第54話 【レティーシャ視点】トカゲ、か?

【レティーシャ視点】


ラナと一緒に過ごしながら、父上との修行、ルーカス殿の畑の手伝いをした。


ルーカス殿の畑に行ってみると小さな精霊たちが働いていた。

土に中級の精霊が埋まっていたのは驚いた。

土の精霊はそこでくつろいでいるらしい。

彼女もまたルーカス殿と契約しているとのことだ。


…彼はどれ程の力を手にしているのだろうか?

精霊と契約するたびにその力を分け与えられる。

魔力は世界有数に達していると思われる。


彼はたぶんこの村でも突出した戦闘力を有している。

地水火風の精霊と契約し、剣の腕はAランク相当。

魔法については底が見えない。

私が知らない魔法を複数使用している。

相当魔法の勉強しているものと思われる。

もしかしたら、この村でしか知られていない魔法も存在するのかもしれない。

純粋にすごいと称賛する。



本日は森に狩りに来ている。


ラナとの連携の確認が主だ。


戦闘に精霊の力を借りることをルーカス殿に勧められた。

私が剣術のみに拘っていたからだ。


「剣聖」を目指すことと、剣のみで戦うことは違う。

そもそも身体強化や武器の強化は魔力を使用していて、魔法の派生と言えなくもない。

ならば、魔法を、精霊の力を借りることで戦闘を行っても良いのではないか?

その人が持てるすべてを使い、高みを目指せばよい。

と、ルーカス殿に諭された。


「それで他の人が認めないことがあっても、師匠や僕は貴方を誇りに思います」

そう笑った。


父上に相談してみた。

「剣聖なんて称号にこだわるから悪いのじゃ! 強ければ良い。戦いに勝たないといけない。 生き残ることが大前提じゃ! 剣技だけ磨いて、戦いで負けるならそれは弱者じゃ」

と笑った。



正直、剣のみで今後上を目指すことに限界を感じていた。

誰かに背中を押してもらいたかっただけかもしれない。

自分一人で決められないなんてまだまだだ。

情けない。


しかし何故か心が軽い。

ルーカス殿の言葉は素直に私の中に入ってくる。

不思議だ。

父上の言葉は…まあまあだ。



「レティーシャさん、右手前方、猪です」


まだ距離がある。

身体強化を発動し、更にラナに風の力を付与してもらう。

ラナに先制で、風の刃で攻撃をしてもらうが、効果は薄い。

ラナはまだ若い精霊で、さすがにこの森の魔獣の相手はまだ難しいようだ。


猪が突進してくる。

横に躱しざま斬りつける。


体が軽い!

風の力を、身体強化・武器強化にも乗せている。

そのため体が動く。

剣も以前より切れ味が増しているように思う。


猪は怒り、再度突撃をする。

攻撃は単調。

当たれば致命傷だろうが、当たらなければ意味はない。


躱し、斬る。


それで猪を倒すことができた。


『レティ、強い!』


ラナが無邪気に喜んでいる。


「猪なら簡単に狩れるようになりましたね」


ルーカス殿はそう言ってくれるが、彼は一撃で首を落とす。

どうすればそこまでの強さを得られるだろうか?



順調に狩りは進んだ。

以前と比べて動けるようになった。

相手の動きも見えるようになった。

父上との修行の成果だろう。


ラナから力を借りることも慣れてきた。

ラナとの呼吸もあってきたと思う。


私は強くなっている。

それを実感できた。



『ルーカス、見つけたよ』


「エイリアナ、ありがとう。やっといたか」


ルーカス殿が嬉しそうに笑う。

何がいたのだろうか?


「トカゲですよ。レティーシャさん、戦ってみませんか?」


トカゲ?

森で初めての魔獣だ。


だが、少しばかり自信がついた。

やってみよう。


だが…

…いや、それは…


それは巨大な爬虫類のようなものだった。

高さは2.5メートル、長さは8メートルはあるか?

口からは火が漏れ、牙と爪は凶悪そのもの。

あの鱗に剣は通るのだろうか?

そして、膨大な魔力を秘めた体……


これは…

レッサーグランドドラゴンと呼ばれる、最下位のドラゴン種ではないか!

最下位とはいえドラゴン。

脅威度は確実にSランク!

こんな魔獣が村のそばに生息しているのか、この村は!



「トカゲは美味しいですよ」


ルーカス殿はニコヤカにワラウ…

そこには不安も欠片もない。


…彼が言うのなら私でも倒せるのか?


深呼吸を一つ。

気持ちを落ち着ける。

恐怖を振り払う。


危なくなったらルーカス殿が何とかしてくれる。

安心感がある。

この条件で戦えることなど滅多にないだろう。


覚悟を決める。


「いざ! 参る!」


最大限の身体強化、武器強化、風属性の付与をかける。


トカゲ、に接近する。

トカゲは挨拶代わりか前足を振り、爪での攻撃。

足が巨大、速い!

なんとか躱す。

躱せる。

落ち着け、恐怖するな、よく見るんだ。


噛みつき、ひっかき、尾を振り回す。

なんとか躱す。

私の方が速い。


戦える!


攻撃を躱し、反撃を加える。

鱗が硬い!

傷は浅い。

だが、肉まで通っている!

浅くともダメージが通っているのなら!


何度も攻撃を加える。


トカゲはいらだち首を上げ、咆哮する。


「魔法来ます! 避けて」


ルーカス殿が警告。

私は横に跳ぶ。


そこを火属性の魔法の球が通過する。

あの大きさ、食らえば一撃…

恐怖がよみがえるが…

大丈夫だ、ルーカス殿がいてくれる。


トカゲの魔法はルーカス殿の水魔法により消滅する。

いくらか森の木に燃え移っているがルーカス殿が消火していくれている。



『レティ、大丈夫?』


「まだいける…」


幾度斬りつけただろうか。

トカゲは傷だらけになり、血も垂れている。


しかし…

このままだとこちらの体力が尽きるのが早い。


どうする?…


通りそうな攻撃は?

私が持つもの。

しかし、時間が。


「レティーシャさん、僕が時間稼ぎをします」


ルーカス殿にはこちらの考えはお見通しか。


「頼む!」


ルーカス殿が前に出る。

スッと、移動魔法でトカゲに接近、前足に斬りつけ、軽い傷をつけて、離脱。

トカゲは高速で移動する彼を追いかけるが、彼に翻弄される。

さすが。

トカゲと戦いなれている。


「ラナ、力を貸して!」

『うん、行くよ、レティ!』


ラナから大量の風の魔力が流れ込む。

それを剣に集中する。

剣から発散しそうな力を無理矢理に閉じ込める。

力が凝縮する。

剣が白く輝きを放つ。


今の私が持つ最強の攻撃。

これで決められないのなら、今の私では狩ることはできない。


トカゲを見る。

ルーカス殿が更にいくつも傷を負わせている。

トカゲの動きが鈍っている。


トカゲはルーカス殿に集中している。

こちらは警戒していない。



ならば!


森の木、巨木に向かい走る。

地を蹴り、木に跳ぶ。

その太い幹を蹴り、更に高く。

トカゲの上空。

まだトカゲは気付かず。


「ラナ!」

『いっけー!』


落下の速度を更にラナの力で加速。

トカゲの首に剣を叩きこむ!

剣はトカゲの首に食い込んでいく!


「落ちろ!」


しかし、首の半分を切ったところで、剣が壊れた。

強力な力に耐えきれなかったのだろう。


ダメか?


「十分です!」


ルーカス殿が首の残りを斬り落とした。

紫に光る剣。

強力な力を感じる。

…ああ

この人はどこまで強いのだろう…



トカゲは首を落とされ絶命した。



「私一人では無理だったな…」


「いえ、十分ですよ。村でも一人でトカゲを狩れるのは一握りです。通常チームで狩りをしますから」


「そうか?」


「はい。レティーシャさんの実力は村でも上位。立派に狩人になれます」


そうか。

この村で上位の実力を私は得たのか。

漆黒の森で狩りをできることを証明できたのか。


「しかし、剣を失ってしまった」


王都で買った業物の剣だったのだが、さすがにドラゴン種には荷が重かったか。


「この村ではトカゲを倒せることが一人前の狩人の証なんです。もちろん一人でではなく、チームでトカゲを狩ります。そして、その祝いに、狩ったトカゲの素材で剣を送るんですよ」


ドラゴンの素材で剣を?

加工するだけで相当の腕が必要になる。

こんな村で?

いや、この村だからか。


「さて、帰りましょう。トカゲの肉は美味しいんですよ」


ルーカス殿が嬉しそうに笑う。

その笑顔は本当に幸せそうで…


彼は…ただトカゲが食べたかっただけなのかもしれない。

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