第63話 学習結果、ついに街

娼婦さんたちの滞在期間はつつがなく過ぎ、終了した。


僕はエレノアさんとリネット、二人の妻をもらった。


クリフ君は男性としての自信を深めた。

スージーに結婚を申し込むという。

ちなみにスージーは結婚する秋には成人する。


そして、驚くことにシンディーさんはブライアンさんの告白を受け入れ、結婚の約束をした!

彼女は一番村の暮らしに慣れないんじゃないかと思っていた。

街のにぎやかな暮らしの方が合うんじゃないかと。

僕の見立て違いということだ。

女性は難しい。


彼女たちの散歩のことも言及しておこう。

確かに女性たちの視線は冷たいこともあったが、多くは優しかった。

他の女性も娼婦が大変な仕事だと理解をしていたようだ。


良く晴れた日に、広場で一緒にサンドイッチを食べた。

子供たちが鬼ごっごをして遊んでいた。

タバサは子供が好きだと笑った。

いつか素敵な旦那様を見つけて、子供をいっぱい育てるんだって。

本当にその夢が叶うと良いと思う。


蛇足になるが、妻帯者数人が決まりを破り、独身だと嘘をついて娼婦さんを買おうとしていた。

すぐにバレて奥さんにこっ酷く怒られた。

まあ、こんな狭い村じゃすぐバレるって。

そうだね、お店に行くなら、街まで出ないといけないだろう。

僕はしないけれどね。



大変だったのは村長にリネットとの結婚を認めてもらいに行ったときだ。

それはそれはお義父さんは怒った。

「娘は絶対にやれん!」ってね。

しかし、リネット、お義母さんには勝てない…

二人の女性にどうしようもないくらいに言われて、本当に可哀そうだった……

ボッコボコ…

言葉のサンドバッグ。

お義父さんは今もちょっと元気がない。

お義母さんは「すぐに元気になるわよ。気にしないで」と笑っていた。



そういえば、この一連のイベントで、精霊たちが静かだった…

メーリーアも…

女性がらみだと言いたいことはあると思うんだけど…


『私が干渉しないように、静かにしておきなさいと警告しておいたわよ』


なるほどアルベルタね…


『精霊はね…どんなに人間を愛したとしても結局人間とは結婚できないのよ。子供も作ることはできない。なら、私たちは貴方の結婚を見守り、子供を、その子孫を見守って行くだけ』


結婚できないのか…

「なろう系」の物語では精霊は人間と同様の肉体を持った作品もいくつかあったような…

あとは魔物の人間化とか。

…この世界、精霊は魔物、魔獣とはまったく別の存在か…


『人間化、ね…子供は望めないかもしれないけれど、肌を重ねることはできるかもね…』


いや、アルベルタさん、出来ないんですよね?


『…そう、今まで見たことはないわ』


ちょっとホッとする。

これ以上女性が増えたら混乱するよ。


『増えないのかしら?』


……

増えないと思います…



さて、今日は娼婦さんたちを送りだす日だ。


来た時と同様にサイモンさんの馬車に3人を乗せ、街に戻る。

護衛は僕、ブライアンさん、クリフ君。

僕とブライアンさんは街で指輪を作るため。

クリフ君も指輪を作るためだ。

そう、彼はスージーに結婚の申し込みをして、承諾してもらっている。

見た目によらず行動が早い。

めでたいことだ。


1週間ほどの旅。


見送りに、エレノアさん、リネットが来てくれている。

スージーもいる。


「ルー君、気を付けてね」

「ルーカス、早く帰ってきてね。それと、浮気したら殺すわ。分かっているよね」


エレノアさんはいいけど、リネットの愛が重い…


「大丈夫、すぐに帰ってくるよ」


大丈夫…

浮気しなければいいんだ。

たぶん…



クリフ君もスージーと別れをしている。

仲良さそうで良い。


ブライアンさんの奥さん、シンディーさんは街に戻って、荷物を持って一緒に村に帰ってくる予定だ。



戦力的には問題ないだろう。

僕、クリフ君、ブライアンさん。

何かの大きなイベントでもない限り、十分なはずだ。



森に入って、索敵しながら進む。

クリフ君は普段狩りをしないので、指輪を購入する代金を作るために狩りをする必要がある。

なるべくお金になりそうな魔獣が良い。

鹿か熊かな。

トカゲだとリスクがあるか?

いや、トカゲに会いたいね…

あれは美味しい。



しばらく進むと、都合よく鹿に遭遇する。


「出たよ、鹿。クリフ君!」


「了解! 行くよ!」


クリフ君はマジックバッグから武器を取り出す。

二本の金棒だ。

握りに布を巻き付け、棘がいっぱいついたものだ。

凶悪な見た目の武器。

しかも、かなりの重量。

それを両手持ち。

彼の天性の怪力と鍛錬した身体強化で可能になる戦闘スタイルだ。


クリフ君はちょっと不器用なので、剣とか槍とかを使うのが難しかった。

なので単純に、武器の向きとか関係なく、殴るだけの物になった。

僕と鍛冶のブレットさんの共作だ。

もちろん魔法で強化済み。


クリフ君は二つの武器を持ち、どっしりと構える。

身長は小さいが、身体強化を使った彼は威圧感があり、大きく見える。


鹿は警戒し、土魔法で拳大の石をクリフ君に向かって放つ。

クリフ君は冷静にそれを叩き落とす。

鹿は魔法と同時に突進していた。

すぐにクリフ君に接近する。

彼は片方のこん棒で鹿の角を受け止め、もう片方を頭に叩きつけた。

鹿は吹き飛び倒れる。

頭は潰れている。

即死だ。


「うん。なんとか角は残ってよかったよ」


「クリフ君、お疲れ。だいぶ冷静に対処できるようになったね」


前は僕の父と似て、狂戦士系の戦い方になってしまっていた。

訓練して何とか冷静に戦えるようになってきた。

狂戦士状態は恐怖が無く強力ではあるけれど、やはり、冷静で強いのが一番良い。

そちらの方が生き残る確率が高いよね。


「へー、体は小さいのに強いんだね」


グレタさんが関心している。


「あの辺はルーカスに鍛えられているから大体強いんだ」


ブライアンさんはちょっと渋い顔をする。

何故だろうか?


「ルーカスはスパルタだからな…俺は後輩じゃなくてよかったよ」


そんなに厳しくした記憶はないのだけれど。

強くなるには多少キツイことはしないといけないだろう。


「ルーカスの奥さんリネットとクリフの奥さんスージーも相当強いからな」


「え、あんなに可愛いのに?」


「そう。ルーカスのシゴキに耐えた猛者だ。学校で戦闘を教えるんだけど、今の教師がクリフとスージーだっけか? ルーカスの後の世代は強くて怖いって話だぞ」


今までは狩人の人に兼業で教えてもらっていることが多かったが、今は比較的手が空いているクリフとスージーが教えてくれている。

学校の授業時間が終わっても、戦闘訓練をする子供も多いらしい。

今後の子供の戦闘力が上がることは良いことだ。

中途半端な力量だと森で死ぬかもしれないからね。

しっかりと鍛えてほしい。


その後、クリフ君に猪とか数匹の魔獣を狩ってもらった。

サイモンさんによると、このくらいの量があれば大丈夫とのこと。

スージーもそれほど派手な指輪ではなくて、シンプルなもので良いと言っていたらしい。

しかし、こちらもプライドがある。

ある程度は良いものを買いたい。

宝石がゴテゴテ付いているのはダメだよな。

仕事の邪魔になる。

シンプルなデザインで品質の良いものが望ましい。



特に問題なく森を抜け隣村に到着する。


僕とクリフ君は初めての隣村だ。


…うん。

うちの村より貧しそうだ……


お隣さん、かつ結婚祝いということで、こちらがうさぎ肉を大量に焼き、村人さんたちに振る舞う。

保存食を分けると、領主に見つかって押収されることがあるらしい。

そのため、食べちゃえ、ということだ。

腹に入ったものを税として取り立てできないだろう。



次は、目的のザンピリエという街へ向かう。

娼婦さんたちもその街がホームだ。


さて、街か……

何事もなければよいと思う。



僕たちがたどっている道は、姉、イザベルが通った道だ。

たぶん、姉はザンピリエの街で冒険者登録を行い、冒険者としての基礎を学び、王都サンバートフォードへと向かったはずだ。

もしかしたら姉を知っている人がいるかもしれない。

きっと姉は元気にしていると思う。

便りがないのは良い便り。

だけど、たまには連絡が欲しい。

何をしているのだろう?



街までの道程も何事もない。

多少、盗賊団が襲い掛かってきたり、オークの団体がいたりした。

だけど、相手が弱すぎる……

まともに身体強化もできない相手だった。

戦闘と呼べるようなものではなく、蹂躙だった。

相手が可哀そうだ。

どうしてこちらを襲ってきたのだろうか。

実力差が分からないのか?



目的地である街に到着する。


門にいる衛兵はサイモンさんと顔見知りらしく、談笑し、問題なく通してくれる。


「ふーん、その子たちが今度結婚するのか。村の子供たちだよな」


「ああ、若手の有望株たちだぞ」


「村長とこの息子とかか?」


「いやあ、あすこはなかなか踏ん切りがつかないらしいぞ。仕事はできるが女性関連は優柔不断さ」


義兄さん、酷い言われようだな……


「ほら、ウィリアムさんところの息子さんだよ」


「え、あの? イザベルちゃんの弟さんかい?」


門番さんは姉を覚えていた。

何かやらかしたか?


「ルーカスと言います。姉がお世話になったようで、ありがとうございました」


「いやいや。俺は何もしてないよ。彼女はもう王都に行っちまったしな。なんか…強力な子?だったよな」


「すみません。姉は戦闘力が売りなので、それ以外はちょっと…」


「で、ルーカス君も強いのかい?」


「いえ、僕は常識の範囲内ですよ。農家ですし、ほどほどです」


サイモンさん、ブライアンさん、クリフ君が「えっ」という表情をする。

娼婦さんたちも同じような表情だ。

不思議だ。

僕は村人、農家その1。

そうだろ?



「素材を売りに来たんだろう。ついでに冒険者登録していけよ。色々便利だろ」


冒険者ギルドは国を越えた組織である。

国への入国等が楽になったり、高位の冒険者になれば活動を援助してもらえるらしい。


でもなあ…

強制依頼とか、指名依頼とかの義務も生じる。

強制イベント発生とか、ありそうなんだよね…

まあ、そのほとんどが一般民衆のためになるので良いんだけど。



娼館の前に馬車を止める。

数人の女性が出迎えてくれた。

ここの店主だろうか少し年のいったおじさんとサイモンさんが話している。


娼婦の3人は出迎えの女性たちに囲まれている。


「ルーカス君、今年は行けないでごめんね」


妖艶な大人な女性、スザンナさんだ。

グラマーでとても美人で、少し甘い声をしていて、魅力的な女性だ。

今年は体調不良で欠席。

急遽、タバサが代わりに入った。


「ちょっと手を貸してください」


「あら、積極的ね」


彼女は軽口を叩くが、まだちょっと体調は悪そうだ。

手を取り、こっそりと回復魔法、解毒魔法を掛ける。

街でおおっぴらにやると騒ぎになりそうだ。


「ん…ありがとう。優しいのね。後でサービスするわよ」


ちょっと顔色が良くなったようだ。


「ダメよ、スザンナ。ルーカス君は新婚さんよ」


「グレタ、そうなの。あら、もったいない。こんないい男、捕まえられなかったの?」


「始まる前にやられちゃったのよ。村の娘を侮っていたわ。狙っていたんだけど残念」


言葉とは裏腹にグレタさんは笑顔だ。

こうやって土産話に花を咲かせるのだろう。


「他にもいい男二人も連れて来てくれたの? 今夜いらっしゃいな、いい子紹介するわよ」


「そっちもダメなのよ。新婚さん」


「あらあら。でも、ここはお店だし、浮気にはならないんじゃないかしら」


確かに浮気ではないか。

相手はプロだ。

しかし、女遊びもダメでしょう。

来年だって彼女たちは村に来るんだ。

そこから漏れることも大いにあり得る。

リスクが大きすぎる。

丁寧にお断りしよう。


来年の再会を約束して彼女たちと別れた。

来年もよろしくお願いします。

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