第74話 バッドエンドはNO!

ネルも村の生活にだいぶ慣れて、ガリガリだった体も少しだけ肉がついてモデルくらいにはなった。

シンディーさんの家にも遊びに行くようになった。

奴隷という立場、さらに僕と妻しかいない家庭なので、僕の家ではいろいろと言えないことがあるだろう。

シンディーさんのところで発散してもらいたい。

……言いたいことをいつも言っているか?


錬金術の習得はボチボチというところ。

難しい技術なので、時間がかかる。

気長に行こう。


『私には時間だけはありますから。ゆっくりでよいです。話相手ができただけでも嬉しいです』


「……ゆっくりってな。これのどこがゆっくりだ! スパルタじゃねえか!」


レアとも仲良くなったようで何よりだ。

レアはもう少し手を抜いてあげて欲しい。

僕と比べて習得が遅いので厳しくしているよう。

僕には『少しだけ才能』があるので、そこは少しだけ違うのかな?


「デザートを持ってきたよ。休憩にしよう」


「お、プリンか。いいね」


「頭を使うのに糖分は必要だよね。こら、ネル。お茶を淹れるから待ってなさい」


「……うっさい。お母さんか」


すぐに食べそうになっているネルに釘を刺しておき、お茶を用意する。

魔法で水を出し、加熱する。

茶葉を入れ、数分。


「……なんかな。研究室ってビーカーをアルコールランプであぶって、インスタントコーヒーを淹れるイメージなんだが。こっちは魔法か……」


「ビーカーってまずそうじゃない」


「魔法だって同じようなもんじゃないか」


「僕らに細かい味なんてわかんないんだからいいじゃない」


「僕らって、アタシを含めるなよ」


「味、わかるの?」


「わかるわけない」


火でお湯を沸かすと対流とかでお湯の柔らかさが違ってとかあるのか?

お湯の温度で茶葉から抽出される成分が違うとかならわかるのだけど。

まあ、庶民の舌には同じだろう。

並べて飲み比べなければわからない。



では、恒例の話題を振りましょう。


「ネルはさ、どんな漫画好きだった?」


「ん、前世か」


「そう、そう」


ちょっと趣味の話をして仲良くなっておこうって魂胆だ。

絵里香さんともやったし。


「……ルーカスから言えよ」


おっと、ネルは恥ずかしがり屋だった。


「『一撃男』とか『願いの宝玉』とかかな。『海賊王!』も読んでたよ」


「ふーん、まあ、王道だな……」


「広く浅く、人気がありそうなのを手当たり次第に読んでいたから、深い所まで話はできないよ」


「ま、いいんじゃね、それも。あんまり詳しくってマウントとってくるのもヤだし」


「で、ネルは?」


「……ん。『はじめのワンステップ』、『ガキ』、『JJ」、ま、王国」


「なんか男らしいラインナップだね」


「あんま、少女系は読まない」


「『ブレザーサン』とか、『カードコレクションつばき』とかは?」


「まあ、知ってるけど、それほど」


ふむふむ。

なんとなくネルらしいけれど、逆に女の子女の子な作品かなとも思っていた。


「……でもさ、つまんないよな。こっちには漫画もアニメもゲームもないんだ」


確かに娯楽が少ない。

子供はチャンバラとか、鬼ごっことかしているが、少し大きくなるとやることがない。

家の手伝いとかで忙しくなるのと、大人になるのが早いので気にならないが。


むしろ暇をしているのはお爺さん、お婆さんかもしれない。


「異世界物の定番、リバーシか?」


「……いや、すぐ飽きないか。チェス、将棋、囲碁、麻雀はどうよ」


「僕はルールしか知らないよ。麻雀もそれほどやってないし。将棋は漫画で読んだだけで、囲碁なんかわからないよ」


「ああ、アタシも漫画で読んだだけだな」


「ご老人たちに預ければ強くなると思うけれど、僕らより強くなってしまうのも、何か悲しい」


「……元の問題が解消されない。アタシが楽しめないだろ」


二人して頭を抱える。

娯楽って何だろう?

この世界じゃ気軽に旅行なんてできない。

いや、僕の移動魔法があればなんとかなりそうだけどね。

あまり動くと強制イベントの発生が……


『その漫画というのはどのようなものなのでしょうか?』


静かに聞いていたレアだが、興味を持っていたようだ。

彼女に漫画の説明をしてみる。

言葉で説明するのは難しい……


『そうですね、描いてみたらどうでしょうか。ないものなら作ればよいのでは?』


「いや、レア。漫画をなめるなよ! 簡単に描けるようなもんじゃない」


そうだよね、ネル。

漫画家さんに敬意をだ。


「うーん、小学生レベルの4コマとかなら……」


「ルーカス、お前、絵描けるのか?」


「いや、絵心ないよ。ネルは?」


「聞くもんじゃない」


うん、絵が描けないのなら……


「小説は?」


「……アタシは文章もヘタクソだぞ。読書感想文なんか1文で終わる。『おもしろかったです』ってな」


あれな。

あらすじ書くと感想文じゃないって怒られるし、感想と言われても困る。

へー、そうなんだって感じで読んでいるだけで、面白いとか共感できたとかほとんどない。

さすがにつまらなかったですとは書けないし。

書いたところで、どこがつまらなかったのか書かないといけない。

ちょっとした深堀りが必要だ。

今思えば、マインドマップとか使えそうだなと思う。

が、それを知ったのは仕事を始めてからだし、小学生に教える学校があるのだろうか?


「書いているうちに上手くなるんじゃないかな?」


とりあえず書いてみることが重要だと思う。

そして長く続けていれば上手くなっていくと思う。


『前に話してくれた、絵本とかを書いてみたらどうでしょうか?』


レアに向こうの文化を聞かれたときにちょっと出てきた話題だ。

よく覚えていたものだ。


「……だから絵なんて描けないって」


「うーん。じゃあさ、昔話とかは? 絵なしで」


「桃太郎、浦島太郎とかか?」


「そうそう。シンデレラ、白雪姫とかもいいかもね」


「パクリじゃん」


「いいじゃないか。違う世界だし。慣れてきたら『銀河英傑列伝』とかも読みたいな」


「書けるわけないだろ! 原作だって読んでない。アタシはアニメだけだぞ」


ネルに睨まれる。

まあ、ハードルは高いが、そのうち何とかなるような、ならないような。


「同じレベルで書くのは無理だと思うよ。こっちは素人だもの。だけど、同じような筋の話なら作れるかなって」


「それを書いてどうなる?」


「ちょっと面白くない? ネルが書く『銀河英傑列伝』。きっとネルらしさが出てくるよ」


「何だよ、アタシらしさって。何でJKにスペースオペラ、書かせる?……」


「JKだったのは前世。今はもう大人だろう」


きっと同じ内容の話を違う人が書くと、全く違った話になるはずだ。

ネルだって内容は大まかな筋しか覚えていないと思う。

きっと頭に残っているのは、誰がかっこよかった、誰が死んで辛かったとかその程度だよね。

イベントの細かいところはネルの考え方、経験とかによって埋まっていくんだ。

面白くないか?


「パクリが嫌なら、いろいろ混ぜる? 『海賊王!』を混ぜて、『銀河皇帝に俺はなる!』とか」


「……面白いか、それ」


ネルの視線が冷たい……

知っている。

僕に才能はないさ。


「まあ、例えだ、例え」


ごまかす。


「本当にオリジナルと言える作品なんてほぼないさ。みんな何かをベースに書いてるんだよ。ファンタジーの古典、『指輪物語』だって、イギリスという妖精が息づく土壌があってできあがってるんだ」


「……『指輪物語』、読んだことない」


偉そうなことをいっても、僕もはじめをチョロっとしか読んだことないけどね。

古典は古典。

読むのに体力がいるんだ、アレは。

すぐ眠くなって、読み切ることはできなかった。

それは秘密。

伝える必要はない。


「時間はあるしさ、趣味として書いてみたら? レアも楽しみにしてるし」


『はい、違う世界の物語をたくさん聞きたいです』


ネルは僕を少し睨んで、ため息をつく。


「ま、暇だしな。少しやってみるか。嫌になったらやめるからな」



こうして僕は小説家の卵を手に入れたのである。

まあ、彼女が楽しんでくれればいいだけだ。

ついでに僕も読み物を手に入れられたらよい。


こっちの世界、物語が少ないんだよね。

物語は子供に道徳を教えるような物ばかり。

もうちょっと道徳臭くないものが読みたい。

気軽な物語がいい。

そしてできるならハッピーエンドが望ましい。

バッドエンドは辛くなるから、NOだ!

あれは本当に体力があるときしか読めないよな。

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