第71話 村に帰りました…怒られました…

僕は正座をしている。

さて、何年ぶりだろうか…

前世から数えてだからなあ。


「で。な ん で、結婚指輪を買いに行って、奴隷を連れてくるのよ!」


エレノアさんに説教をされている……

問題はリネットだと思ったら、エレノアさんだっという意外性。


「はい。すみません」


リネットは妻の座があるので、奴隷程度では揺るがないらしい。

意外な反応だった。


「事情は理解できました。しかし、このタイミングで奴隷? 他にやりようがあったのではないですか?」


「はい。すみません」


ネルはリネットの部屋へ、服をもらいに行っている。

サイズ的には一緒らしい。

シンディーさんはサイズが違うからね、主に胸が。


「奴隷って何ですか、女奴隷って! 新婚家庭で!」


「はい。すみません」


ネルとはもっと話したい。

前世のこととか、これまでのこととか、二人きりで。

どこか静かなところがないだろうか。

妻が二人いると家の中では無理だよね。


「さっきから答えが一緒ですよ!」


「まったく、申し訳ございません」


とりあえず謝るしかないじゃないか。

でも、ネルを助けたことは悔いていない。

僕の中の正義だ…

正義って言葉は好きじゃない。

じゃあ、偽善?

それも違うよなあ。


「まあ、しょうがないわね…」


彼女は深いため息をつく。


「そんなルー君だから、私の旦那さんなんだし」


「ありがとう。エレノアさん」


なんとかなったらしい。

呆れられて終了したような気もするが…


なんだろう、夫って、きっと妻には逆らえないようにできているんだろうね。

生涯それは変わらないんだ。

それでいいのだろう。


「もうこれっきりにしてよね…二人の時間が減るのは嫌だし…」


エレノアさんがとても愛しく思える。

彼女を抱きしめて頭を撫でる。


「本当にエレノアさんが僕の妻で良かった」


「ルー君ったら…」


彼女の目が潤んでいる。

顔を近づけて、キスを……



「ねえ、ルーカス。ネルの服これ、ちょうどよくない?」


ちょっと!

リネット、タイミング!


トテトテと二人が階段を下りてくる。


ネルは濃紺のシックな色のワンピースを着ている。

サイズはぴったりだ。

胸が同レベルだからかな。

リネットが地味な服をネルにあてがった感もなくはないけれど、ネルにはそれが似合っている。


ネルは無言で僕を見ている。

これはあれか、似合うって言わないといけない場面なのだろうか。


「うん。良く似合っているよ」


「…知らん…」


フイと顔を逸らす。

たぶん態度ほど仲が悪いわけじゃないと思いたい。


リネットはそれを見て嬉しそうだ。

僕と奴隷の仲が悪いと思っている?

仲、悪いわけじゃないよ、ね。



夕食。


「ルーカス…いつもこんな美味しいもの食べてたのか?」


ネルの非難の目が痛い。

しょうがないじゃないか、生まれた場所が違うんだから。

この村が豊かなんだから。


そろそろネルも肉が食べられるだろうということで、兎肉のシチューを作ってもらった。

クリフ君ところのバターが効いたホワイトシチューだ。

家庭といえばブラウンシチューではなくクリームシチューだと思う。

前世の母の味の一つだったりする。

ま、市販のルーを使ったシチューだけど、それでいいよね。


「懐かしくない?」


「…ちょっと泣けてくる」


「皿に残ったシチューはちゃんとパンでこそいで食べなよ」


「…うっさい」


ネルは喜んでくれているようだ。


僕も食べよう。

ホッコリする。

やっぱり我が家が一番だ。

愛する妻(たち)と美味しい料理。

自分のベッドでゆっくりと寝れる幸せ。

ゆっくり寝られるかは不明だけれど……



さてネルだが、何をしてもらおう。

働かざる者食うべからずだ。


才能的に錬金術師なのだろう。

レアの件も停滞気味。

僕も農業に開拓、狩り、魔法開発に忙しい。

錬金術にまわせる時間が少ない。

正直サポートが欲しいところ。


錬金術の研究所に連れて行くか。

あそこなら静かに話せるし。



翌朝、畑仕事から帰宅し、朝食をとる。

ハムエッグにチーズ、野菜のスープ、茶色いパン。

非常に文化的な朝食といえよう。


椅子に座るネルは不機嫌そうに目玉焼きをフォークでつつく。


「…不公平。これまで朝食なんてとったことなかった…」


まあ、そういうこともある。


「これからは食べられるんだし、いいじゃないか。ほら、温かいほうが美味しいよ。食べよう」


彼女は不公平と漏らしつつ、それでも朝食を美味しそうに食べた。

エレノアとリネットも微笑ましく見守っている。


「あ、ネル。午後付き合って」


「…何」


「ルーカス…奴隷だからっていかがわしいことはダメよ!」


「…変態!」


「リネット、いや違うって、錬金術の方を手伝ってもらいたいんだよ」


「ああ、そっちか。って、ほぼ密室じゃない!」


「あそこにはレアもいるよ!」


何故、そんなに信用がない?


「リネットちゃん、ルー君はそれほど肉食じゃないよ。一緒に住んでいるのに、私に数年も手を出さなかったんだから」


それもそれで、なんか情けないような…


「…錬金術もやるのか?」


「うん。成り行きでね。それにこの村だと薬作ってくれてた人も他界されちゃったし、僕が継いでね」


そういうことだと、絵里香さんも多才だった。

全属性魔法に錬金術か。

さすが召喚された者ってところかな。


「…ま、いいぞ」



畑の仕事をこなし、ネルと一緒に研究所に転移する。


「すご! 転移だよ、転移!」


珍しくネルのテンションが高い。

ここは剣と魔法の世界だよね。

で、転移の魔法は割と高位に属する。

あの絵里香さんでも習得できなかった魔法だ。


しかし、魔法陣による転移は比較的簡単に発動できる。

僕が各地に残している魔法陣は安全のためひと工夫して、簡単に発動できないようにしている。

誰でも発動できるようだと安全ではないからね。


彼女は珍し気に部屋の物を見ている。


『おかえりなさい。マスター』


「ただいま、レア」


「…誰かいる? 頭の中に、声…」


「こっちに来て」


ネルをレアのところに案内する。


透明な大きなガラス瓶。

裸の女性が浮かんでいる。

透明な白い肌にピンクの長い髪。

そして印象的な紫色の美しすぎる、ガラスのような瞳。


「彼女はホムンクルスのセントウレア」


『こんにちは。初めまして、セントウレアと申します。レアとお呼びください』


「ホムンクルス?」


『レアとお呼びください』



ネルに錬金術のこと、レアのことを説明する。


「…ふん、私にこの子、レアを外に出すのを手伝えってこと」


「うん。お願いしたい」


「……何であたし?」


「だって、君には錬金術の才能があるでしょ」


「え、錬金術?」


彼女は目を見開く。


「だって、あたしのは不死じゃ」


「? 錬金術の才能もあるよ」


彼女がバンと机をたたく。


「先に言っておいけよ! こっちは知らないんだ」


ああ、そっか、そっちも知らなかったか…

普通に生活していたら錬金術なんかに係ることないからな。


「あんた、私にステータスの魔法を教えろ!」


確かに彼女も転生者だから、ステータスの魔法を使えない方がおかしい。


「うん、教えるから、そんな睨まないでよ」


「絶対だからな!」


拗ねた感じはまだ子供だ。

ガリガリに痩せているけれど、この村でたくさん食べて、健康になって、奴隷から解放されて、幸せになってほしい。

口は悪いけど、きっと美人になって、異性にモテるだろう。


彼女が錬金術を使えるようになってくれると僕も助かるしね。

あ、レアと馬が合うといいな。

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