第75話 【ミラベル視点】ジェノサイド・アーミーってダサくない?

【ミラベル視点】


私はミラベル・グラフトン。

Aランクの冒険者。

魔法使い。

よろしくね。


ちょっと自己紹介があっさりしすぎたか…

手が離せないので許してほしい。


フロストジャイアントの群れ、20体程度と交戦中だからだ。


「ちょっと、イザベル、前に出すぎ! 私が魔法を使う時間を作ってよ!」


私たちのパーティ「撃滅の戦乙女」のメンバー、剣士のイザベルが高笑いしながら突っ込んでいく。

アンタが強いのは知っているから、だけど、チームプレーをしようよ!


「もう! デニース。イザベルのフォローお願い!」


「分かった」


もう一人の前衛、デニース。

先祖に巨人がいたんじゃないかっていう、身長2.5メートルの大女だ。

巨大な盾と、これまた巨大なメイスを持って戦う。

安定感が半端ない。


パーティとしてはデニースが敵を引き付け、イザベルが叩き、私が魔法で決定的な一撃を入れる…はず。

まあ、まともに戦えたことはない…


イザベルがバカのように突っ込むんだ。


強力な身体強化と、武器強化で強化された凶悪な武器。

あれ、紫に光ってるよ。

なんかヤバいやつだよね。


魔法使いの私では補足できないくらいの速度で敵に接近し、切り伏せる。

フロストジャイアントって1体でもAランクの脅威度の魔物だ。

防御力も尋常じゃない。

パーティの連携で削って倒すのが普通なんだけど…

あの子Sランク相当じゃない?

人間とは思えないくらい強い。


…いや、強い。

強いんだけれどね……

もう少しパーティを考えようよ。

バーサーカーか!


なんだかな…

私、パーティ組む人間違ったかもしれない……



私の話を少しだけしよう。

ウィルムニア魔法学院を次席で卒業した秀才だ。

うん、首席でないってところに可愛げがあるわけだ。

あんの、いけすかない金髪ロン毛がいなければ私が主席だったのに……


そういえば、下の年代にものすごい天才がいるらしい。

噂は噂、気にしない。

きっと私より下だ、きっと。


まあ、そんな秀才な私が何故冒険者なんかになったかというと、宮仕えが耐えられないからだ。

金髪ロン毛君はサンバートフォード王国の宮廷魔術師になった。

国のお抱えなんて……貴族ばっかの職場で、おべっか使って、堅苦しいったらありゃしない。

短い人生自由に生きてなんぼってな。

ということで冒険者になった。


そこまでは良いんだけれど、まあ、可愛い私に寄って来る冒険者なんて、スケベな男どもばっか。

しかも実力もない。

将来性もない。

何故、私に釣り合うと思うの!

自分を見てみなさいよ!

そのヒョロヒョロな体で、私を守れるとでも?


という訳で、女性の仲間を探していた。


サンバートフォード王国、王都ヘイスティンフィル。

その冒険者ギルドだ。


私もソロで活動し、Cランクの冒険者になっていた。

ソロっていうのは、私の実力に合う女性冒険者がいないからであって、友達ができないキャラだからじゃないぞ。

学院では取り巻きがいっぱいいたんだ。

ま、それは友達じゃないけど。


このときもオークの集落を壊滅させて帰ってきたところだ。

集落の壊滅は得意分野だ。

遠距離から強力な魔法をぶっ放せば終了。

少し残っていても個別に撃破すればいいだけ。

魔法使いのソロでも簡単に完了できる。

いやいや、私のような優秀な魔法使いならか。

討伐証明部位を集めるのが面倒なだけだ。

人手は欲しい。


若い可愛い男の子を荷物持ちとして雇うか?

青田買いってやつ。

C級冒険者ならそこそこ余裕があるので、一人くらい余裕か。

しかし、従順で聞き分けが良く頭の良い可愛い年下のちょっと身長が低いくらいで仕事に困っている男の子はなかなかいないものだ。


どこかに可愛い男の子が落ちていないか見つつ、カウンターへ向かう。


「キャロル、終わったよ」


なじみの受付キャロルに話しかけ、討伐証明部位を出していく。


「うわあ…黒こげじゃないですか。遠距離からの高火力」


キャロルは話しながらも数を数えていく。

慣れたものだ。


「…はい。魔法でひき肉になったものもあるでしょうから、この数で集落壊滅依頼、達成ですね」


「私に抜かりはない」


「はい、はい」


キャロルは私を見つめる。


「でも、無理は禁物ですよ。この先の依頼はソロでは、特に後衛職の魔法使いではキビシイですよ。パーティをお勧めします」


私だってわかっているけど、いい子がいないの!

変な人たちとパーティを組んでも良いことないし。

最悪、Cランクのまま冒険者やってくのもありかなと思う。

…やっぱ、どっかの貴族にでも飼われるか?

すんごくイヤだけど。


「ミラベルさん、報酬です」


はー…今日はこれで酒でも飲んで寝よう。



近場の安めの食堂。

冒険者ご贔屓のお店。

いつものA定食。

豚肉のグリルとパン、スープ。

追加でワイン。

安物だけど、まあまあな味だ。


「てめ! 俺たちがサンザンさそっているのに何ムシしてくれてんじゃ!」


男の怒号。

ガラの悪い中年の冒険者三人。

中堅どころって感じだ。

Dランクあたりだろう。


二人の女性……そのうちの一人がデカいな。

座ってあのサイズ…身長軽く2メートルは越えるじゃないか。


を、中堅冒険者三人が囲んでいる。

小さい方の女性はそれを無視して、鳥足の丸揚げをかじっている。


「…美味しくない。村の肉が恋しい…」


呟く。

男性をまったく意に介していない。

そりゃ、男どもも怒るわな…


「ねえ、イザベル、ねえ、どうしよ…」


大きな女性の方がオロオロしている。

こちらは体に似合わず気が小さいらしい。


「おい! 俺たちのパーティに入れてやろうってんだ。 女二人じゃこの先無理だろう。俺たちの優しさだぜ」


ただ女が欲しいだけのモテない冒険者の男どもか。

しかし、あの女性たち……相手が悪い?


「ねえ、ドナ。あの女性たちって…」


食堂のフロアのドナを捕まえて聞く。


「ミラベルさん、知らないんですか。あれが『ジェノサイド・アーミー』ですよ」


ああ…

あれが「ジェノサイド・アーミー」か。

近頃話題になっている女性パーティだ。

魔物の群れに笑いながら突撃し、楽しそうに屠る、狂気の戦士たち…

見た目、そうは見えないが…

噂は噂か?


しかし、だとすると、Dランク冒険者には荷が重いだろう。

彼女たちはたぶんAランクの実力がある。

そう噂されている。


DとAでは実力が違いすぎる。

大人と赤子ほどの差がある。


「あいつら知らないのか?」


「たぶんね。初めて見る顔だから、ここに初めて来たんじゃなかな」


なるほど、他の冒険者たちは傍観している。

「ジェノサイド・アーミー」にかかわるのが怖いのと、放っておいても問題ないことを知っているから。


「…うるさい! ご飯がまずくなる!」


イザベルと呼ばれた女が男を睨む。

殺気が!

魔法使いでも分かる。

ヤバいやつだ…


ベテランの冒険者たちは明らかに委縮している。

絡んでいるDランク達は分かっていない。

だからDなんだ!


「何睨んでんだよ、嬢ちゃん!」


男がイザベルの肩に手をかけ…

イザベルがその腕を掴み、阻む。


「おい! ちょっと!」


男が慌てる。


「何してんだ。嬢ちゃん相手に、演技か?」

「よせ、よせ、大根なんだから」


仲間の男の下卑た笑い。


「ちが、う…やめ…」


ボキと音がする。

…骨を、握りつぶした?


「ぎゃあぁあ」


男が泣き叫ぶ。

だとするとかなり高位の回復魔法じゃないと治らないだろう。

骨折なら普通にくっつくけど、潰れた骨は…


「…消えろ」


イザベルは何事もなかったかのように殺気を納め、静かに冷たく言う。


呆然としていた男たちが我に返り、つっかかる。


「てめ、仲間に何してくれてんじゃ!」

「舐めてんじゃねぇぞ!」


「あー、すみません、すみません」


大女が立ち上がり、オロオロとしながら、男二人の頭を鷲掴みにして……持ち上げる?

男は一人80キロは体重がありそうな…それを片手で、身体強化もなく…


「…デニース、捨ててきて」


「すみません、すみません、でも、私も静かにご飯が食べたいので、すみません」


大女、デニースは二人を食堂の外に放り出し、戻ってきて残った男を担ぎ、外に捨てた。

席に戻り食事を再開する。

いや…この大女も大概だな…

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