第56話 ステータスを盗み見してみた(称号のみ)

ステータス魔法について考える。


レティーシャさんを村に招いて過ごしてもらったわけだが、外部からの来客がどのような人かを確認する必要があると感じた。

良くない人に村に入られても困る。

そこでステータス魔法を改良したい。

今の魔法では自分のステータスを確認できるだけなので、他者の情報を見たいということだ。

他人の情報を見るということは倫理的に問題がありそうだが…多少目を瞑ってもらいたい。


と、ステータスの改良を志し、今日やっとそれらしい成果を得た、と思う…

…実際に使ってみないを分からない。



エレノアさんとお茶をしている時間、切りだしてみる。


「エレノアさんはステータス魔法は使える?」


「使えないわ」


「見たいと思う?」


「自分のステータスを? うーん、ちょっと興味あるかも」


「…見てもいい?」


「見れるの? ああ、そんな魔法を習得したんだね。試したいの?」


彼女はちょっと考える。


「ルー君に見られるのはちょっと恥ずかしいかも…でも、私のステータスはそう大したものじゃないし…ま、いいか。やってみて!」


今の魔法はそう完成度は高くないため、相手の抵抗が強いと大した情報を見れないと思われる。

エレノアさんの了解を得ているので、そのハードルが低くなっているはず…


早速、エレノアさんにステータス魔法をかける。


人間、女性

 称号:元娼婦、家事見習い、ゲテモノ食い、見習い魔法使い(水)


……

そうか…称号のみか…

だいぶガッカリだが…

まあ、称号が見れればその人がどのような人かはある程度判断が付くので使えはする。

「犯罪者」とかは、きっとそんな称号があると思う。


「どうです?」


エレノアさんが恥ずかしそうにしている。

ちょっと可愛い。


「うん。期待したところは分からなかったけれど。『称号』というのが見えたよ」


「『称号』?」


「うん。エレノアさんの場合、家事見習い、見習い魔法使い水、というのがあったよ」


「なるほど、そういうのが見えるのね…家事はまだ見習いか、もっと頑張らないと…魔法使いがあるのは嬉しいな」


まあ、元娼婦、ゲテモノ食いはいいか。


ゲテモノ食いは僕も持っていたよね。

もしかしたら魔獣を日常的に食べることで身に着くのか、これがないと日常的に食べられないのか?

他の村人を調べれば簡単に分かりそうだ。

父さんを見てみるか?

いやあ…抵抗力が高そうだな……



早速、こっそりと父さんを見てみた。


人間、男性

 称号:????、????、ゲテモノ食い、ベテラン農家、剣豪?、元?ランク冒険者、????


農作業の隙に見てみたのだが、案の定?だらけだ。

たぶん最初の????は並びから英雄の系譜と思われる。

ゲテモノ食いはある。

父さんが持っているのは、まあ想定内だ。

元?ランク冒険者はAランクとかだろうか?

剣豪?の?はあれだ。

鎌とかで戦うのできっとリアル”?”だ。

残りの????は不明。

たぶん狂戦士とかかな?


なるほど。

村から出て冒険者をしていたんだね。

両親のことながら知らないことも多いってことか。


父さんはステータス魔法を掛けられたことを気付かなかった。

ならば、他の人も気づくことはないだろう。


もう少し試してみようと思う。

やはり倫理問題があるが……



母さんだ。


人間、女性

 称号:????、ゲテモノ食い、上級魔法使い(????)、元?ランク冒険者、????


……

魔法使いで、冒険者だったということは分かる。

最初はやはり英雄の系譜か。

この村人を作ったのは英雄という伝説があった。

意外に本当のことかもしれない。

ゲテモノ食いがあった。

家族で同じものを食べてたのでこれも想定内だ。


やはり称号を見ることである程度その戦闘力は分かりそうだ。

練度を上げて行けばもう少し情報を得ることができるかもしれない。

または、相手に気づかれていもいい状況なら、敵対している相手とかなら、大量の魔力を注ぎ込むことで情報を見れるかもしれない。



次は…

ちょっとクリフ君にも協力をしてもらう。


「いいよ」


軽い返事で協力してくれた。


人間、男性

 称号、英雄の系譜、ゲテモノ食い、一般酪農家、双腕の狂鬼


やはり、英雄の系譜、ゲテモノ食いはこの村ではデフォルトらしい。

双腕の狂鬼は…

一緒に森に狩りに出たときがあるが、クリフ君は両手持ちの鉄棒で魔獣を滅多打ちにしていた。

ちょっと狂気を感じた…

そういうことか…



これを見るに、父さん、母さんの後ろの????もヤバ目の称号ではなかと推測する。

息子としたらあまり見たくはないかもしれない。



「あ、ルーカス」


帰り道の途中にリネットに出会う。


「ちょうど良かったわ。おやつ食べに行こうと思ってたところなのよ」


リネットは実家、村長宅で手伝いをしている。

書類の整理とかいろいろあるのだろう。

頭を使うことが多いためか、糖分の補給だろうか、よくうちにおやつを食べにくる。


「仕事はどうなの?」

「つまんないわよ。村長はお兄ちゃんが継ぐし、私はその手伝いだけ。書類を整理しているだけ」


「書類整理だって大変な仕事でしょ。誰かがやらなきゃ、困ることになるし」

「ま、そうなんだけれどね。地味じゃない」


「この村に派手な仕事なんてないでしょ」

「ま、そうよね。私ができそうなのは商人とかかなあ? 仕事奪っちゃうのもだめよね」


リネットは頭もよく、優秀だ。

この村では上位に入る優秀な人材だ。

村には珍しく事務能力も高い。

たぶん商人の仕事もすぐに覚えると思う。


「狩人とかは?」

「ダメよ。全部燃やしちゃうわ」


彼女は兄と同じく火魔法が得意。

家系なのかもしれない。

秋祭りの花火も、彼女に継承の話が出ているほどだ。

つまり、村でも有数な火魔法使いということになる。

才能としては母さんと同程度かもしれない。


…ちょっと、リネットも覗いてみるか…

女性を覗くのはちょっと抵抗もあるけれど…好奇心が…


人間、女性

 称号、????、ゲテモノ食い、村長補佐、上級事務者、上級魔法使い(????)、???気質、????

 ※注意:人間関係に問題が発生する可能性あり、付き合いは注意を要する


注意とは?

初めて見る項目だ。

リネットには何か精神的不安があるということだろうか?

特にこれまで彼女がもめ事を起こしている話は聞いたことが無いから、大丈夫だとは思う。

…ま、ちょっと気に留めておこう。



リネットと一緒に家に帰り、パンケーキを食べ、彼女を見送った後、やはり気になったので闇の精霊アルベルタに聞いてみる。


「彼女の注意とは何だろう?」


『人間には精神的に弱い時期がある。ただそれだけのことよ』


確かにそのときのストレスと状況により精神が不安定になる時期はある。

彼女が今その時期ということか?


『少し彼女が思いつめやすいだけ。そうね。彼女は闇属性の才能が有りそうよ』


「精神攻撃系の魔法に適性があるということ?」


『そう。闇属性の魔法書は少ないから、その才能が花開くことは少ないけれどね。私が教えられたらいいんだけど、彼女に精霊師の才能はないから。ルーカス、あなた教える?』


闇属性、その中の精神系の魔法は本当に効果的だ。

僕も使えるのだけれど、使っていない。

卑怯というか…

例えば狩りだと、戦意を下げる程度ならよいが、眠らせる、意識を失わせるとかをやると、無抵抗な魔獣を狩ることができる。

剣の修行にもならないし、命を頂くものとして、相手に反撃の機会も与えたいというか…

最悪、こちらが負けそうなら使うことになると思うけど。

そして…精神破壊の魔法もあったりする。

強度の強い精神破壊だと、相手が廃人になったりするかもしれない…


ちなみに闇そのものの魔法もある。

周囲に闇を展開し視界をなくしたりする。

視界だけでなく、音、匂いも無くす。

相手の魔法発動も一定の妨害を受ける。

その中でこちらは普通に動ける。

かなりチートな魔法だ。


これに加えて毒、重力、召喚、精神からの派生で隷属、記憶操作、等々、ヤバ目のものがてんこ盛り…


うん。

怖すぎる。

リネットに教えるのは無しで行こう。



ちなみに…

もしかしたら精神系が正方向に発動したものに、魔獣のテイムがあるかもしれない。

魔獣と仲良くなるってことで。

隷属を延長してもテイムになると思うけれど、それって大概良い結果にならないよね、物語では。



リネットの件はこれまで通りってことにする。

勝手にステータスを見てしまったんだし、対応方法も分からない。

友達だし、関係を切るってことはない。

そもそも村だと狭いので関係は切れないよね…


その関係の親密さが村のデメリットでもあり、だけどメリットだと思うことにしていたり。

まあ、人生そう思い通りにいかないってことかなあ。


リネット…

ちょっとだけ優しくしようか…

少し精神も安定するかな?

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