第57話 この世界の魔族とは
このステータス魔法、魔獣に掛けるとどう見えるのだろうか?
当然の疑問だね。
ということで、本日、森で実験を行う。
索敵魔法を使うと、自分の仕事が減ると風の精霊エイリアナが怒るので、彼女に索敵をお願いする。
まずは弱い魔物から試したい。
『鼠発見。こっち!』
鼠を3匹発見する。
遠距離でステータス魔法を発動してみる。
魔獣、鼠系、雄
脅威度:低
…情報が少ない。
まあ、想定内だ。
なるほど、この個体は雄か。
雌雄はあるんだね。
肉の柔らかさとか違いがあるだろうか?
雌の方が肉質が柔らかく脂がのっていて、匂いが少ないとか…
食べる側の先入観かもしれないけれど。
3匹は雄、雌、雌だった。
雄一匹がハーレムを作る習性だろうか?
鼠を狩り、次へ行く。
『次は熊だ』
いきなりランクが上がって熊になった。
熊はこちらに気づき襲い掛かってきたので、それを躱しつつステータス魔法を掛ける。
魔獣、熊系、雌
脅威度:低
脅威度が鼠と熊で変わらない?
熊と鼠では戦闘力は全く違う。
ということは、僕に対しての脅威度ということかな。
僕は熊を脅威としないということだろう。
相対的な評価だ。
僕がステータス魔法をかけているのだから、妥当な結果ともいえる。
しかし、絶対的な評価でないため、他人には意味のない評価だ。
ステータス魔法は、初めて見る魔獣には使えるかもしれない。
脅威度を鵜呑みにして油断してはいけないけれどね。
「エイリアナ、何か新しそうな魔獣はいない?」
『んー、そうね。風の精霊たちによると……こっちに『変』なのがみたい」
風の精霊に案内され、森を移動する。
村の西、山脈側、だいぶ山に近い辺り、一人の男性が歩いている。
村人ではない。
頭の両側から角が生えている。
人間ではないか?
それが隣村側ではなく、山脈側?
気配を消している。
かなり高度な気配遮断だ。
ステータス魔法で確認してみる。
魔族、男性
称号:????、上級魔法使い(???)、????魔王国???勲章、????
おお、魔族か…
初めての遭遇。
上級魔法使いで、勲章持ち。
かなり強いかもしれない。
魔獣ではないため、脅威度の判定は無し。
このステータス魔法はやはり微妙だ…
さて、どうする?
接触するか?
人間と魔族は敵対している物語が多い。
この世界でも勇者召喚は魔族と戦うためにされている。
しかし、今現在は敵対しているのか、どうか。
その辺の情報を持ち合わせていない。
村に引き籠っていただけだからなあ…
うちの村は世間から隔離されている感があるし。
敵対しておらず、休戦中だったとしたら、こちらから攻撃するのはマズイ。
だけど、放置もまずい。
敵対していた場合、何か作戦中の可能性もある。
…
わからない。
とりあえず、友好的に近づいてみるか…
称号に犯罪歴も無いし。
移動魔法で彼の近くの木の後ろに移動し、そこから声をかける。
「こんにちは」
彼はビクっと驚き、驚愕の表情をする。
「な、なぜ、気配は消しているはず!」
彼の気配遮断より僕の索敵の方が練度が高かっただけだよね。
「こんにちは。おじさん。どうしてこんな森の中にいるの?」
素直に聞いてみることにする。
僕は無害な村人ですよ感を出してみる。
魔族は飛びのき、気配遮断を止め、身体強化をし、ショートソードを構える。
戦闘態勢だ。
僕は殺し合いをしたいわけじゃないのだが。
「そちらこそ、何者だ!」
「僕は、そこの村の住民だよ」
「村! 村か! 村人がこの森の中を散歩か! 馬鹿を言え!」
襲いかかってくる。
速度はまずまず、しかし、師匠やら、父さんやら、狩人の方々に比べれば遅い。
そして軽いな。
剣で受けて、払う。
魔族の体は宙を飛ぶが、無事に着地する。
身は軽いようだ。
「ちっ! 厄介な奴に遭遇したか!」
酷い言われようだ。
こちらは戦いたくて戦っているのではない。
そっちが勝手に戦闘開始したくせに。
魔族は魔力を練る。
火の魔法だな。
森で使うと森林火災が不安だ。
この森はそうやすやすと燃えないけれど念のため、水魔法を準備する。
「業火の渦!」
魔族が魔法を放つ。
視界一面、炎が渦巻く。
僕は用意していた水魔法でそれを抑える。
使用した魔力量から僕でも対応できる魔法と判断した。
僕の魔法の方が威力が高く、彼の火魔法は消滅する。
「何だと!」
「ね、ちょっとお話ししよう。あなたでは僕に勝てないよ」
「…くそ!」
彼は振り向き、全速で駆けだす。
撤退を決めたようだ。
勝てないとの判断も早い。
良い戦士だね。
見逃してもいいんだけれど、やっぱり彼が何のためにここに来たかが気になる。
ダメ。
逃がさない。
移動魔法で、彼の前方に移動する。
「バカな!」
「無理だよ。その程度では僕から逃げられない」
実力差があると大概逃げられないんだよね。
こちらが見逃さない限り。
彼の顔に絶望が浮かぶ。
やっぱり闇魔法で精神的に攻撃した方が良いかな?
彼は剣を高く掲げる。
「ワイアカルヴァート王国に栄光あれ!」
そして、躊躇なく自分の胸に突き刺した!
忠誠心の高いことだ!
しかし、それは許さない!
彼の胸の剣を引き抜き、素早く光の回復魔法をかける。
見ていて気持ちが悪いほど傷がみるみる塞がる。
この魔法、即死でもない限りほぼ治してしまう。
彼は青い顔をして呆けている。
「…何故、何故死ねない」
「簡単に死んだらだめだよ」
この世界、前の世界と違い死との距離が近い。
魔獣との戦闘、人同士の戦争、魔族との、病気に餓死……
だからこそ生きることを諦めないことが重要だと思う。
僕は少しでも長く生き残りたいと思っている。
彼は自死を諦めず、隠し持った毒を飲む。
それも光の回復魔法で解毒する。
数度、このようなやり取りが続き、さすがに彼も諦めたのか、ネタが尽きたのか死ぬのをやめた。
「…どうして助ける?」
「あなたがどうしてここにいるのかを聞きたいんですよ。それに目の前で人が死ぬのは嫌じゃないですか」
「私を『人』というか」
「魔族でしょう? 初めて見ましたがそれほど人間と変わらないですよね」
ちょっと角が生えているくらいか?
肌が白い?
言葉も通じるしね。
「ちょっとした…か。人間という種族は、そのちょっとだけ自分と違う種族が余計に許せないだろうがな」
そうだね…
ちょっとした文化の違いとか肌の色の違いとか、余計に気になるものだ。
違いが大きいのなら別物と考えられるけれどね。
もうちょっと適当に、余裕をもって生きれたらいいんだよね。
きっとカツカツだからちょっとの違いが許せないいんだ。
…人間が全員裕福に暮らせることなんて無いのかなあ…
せめて、心だけは豊かに、幸せにありたい。
さて、続きだ。
「僕の命を狙うのなら反撃しますけど、魔族って美味しいですか?」
彼は首を傾げる。
僕の言葉の意味が分からなかったよう。
「? 魔族が何を食べているかってことか?」
「違いますよ。『魔族を』食べられるかってことです。人間っぽいものを食べたことはないので、あんまり食べたくないなと思っているんですが」
「私を食おうとしてるのか!」
「食べられない生き物を殺すのってあんまり…倒したのならちゃんと頂かないとって思って」
「お前らどんな蛮族だ! まともなもの食べてないのか?」
「美味しいもの食べているから、まずいものを食べたくないって言ってるんですって」
魔族が引いている。
死ぬ覚悟はあるが、食べられる想定はしていなかったらしい。
死んだ後なら自分がどうなろうがあまり関係ないように思うけれどなあ…
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