第76話 【ミラベル視点】パーティメンバーってこうやって増やすんだっけ?

【ミラベル視点】


視線を感じる…

イザベルと視線が合う……

彼女は立ち上がり、こちらに歩いてくる…


なんで?


「…あなた、魔法使い?」


「そうよ」


「…なかなかの魔力量、ルーカスには劣るけどいい感じ」


彼女は静かに言う。

迫力がある。

怖い…


「…仲間になりなさい」


彼女のたちの仲間に?

いやいや、それは怖すぎるって。

確かに実力はあるだろうけれど、イカレタ二人の女性組、「ジェノサイド・アーミー」なんてダサい名前のパーティにか?


「それいい! うち、後衛いないものね! いいね、イザベル」


デニースは大喜び。

私は「入る」と言っていない。


「有難い申し出だけど遠慮するわ。私はソロが合ってると思う」


「…そう。少し話そう」


私にさらに近づき…

危険か?


そこで、私の意識は途切れた……



そこは安宿だった。

冒険者が使う普通の宿だ。

周囲を確認する。

大女、デニースが一人。

ずいぶん部屋が小さく感じる。


「あ、起きましたか」


彼女は水の入ったコップを差しだす。


「お水です。私、これくらいしか魔法使えなくって」


照れたように笑う。

コップを受け取り、一口。

普通のお水。

だけど、その人のよって少しだけ味が違うことを知っている。

魔法学校次席だから。

柔らかい優しい味がする。


「ありがとう」


「イザベルね。あれで良い人なんですよ。言葉が少ないだけで」


…あ、そうか。

そのイザベルに気絶させたれて、ここに運ばれた!

…私だって冒険者だ。

簡単にやられるとは…


あれは怖い。

強い。

そして、常識がない!

初対面の女性を拉致するか?


「なんというか…あの人は考え方が普通じゃないというか、田舎出身らしいのね」


田舎者なので常識がない?

で、片付く?


いやいや、デニースも結構暴力的で…


「私もね、こんなガタイだから、戦うしかできなくて。だけどみんな怖がってパーティに入れてくれなくて。困っていたら拾ってくれたんだ」


……

デニースは先祖に巨人がいたらしく、先祖返りで体が大きくなった。

巨人族は北方山岳地帯に住んでいるらしく、今でも少数の生き残りがいる。

力が強く戦闘に適した能力を持っている…が、戦闘に適した性格ではなく、優しいらしい。


普通の人間と違い、その上不器用で、戦うしか能がない。

まともな仕事にありつけず、冒険者になる。


いくつかパーティに入ってみたけれど、合わずに離脱。

ソロ活動を行う。


ランクが低い依頼は大丈夫だが、ランクが上がるにつれてソロでは難しいことが増える。

遺跡の探索も素材の採取も苦手。

要領が悪い。

デニースは戦闘は得意だが、動きは遅い。

敵の軍勢に囲まれたら面倒だ。


そういうときだ。

コボルトの大軍に囲まれた。

一匹は弱い。

けれど多人数で連携し攻撃してくる。


襲ってくる一匹を叩き潰している間に、後ろから複数が攻撃してくる。

身体強化で防御力も上がっているし、もともと普通の人間より硬くできているから、ダメージはそれほどないけれど、面倒。

そこに現れたのがイザベル。

彼女は速くて、鋭い。

死の風のような存在。

彼女が通り抜けるとコボルトの首は落ちる。

瞬く間にコボルトの群れは全滅した。


そこからイザベルとパーティを組む。

両手に持っていたメイスは、片手にし、もう片手に盾を装備した。

自分がすべての敵を殺す必要はない。

構えて迎撃していれば、イザベルが攻撃してくれる。

彼女が大変なときに守れる存在であればよい。

そんなタイミングは今までなかったが。


パーティでの活動は今までのソロとは違いうまくいった。

イザベルは口下手でいざこざも多かったけれど、力業で解決していった。


しかし、この二人では不足でないか?

そう思い始める。

前線職が二人だけ、そして両方田舎者。

色々と分からないことも多い。

また、二人は魔法が苦手だ。

魔法は色々と便利。

長い依頼になれば、魔法があった方が便利だ。

遠距離攻撃、回復魔法。

水の確保に、体を清潔に保つ魔法、索敵。


…いやいや、その魔法を一人で賄うって相当な使い手だよ。

私みたいな魔法学院次席とかじゃないと無理じゃね?

そんな使い手がゴロゴロ転がっているか?

私は転がっていたけれど……


で、私が捕まったわけか……



「悪くないと思うんですよ。女性で三人のパーティ。あなたもソロと伺いました。限界がありますよね」


確かに限界を感じる。

Cランクで良いとは、本当は思っていない。

あの金髪を見返すためにはもっと高ランクになる必要がある。


「仮ってことなら…」


「やった! パーティ成立ですね!」


いや、いや。

仮だ。

あくまで仮!

ダメなら逃げる。

……逃げられるかなあ?

ちょと絶望。



「…じゃ行くぞ。ミラベル」


前方にはゴブリンの群れ。

試しに依頼を受けてみる。

ゴブリンは冒険者にはそれほど脅威じゃなくても、非戦闘職の人たちには脅威。

しかも軍団になって村も襲う。

繁殖力も旺盛。

非常に迷惑な魔物。


近くの森の中にゴブリンの集落を発見した住民が冒険者ギルドに討伐を依頼。

私たちが受注。

現場に到着し、群れを発見。


とりあえず、遠距離魔法で一撃だ!


「どりゃあ」


気合とともに、火の上級魔法を打ち込む。

群れの中心に人間ほどの大きさの火球が着弾。

ドカンと爆発。

ほとんどのゴブリンははじけ飛ぶ、または炭になる。


「…おお。まあまあ?」

「すごいです。ミラベルさん!」


評価は上々?

イザベルはもう少し褒めてくれたっていいと思うが。

このレベルの魔法を使える魔法使いは少ないんだぞ。


残りのゴブリンをイザベル、デニースが倒していく。

圧倒的な攻撃力。

二人とも高い身体強化。

イザベルは武器強化も得意みたいだ。

デニースはそれほどでもか?

それにしても、イザベルの剣。

紫に怪しく輝く、その魔力の凝縮が…怖いくらいに。

そして簡単にゴブリンを切り裂く。

空気を切り裂くように。

紫の光が線を引き、残像を残す。

美しいとさえいえる。



「いいですよ! これ! ねえ、イザベルさん、ミラベルさん!」


デニースは上機嫌。

すごく喜んでいる。

彼女の顔を見ているとなんとなくこれでいいかとも思う。

確かに楽にはなるだろ。


「仮ね。仮」


仮の入団ということになった。

パーティー名はもう少し可愛くする。

「撃滅の戦乙女」どうだろう。

マシになったと思う。


この二人と一緒になって良かった点。

男どもが寄り付かなくなった。

うん、いいことだ…と思う。

婚期は逃すけどな。


その後、何件か依頼をこなした。


デニースは普段は優しい力持ちだが、戦闘になるとイザベル同様の狂戦士だ。

狂戦士の二人は作戦を無視し、言うことを聞かない。

私だけが苦悩する。

もうこれで良いかと諦めかけている。


私たちはBランクになった。

エース級のAランクまでもう少し。

色々と不安なこともあるが…


いや、不安増えてない?

一人の時の方が楽じゃなかった?


捕まってしまった私が運がないのか…

もう、逃げられない。

ため息が多くなったと思う、この頃です…

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