第64話 やはり冒険者登録、緊急依頼

続いて、サイモンさんに連れられて、冒険者ギルドへ向かう。

魔獣の買取は冒険者ギルドが行っていて、農作物とかは商業ギルドらしい。


冒険者ギルドには何人か冒険者らしき人がいた。

あまり強そうではない。

もしくは魔力を隠しているか?

あれが本当の魔力量だとすると身体強化さえ危うい…


カウンターがあり、壁に掲示板がある。

ここは食事、酒とかを販売する設備はないみたいだ。

酒なんかだしたら荒くれ者の冒険者たちが何をするか…

出せるはずがないか。


サイモンさんと受付に向かう。


「こんにちは。マリーさん。魔獣の買取をお願いしたいのです」


やはり受付は美人か。

ちょっと疲れた顔をしているような…

荒くれ者の管理が大変なんだろうか?


「あら、こんにちは。サイモンさん。あの、そちらの方たちは…」


「そうです。結婚ですよ。いつもの指輪です」


「そうですか…残念です。冒険者登録ならよかったのに…」


マリーさんは少し困った様子だ。


「どうかしたのですか?」


サイモンさんが心配そうに問いかける。


「近隣の村から救援要請が来てるんですが、今、冒険者が出払っているんですよ」


「何人かいるじゃないですか?」


「いえ、実力が……」


彼女は言いづらそうにしているが…

何人かいる冒険者は話が聞こえたのか、そそくさと出ていく。


「魔物の種類は何ですか?」


「…オーガの群れらしいです」


オーガって日本の「鬼」みたいなやつだっけ?

巨体で力が強く、頭はよくない?

人を食うこともある。

一般にゴブリンやコボルト、オークよりだいぶ強い。

それほど集団になるイメージはないが…


「集団ということは…上位種がいる、でしょうか」


サイモンさんの顔が真剣になる。


「たぶん…いると思います…」


「では、最低Aランクの冒険者ではないと。『常緑の猪』は?」


「それが、他の地域に遠征中で…」


確か「常緑の猪」は村出身の冒険者パーティで、父さんの知り合いだったはず。

会えないのはちょっと残念だ。


しかし、Aランクねえ…

どの程度の実力があればいいのだろうか……


「なあ、サイモンさん。俺たちならどうだろうか?」


ちょっと、ブライアンさん!

どうしてイベントに首を突っ込もうとするかな。

そりゃ、僕も少し気にはなるけれど……


サイモンさんが僕を見る。


「ルーカス君が行くなら…」


「なんで僕指定なんですか?」


「村のトップクラスの戦力が今ここにいるのは運がいいと思うよ。手を貸してくれないか?」


サイモンさんにはお世話になっているし、確かに他の村を助けたいとも思う。

だけど、オーガの群れ、村の救出イベントって、危険な香りがする…

主に出会い方向で…

新婚なんだけどね…

他に人がいるなら、そちらに任せたいところなんだけど…


「ルーカス君、人助けだよ!」

「ルーカス、行くぞ!」


まあ、他にいないから、マリーさんが困っているんだよね。

まったく、村の若者は戦いたがりなんだから…

しょうがない。


「分かりました。行きましょう。さっさと行って、さっさと帰ってきますよ」


決めたなら全力で行こう。

急がないと被害が大きくなる。


「皆様、ありがとうございます! ちょっとだけ待って下さい。マスターに話してきます!」


マリーさんは階段を急いで、転びそうになりながら登っていった。

と、すぐにドタドタと大きな足音が下りてくる。

熊のように大きなおじさんだ。

たぶんギルドマスターだろう。

その辺にいた冒険者よりよほど強そうだ。

たしか、ここのギルドマスターは村出身で元冒険者だったか。


「おう、おめえら! あの村の若いヤツか! ちと若い気がするが…」


マスターが僕たちを眺める。

そして僕に目を止める。


「おめえ…ウィリアムの息子か?」


「はい、息子のルーカスです。驚きました。よくわかりましたね。父に似てると言われたことはないんですが」


「ああ、全然似てねえよ。だが、雰囲気、存在感がアイツに似ている…イザベルの弟か! こいつはイイ! ついてるぞ!」


僕の両肩をバンバン叩く。

これ、身体強化してなかったら骨折れてるよ?

あれ?

マリーさんが驚いた表情で僕を見ている。

何故だろう。


「他の二人もだいぶ強そうだ。おめえらすぐに冒険者登録して、救援に迎えや!」


「ま、マスター。試験は?」


マリーさんが焦っている。

きっといつも振り回されているのだろうな。

大変そうだ。


「緊急事態だ、パスパス! Dランクで冒険者登録しておけ! で依頼をすぐに受注だ!」


「はい! すぐに!」


ギルドの職員がバタバタと動き出す。


あれ?

Dランク冒険者にAランク推奨の依頼を受注させていいのかな?

まあ、ギルドマスター権限でOKということだろうか?

職権乱用な気もするが…

冒険者ギルドなんてこんなものか。


うん。

登録試験が無いのは良い。

転生ものによくある、冒険者登録で周りが驚愕って展開がない。

あまり目立ちたくないからね。



「じゃあ、私が魔獣を売っておくから、そこに出しておいて」


僕たちは救援依頼で時間がかかりそうだから、サイモンさんに魔獣の販売は任せよう。

悪いようにはならないはずだ。

急な依頼を受けたんだから、少し色を付けてくれるかもしれない。


サイモンさんの指示通りに魔獣を出しておく。


ブライアンさんは熊を2匹。

クリフ君は鹿を1匹に、猪1匹、兎3匹。

僕が熊と……トカゲの上半身…

下半身は食べてしまったんですよね。

顔があるから、許してほしい。

牙とか硬くていい素材になるはずだ。

ちょっとしたお金にはなるかな?


ギルドのロビーはまあまあ広かったけれど、さすがに一杯だ。

外で出した方がよかったか?



いつの間にかギルドは静まり返っていた。

職員は魔獣を唖然と見ている。


「まあ、これがこの子たちの実力ですね」


サイモンさんが得意げに笑う。


「ちょっと! いったん片づけてください! みんな怖がっています!」


マリーさんがサイモンさんを怒る。

うん。

悪いのはここに出してって言ったサイモンさんだ。

僕らじゃない。

たぶん。


サイモンさんは謝って、彼のマジックバッグに魔獣をしまう。

ギルドマスターは「いいじゃねえか」と言って笑っている。


やっぱり、村の常識と街の常識は違うらしい。

さすがに魔獣の死体を積み上げるのはダメだったらしい。

ちょっとやっちゃった感じではある。

せっかく、試験免除で「俺Tueeee」をやらなかったのに。

次は気を付けよう。



それほど時間をかけずに冒険者カードを受け取る。

カードは金属板でできており、Dランクの文字が入っている。

たぶん中に何らかの魔法陣が書かれている。

高度な物だ。

さすが冒険者ギルドといったところか。

どんな魔法陣か気にはなるが、分解したら怒られるだろうな。


これで僕も冒険者になってしまったわけだけど…

ステータスを見てみる。

やはり、称号に「Dランク冒険者」が追加されていた。

この世界のシステムとして、称号は能力に影響を与える可能性がある。

どの程度の影響かは分からない。

「Dランク冒険者」がDランクの実力を持つのか、その称号があるからDランクの実力を持つのか?

「Dランク」と認められることで更にに実力を伸ばし、「Dランク」らしくなるというところだろう。



「では、依頼を受注します。冒険者カードをこちらに…」


依頼書にカードを接触させると、カードが一瞬光る。

どういう仕組みだろうか。

本当に高度なことをしている。


「はい。受注しました。こちらがこの付近の地図です。えっと…この村です」


彼女が地図を指さす。

この街から北に行ったところ、馬車で2日程度。

村からこちらへ救援を呼ぶために、馬を無理矢理走らせて1日?

こちらから移動が1日程度。

たぶん、かなりマズイ……


ちょと急がないとダメかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る