第68話 指輪、正直分かりません

翌日、サイモンさんと合流する。

昨日の肉パーティに呼ばれなかったということでサイモンさんの機嫌が少し悪かった。

旅の疲れで寝ているところを起こすのは悪いと思ったから…


トカゲが狩れたときにご馳走することで機嫌を直してもらった。

久しぶりにトカゲが食べられると、上機嫌だ。


素材は昨日のうちに売りさばいてもらった。

指輪を買うには十分な資金ができたとのこと。

指輪がどの程度の価値なのかが分からないけれど。


僕ら3人はどのような指輪を買えばよいか見当がつかない。

前世でも結婚なんてしてなかったし…

恋人さえいなかったけど。


村の奥さんがたの指輪を観察していれば、どのような物かは分かるはずなのだけれど、悲しいかなその辺は全く興味がなく、意識してみたことがなかった。


でも大丈夫!

サイモンさんがここ最近の男性たちの指輪購入サポートをしている。

彼の助言に従えば大丈夫!

「ちゃんとサイモンさんに相談するのよ!」とリネットに強く言い渡された。


ちなみに指のサイズは糸を使って測ってある。

僕の場合、妻が二人になるため、僕が嵌める指輪は一つでよいのかと思ったのだが、夫婦一組で一対らしい。

僕は二つの指輪をはめるべきだという。

ここで問題が一つ。

誰との指輪をどの指へはめるかだ。

喧々諤々の話し合いが行われたが、結局、先着順ということになり、左手の薬指がエレノアさんとの、右手の薬指がリネットとの指輪になった。

この世界でも左手薬指が基本みたい。



鍛冶屋に到着する。

アクセサリーのような小物を得意とする職人さんとのこと。

武器、包丁の類は置いていない。

指輪、ネックレス等のアクセサリー類が店頭に並んでいる。


「いらっしゃい。サイモンさん」


「お久しぶりです」


「あら、そちらの男性がた…指輪ですね。おめでとうございます!」


女性が接客していた。

サイモンさんとは顔見知りらしい。

いつもここで指輪を作ってもらっているのだろう。

話が早くてよい。


早速、指輪の素材は見せてもらう。

銀、金、プラチナ、いろいろある。

…あれ…ミスリル?

本物?


ちょっと鑑定してみる。

鑑定の魔法はステータスの派生として作成してみた。

一般的な物語の鑑定とは違いすごく情報量が少ない、劣化版だ。

たぶん、これは僕の魔法生成の技術が拙いためだろう。


金属:ミスリル

 品質:C


本物だ…

いや、侮っていた。

ちょっと品質は低いが、正にミスリル!

初めて見た!


「ミスリルか…」


「お客様、お目が高い。ミスリルはつい最近入荷したばかりなんです。運がいいですよ」


「お、さすがルーカス君、ミスリルを知っていたか。これはレアなんだよ。貴重なものだから、指輪にする人も多いよ」


「え、サイモンさん。予算が足りますか?」


「大丈夫だよ。トカゲが高く売れたからね。十分さ」


うん。

折角だからミスリルにしよう。

銀より上品に銀色に輝き、それだけで存在感を感じる鉱石。

結婚指輪にもってこいじゃないか。

もしかしたらかなり魔法強化を入れられるかもしれない。

指輪か…小さい…僕の技量が足りないかもしれない……


更に欲を出せば…


「ミスリルの素材自体を追加で買えないですか?」


「そこまでは足りないよ」


さすがミスリル、ファンタジー鉱石だ。

…この世界でどこかで採れるってことだよね。

掘れないだろうか?

さすがに他人の鉱山では無理だとしても、森の向こうの山脈とかに眠っていないだろうか?

でもあそこって古龍がいるんだっけ…

無理かな…


ミスリルはブライアンさん、クリフ君は手が届かなかった。

ということで、ブライアンさんはプラチナ、クリフ君はピンクゴールドにした。

デザインは、僕とクリフ君がシンプルなリング、ブライアンさんはねじった感じ。

「まあ、妥当だね」とサイモンさんのお言葉。

たまに攻めたデザインにして奥さんに怒られる人もいるらしい。

ハエとか、トンボとか、フンコロガシとか…

アクセサリーのモチーフとしてはアリなんだろうけど、結婚指輪としてはちょっとね…


僕がシンプルなものにしたのは魔法での強化が入れやすそうだからだ。

せっかくのミスリル。

魔法を付与してマジックアイテムにしない手はない。

エレノアさんは戦闘力が無くて心配だし、リネットも魔法を更に強化したい。

それぞれ違う感じの強化が良いかな。

村の中なら大概安心なんだけれど、何があるか分からない世界だからね。

少しでも強化して安心したい。


せっかくこんな僕の妻になってくれてんだ、幸せにしないといけない。

まずはこの世界で生き延びること。

それは前提。


指輪の作成には時間がかかる。

次にサイモンさんが商売に来たときに受け取ってくれることになった。


ということで、この街で仕事は終わりだ。



さて…

昨日は大変で、観光もできなかった。

街をブラブラしてから帰ろう。


村で作っていない野菜の種とか苗とかないかな。

一度村で育てるのを諦めたものだとしても、僕には土の精霊がついているので可能性がある。

大豆とかないかなあ。

醤油とか納豆とか豆腐とか欲しい。

発酵が難しいか…

さすがにお米はないだろう…

意外に野生で生えてたりしてね、お米。



翌日、僕たちは村に帰るために、街を出る。


ちなみにギルドの屋根裏にこっそりと移動の魔法陣を設置しておいた。

移動が楽になるように。


たぶんね、頻繁に来るようになるだろう。

隣町だものね。


嫌だけれど、イベントがね……



さて、シンディーさんだ。

彼女は馬車に乗り村を出る。

ブライアンさんと結婚し村の住人になる。

この街には頻繁に帰れないだろう。

友人たちとの別れになる。

しかし、その顔には寂しさよりも幸せがあった。

少しの不安もあるだろうけれど、ブライアンさんがどうにかしてくれる。

夫婦だからね。


グレタさんたち娼館の人たちが見送りに来ている。

ほとんどは別れを惜しんでいる顔だけれど、若干結婚退職した仲間への嫉妬もありそう。

複雑だ…



青く晴れた爽やかな風が吹く日に、お嫁さんは仲間たちに見送られて、街を出る。

仲間は白い花びらを籠いっぱいに持って、それを青い空に放つ。

風に花びらが舞って、空に舞い踊る。


シンディーさんの瞳は若干潤んでいるように見える…


どうも僕も少し感傷的なっているようだ。


どんな夫になるのかなあ、僕は。

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