第59話 村には女性の勉強会というものがある

魔王とは何だろうか?


魔族の王、人間側はそれを魔王と呼ぶだろう。


確か絵里香さんが倒したのはオーガの王だったはず。

オーガは魔物。

魔物の王の魔王。


つまり、2種類あるんじゃないだろうか。

魔族の王、魔物の王。

それを一緒くたにしている。

たぶん意識的にだ。

人間側が意識的に一緒にしている。


魔物の王はたぶん討伐しないといけないもの。

魔族の王はそうではないかもしれない。

話し合える相手かもしれない。


魔族の王を魔物の王と同じ存在とくくることで、魔族との戦争が回避できないものと民衆に認識させている。

そんなところだろうか…



さて、僕がこのように思索にふけっているのは現実逃避だったりする。


本日、成人になった男性が集められ説明会が行われている…

何の説明か?


男性は成人すると女性と結婚する。

しかしこの世界、男性が女性の扱い方、まあ同衾だ、そのやり方をどのように学ぶか、ということだ。

前の世界では本、ネット等、情報に溢れていた。

ありすぎるくらいに。

しかし、うちの村は、まったくの村である。

そのような情報はほぼほぼない。

女性を学ぶ機会はない。

結婚したら男性は困ってしまう。

ソレを失敗し、離婚問題まで発展したら?

村の人口をどうするんだ?


では、どうしているのかというと、プロの方を街から呼んで教えてもらうようにしている。

つまりは娼婦さん方だ。


初回の男性は彼女たちの授業数回分を村の予算で受けられる。

というか受けさせられる。

強制だ。


ちなみに初年度でない未婚男性も相手をしてもらえる。

こちらは自費だ。

この機会を心待ちにしてお金を蓄えている男性も多いとか。


まあ、普通の男性なら心待ちにするイベントなんだけれど、なんだか気持ちが乗らないのはなんでだろうか…

前世で女性の知識を獲得してるからだろうか…

尻込みしているだけ?

情けない。

娼婦の方々は優しくしてくれるはずだ。

問題ないはず…


このイベント、一応女性陣には内緒でということになっているが、もちろんバレバレである。

恋人がいるところは気まずくなることもあるらしい。


「スージーが最近機嫌悪いんだよねー。こういうことか…」


クリフ君が遠い目をしている。

そういえば、エレノアさんも不機嫌だったっけ。

「楽しんできてね」と、少し嫌味に送り出されたっけ。

今日すぐに楽しむんじゃないだけどなあ…


「でもさ、しっかり学ばないと恥ずかしいからね」


クリフ君はそれでも前向きにとらえているようだ。

僕も前向きに行こうか。

でも彼女たちにハマらないようにしないとね。


ちなみに彼女たちにハマって、なんとか口説き落とした強者が何人もいる。

通常、彼女たちは商売でお金で疑似的に恋人風に振る舞っているだけで、こちらに好意はない。

それは勘違いしてはいけない、決まり事だ。

まあ、彼女たちにも多少の好き嫌いはあるだろうけど。

そんなわけで口説き落とすのはものすごく大変なはずなんだ。

何人も村に嫁いでくるとは謎だ。


…さて、僕も仕事に行こう。



森の入り口から村へ、馬車の護衛の仕事だ。

戦闘要員はもう一人、狩人のブライアンさん、槍使いの青年だ。


「じゃあ、よろしくね」


御者は商人のサイモンさん。


「今年もよろしくね。ルーカス君」

「あールーカス君だ。今年は対象だっけ? やった! サービスするよ」


「今年もよろしくお願いします。グレタさん、シンディーさん」


件の娼婦さんたちだ。

ここ数年、彼女たちの護衛を務めている。

彼女たちとは他の仕事でもかかわるため、仲良くなっていた方が良いだろうということで抜擢された。

剣も魔法も使えるということで便利に使われている気がする…


「よ、よろしく、お願いします!」


見たことのない女性が一人。

ペコリとお辞儀する。

緊張しているのかな。


「初めての方ですか。ルーカスと言います。よろしくお願いします」


「タ、タバサです…」


まだ、年齢も若そうだ。

僕と同い年くらいかもしれない。


「この子、森の魔獣が怖いのよ。ルーカス君がいれば問題ないって言っているのに。ねえ、シンディー」

「そうそう。ルーカス君強いのよねー」

「お、俺も強いぞ!」


ブライアンさんが割って入る。

ブライアンさんは、シンディーさんにお熱なんだよね。

護衛のもう一人はアランさん(狩人のおじさん。既婚)の予定だったけれど、熱心な訴えで護衛を勝ち取った。

シンディーさんにイイところを見せたいらしい。

ブライアンさん、根は真面目だけど、真面目だからか、娼婦のお姉さんにハマってしまったということだ。

魔獣はなるべく彼に任せる約束になっている。

まあ、僕は楽で良い。

索敵だけしておけばいい。


「タバサさん、リラックスですよ。この辺りの魔獣は美味しい奴らばかりですから、大丈夫ですよ」


「…おいしい? 食べちゃうの…」


「食べますよ。兎に猪、鹿、美味しいですよ」


「兎、かわいい?」


「可愛くないですね。角生えてて、こっちを突き殺そうとしますよ。この辺の魔獣は好戦的ですから」


「危険じゃない?」


「サッて避けて、スパッって切れば終わりです」


「さ、すぱ?」


「そう。で、シチューとか美味しいですよ」


「シチュー…ですか…」


「ハンバーグとかもいいけどね」


ハンバーグは猪がいい。

力強い脂・肉の味がいい。

そういえば牛系の魔獣も欲しいところだ。

今度捜索してみようかな?


牛…

牛頭?

いやあ…

せめてミノタウロス…

大きなバッファローがいないかなあ…



そんな感じで食べ物の話をタバサさんとしながら進む。


ブライアンさんはしきりにシンディーさんに話しかけている。

シンディーさんに軽くあしらわれている感じだ。

今年もダメかもなぁ。

頑張れ、ブライアンさん!



何事もなく、初日の夜。

野営中。


マジックバッグから猪の肉を取り出し、焼こうかと思っているとき、エイリアナの索敵に魔獣が引っかかった。

右手に猪一匹、左手に兎三羽。

猪を優先したほうが良いかな。


「ブライアンさん、右猪、左兎です。どちら行きます?」

「猪!」


ブライアンさんは気合を入れて走っていった。

あれ?

ちょっと奥だから、シンディーさんに活躍は見えないかもしれないな…


ブライアンさんがここを離れたので、僕はここで彼女たちを守りながらの迎撃を選択する。

女性たちは念のため荷台に入ってもらう。

ちなみにこの荷台、猪皮の幌が付いていて、兎の突進でも一発くらいならなんとか持ちこたえる。


商人のサイモンさんも剣を構える。

兎くらいにならサイモンさんでも大丈夫だ。

意外に強いんだよね。


茂みから、兎が3羽現れる。

こちらに狙いをつけている。

力を溜めている。

すぐ跳んでくるだろう。


彼女たちの安全を第一に考えて魔法を使う。

風の矢を連射する。

一羽に一発でも問題ないが、念のためだ。


兎は矢に向かって跳んだんじゃないかってくらいに簡単に刺さる。

あー、ちょっと肉が削げたか。

食べるところが少なくなったなあ。


「ほらぁ、ルーカス君すごいんだから!」

「魔法すごいよね!」

「…あんな大きな兎を…」


…彼女たち、幌の隙間から見てたか。

危ないから、ちゃんと隠れていて欲しいところだ。

…僕がいいところを見せてしまった。

ブライアンさん、大丈夫かな?


ブライアンさんも何の問題なく猪を引きずって帰ってきた。

彼もマジックバッグを持っているので、格納すれば楽だろうに、アピールのために引いてきたんだね。

さっそくシンディーさんにアピールしている。

彼女も嬉しそうに話している。

…どこからが営業トークなんだろうか?

まだ、客をとっていない状態だから本音なのか、村全体が営業先とみれば営業中なのか……

その辺が疑われるか。

娼婦さんの損なところかもしれない。

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