第65話 鬼退治。桃太郎だとしたら僕は猿?

「ちょっと無茶します。このことは秘密ってことでお願いします」


ギルドマスターに言っておく。


街の外。

今いるのは僕たち三人にギルドマスターだけ。


マリーさんが馬の手配や、旅の準備をしてくれている。

それを待っている状態だ。


「ん、どういうこった?」


「馬だと間に合わないかなと思いまして」


「移動系の魔法が使えるってことか?」


「はい。魔法で行ってきます。今日中に戻れるといいんですけど…」


「そりゃすげえな! よろしく頼まあ!」


マスターに背中を叩かれる。

これ、身体強化が無ければ、重症じゃないか?


後でマリーさんに苦情を言っておこう。

マスターを注意してもらわないと怪我人が出るぞ。



ブライアンさんとクリフ君を両手に抱える。

彼らは不思議そうな顔をしている。


光の移動魔法。

前は魔族のおじさん一人を運ぶことができた。

今度は二人だが、何とかなりそうに思う。


本当はあまり人前で使いたくないのだけれど、馬では間に合わないだろう。

人命救助優先ということで、高速移動で一気に目的地に行こうと思う。

この魔法ならすぐ到着するはずだ。


二人追加なのでいつもよりも多めに魔力を練る。

では。


「おい、ルーカス。何をするつもり……」


ブライアンさんが何か言っているが、無視して、斜め上、上空向けて移動する。

一瞬後には空の上だ。


「おいー、ルーカス。何だこれ!?」

「どうなってるの!」


そのまま目的地に向けて移動魔法を繋いでいく。

耳元で二人がちょっとうるさいけれど、説明するのも面倒だし、体験してもらうのが一番だよね。



数十回の移動魔法を繰り返し、ブライアンさんとクリフ君はもう慣れて静かになったころ、目的の村が見えてきた。

村が見える位置にいったん降りる。


「…ようやく地面か…ひどい目に合った…」

「ルーカス君…酔った…」


移動魔法は慣れないと怖いかもしれない。

二人はちょっと疲れているようだ。


しかし…


「まずそうですね…」


村は周囲の柵が壊されて、所々煙が上がっている。

建物はほとんど壊されているように見える。

たぶん、オーガのものだろう巨体がいくつも見える。

これは…

遅かったか……


「ルーカス! 村へ!」


ブライアンさんも状況を把握し、深刻な顔になった。

移動魔法酔いは気合で何とかしたらしい。


二人を抱え、村の入り口の少し前に移動する。


村からは焦げた臭いと、オーガのものらしき叫び。

しかし、人間の悲鳴も、戦いの音も聞こえない。

戦闘は終結しているようだ…


「エイリアナ、生き残りがいないか捜索を頼む」

『了解』


こっそりと風の精霊に捜索を頼んでおく。

どこかに隠れて、生き残りがいるといいのだけれど…


「行くぞ!」


ブライアンさんの掛け声で村に突入する。



村の中はオーガに占領されている。

倒壊した建物、いくつもの煙、たぶん火魔法で抵抗し建物に燃え移ったのだろう…

動くものはオーガのみ。

ここからでもいくつもの人間の遺体が見える。

頭をつぶされた、上半身だけ、原形をとどめない塊……

気持ちのいいものではないな……


オーガは身長3メートルほどで、筋肉質の体。

皮膚は灰色で、頭に角を持つ。

手には巨大なこん棒を持っている。

あれに殴られたら人間は簡単に潰れそうだ。

建造物もひとたまりもないだろう。


…さて、近場に3匹。


「ルーカスは正面、クリフは右、俺は左をやる!」


ブライアンさんの指示に従い戦闘を開始する。


僕は正面のオーガに接近。

わざとオーガに先攻を取らせる。

どの程度の実力か見てみる。


オォォォ!


オーガが吠え、こん棒を振り下ろす。

遅い。

身体強化も使っているようだが拙い。

攻撃を横に避け、足を斬り落とす。

倒れたところで頭を斬り落とす。


一対一なら負けることはないだろう。


ブライアンさんを見る。

ちょうど槍を胸に叩き込んだところ。


クリフ君はオーガを滅多打ちにしている。

あ、ちょっと笑っている。

若干狂戦士が発動しているようだ。

まあ、まだ大丈夫か。


二人はすぐに次の敵を見つけて戦闘に入る。


僕は探索の魔法を発動する。

オーガは30程度。


一人10匹か。

まあ、そんなものか。


前方に2匹。

面倒なので、3重魔法陣の風の槍2発。

頭部に直撃で、撃破。


僕が積極的に動かなくても、他の2人が殲滅してくれるだろう。

向かってくるオーガだけは魔法で撃破していく。


さて…

中央に大きなのがいる。

それに行こうか。


倒壊した建物を椅子に、巨大なオーガが座っている。

座っている状態でも他の個体より明らかに大きい。

青みががった皮膚に、巨大な角。

片手に巨大な中華包丁のような剣。

ただの鉄の板みたいな。

刃はついているのだろうか?

無くても関係ないか。

あの質量だ。

当たれば潰れ、ちぎれる。

…なら剣である必要もないような。

やっぱりクリフ君の金棒が正解な気がする。

もう片手に家畜の牛。

それをかじっている。

なるほど、内臓が好みのようだ。

…人間を食べているところを見るよりは良かったか。


ステータスを見てみる。


オーガ系(上位種)、雄

 脅威度:低


まあ、問題なさそう。

実力差がありそうだ。



オーガはこちらに気づいて立ち上がる。

5メートルくらいか、大きめだ。

首を斬るのは大変そうだ。

魔法で倒せば楽だが、やめておこう。

あれがボスらしい。

素材が良さそうだ。

なるべく綺麗に倒したい。


オーガは片手の牛を投げ捨てた。

牛は家の残骸に大きな音を立てて激突した。

潰れる。


やつはニヤリと笑い、大きな剣を振り下ろす。

僕に当てるためではなく、威嚇だろう。

剣は地面を大きく抉り取った。


身体強化はまあまあか。

腕力はすごいが、速度が足りない。

筋肉が大きく、重量がありすぎるかな。


まあ、破壊力があれど、当たらなければ意味がない。


僕なら簡単に避けられる。


光の移動魔法で後ろをとる。

おお!

反応が早い。

ヤツは剣を振り回し薙ぎ払おうとしてくる。

初見でこの反応!

なかなかやるな。


僕は足を斬りつけて、素早く移動魔法で距離を取る。

ちょっと浅かった。

足を斬り落とすまではいけなかった。


感触から身体強化でかなりの防御力となっているのが分かる。


奴が吠える。

僕みたいに小さい生き物に傷をつけられたことが認められないようで、怒りをあらわにする。

そして、さらに身体強化を強くする。

筋肉が更に盛り上がり、体が一回り大きくなったようだ。


僕もそれを黙ってみているわけではない。

剣の強化を進める。

通常の強化の更に先に。

武器強化(次)。

そして。


「エイリアナ、頼む」

『了解!』


捜索から帰ってきていていた彼女に風の力を借りる。

そう、エルフのレティーシャさんの技だ。

ちょと真似をしてみる。

剣は紫の光から、より白く、銀色が強くなる。

ちょっとヤツにはオーバースペックかなと思うが、まあ、強い分にはいいだろう。


さて…

ヤツはこちらが小さく弱いと侮っているが、どうだろうか?

例えば、コバエが人を殺傷するような攻撃力、例えば毒とか持っていたら?

叩こうとしても当たらず、皮膚にとまられたら必死。

すごく怖いではないだろうか。


ヤツと僕の関係はそんな感じだと思う。

ヤツの攻撃が当たればいいが、まあ当たらない。

本当に危険な場合は魔法で防御するけれどね。

そして、こちらの攻撃は肉体を切り裂く。


奴は移動魔法を警戒しているから、ちょっと細工をしてみる。


ヤツの後ろに移動魔法で移動させる。

ヤツはすぐさま振り返り、切り裂く。

が、移動したのは魔力の塊のみ。


僕はその隙に正面に移動し、足を斬り落とす。

ヤツは倒れる体を手をつき支える。

その腕を切る。

体は地面に倒れ、首が前に。

睨み吠えるが、関係ない。

首を落とす。


首はまだ生きていて、こちらを睨み、吠えている。

まあ、いいや。

やがて静かになるだろう。



索敵の魔法をうつ。

のこりは10体程度。


ブライアンさんとクリフ君がかなりやっている。

気合入っていたからな。


さて。

さっさと片付けて終わりにしよう。

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