

イザベルが持っているのを見たのが初めてで、これで二つ目。

とてもレア。

そして、魔物の首。

綺麗な切り口。

イザベルが切ったのと似ている。


「レティーシャ、お疲れ。さすが、さすが。仕事が早い」


キャロルは嬉しそうに対応する。

自分の担当が優秀で嬉しいのか。



さて、私はそそくさと退散するか。

イザベルたちが来るとヤヤコシイかもだから。

依頼の報告は大抵私が任されている。

受注の決定はイザベルが決めることが多い。

何を斬りたいかで決める。

しかし、報告は面倒。

何かを斬るわけじゃないから。


彼女たちはその辺で肉串でも買っているだろう。

イザベルもデニースも沢山食べる。

デニースは特にだ。

あの体だからしょうがないと思うが、彼女が前のパーティを抜けたの一因でもある。

食費がかかりすぎる。

まあ、それ以上稼げばいいだけの話だけど。


では、ギルドを出て合流しよう。



「ミラベル、お肉買ったよ。お食べー」


デニースが上機嫌でギルドに入ってくる。

遅かった…


「…ミラベル、食べろ」


イザベルも一緒だ。

彼女は会話がすこし不自由で言葉数が足りない。

その視線が、エルフをとらえ、下に。

剣を見ている?


「あ、イザベル、彼女は……」


「イザベル、さん?」


エルフ、レティーシャが反応する。


「イザベル・ブラウンさん?」


この人、イザベルを知っている?

いや、会ったことがあるならこの反応ではない。

イザベルを聞いたことがある?


「…そう」


「ルーカス・ブラウンさんの姉君?」


「…そう」


ルーカスってイザベルの弟。

そっちからの知り合いか…

あれ、でも弟さんってあの森の村で農家をやってるって…

彼女は森の村へ行った?


「…その剣」


イザベルがレティーシャさんの剣を指さす。

剣?

魔力を放っている。


「さすが。そう、これはルーカス殿にもらった物だ」


剣を抜き放つ。

薄く紫の光をたたえる美しい剣だ。

そして強い魔力を内包している。

魔法使いの私だから分かる。

これは魔剣。


たしかイザベルの剣もルーカス君の強化剣。

しかしレベルが違う。


イザベルが怖い顔で剣を凝視している。

なぜ姉の私よりも良い剣をこのエルフが持っている、というところか?


「私はレティーシャ。ルーカス殿とはこの前、森の村で知り合った。ルーカス殿から姉君への伝言を頼まれている。剣が欲しければ取りに来い、と」


「取りに来い」って、姉弟仲が良いんだか、悪いんだか…

少なくてももう少し伝言有っても良くない?


「デニース、ミラベル、行くぞ」


「え、村へ?」


イザベルが目を輝かせている。

剣士にとって剣は重要な物。

新しい剣、より上も物なら喉から手が出る。

まあ、そうなるか…


イザベルがギルドを出ようとしている。


しかし早速過ぎる。

村へ行くんだろう?

なら、それなりの準備ってものがあるだろう?

あの森だよ?


「なるほど、ルーカス殿とイザベル殿。存在感は似ているが、性格は全く違うのだな」


妙に納得しているエルフが一人。

存在感が似てるってどんな弟だ?

狂戦士か、きっとそうだろう。


「私もたまには帰りたいものだ。ルーカス殿によろしく伝えてくれ」


もう行くこと決定ですか?

ですよねー。


「えー、決闘は?」


「無いよ、キャロル。それは無い」


のんきな受付嬢を残し、私たちはギルドを出る。


そしてあの森、「漆黒の森」へと向かう。

脅威度Aランク以上の魔獣がうじゃうじゃいるという森…

生きて帰ってこれるよね?


「あ、イザベル。帰郷するなら王都でお土産買わないと!」


「…ミラベル、王都土産って?」


「ほら、王都クッキーとか、カステラとか。日持ちするのがいいからクッキーかな」


ちゃんと準備はしてから旅立った方が良い。

冒険者の基本だ。

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