第49話 15歳、武器強化(次)

結界を張ったまま、師匠と手合わせをする。

身体強化はなしで、ゆっくりとした動きで、一つ一つ確認するように。


師匠の剣を受けて、逸らして、攻撃を返す。


結界の修行を始めてから3年。

だいぶ形になってきた。


それとなんとなく相手の動きの予測ができるようになってきた気がする。

これが先読みとかいうヤツだろうか。

結界の修行がいい方向に作用しているのかもしれない。


僕の剣系の称号は「剣豪」だった。

そのうち「剣聖」になるのだろうか?

「剣聖」は特殊っぽいから、何かしらの条件が必要かもしれない。


前世で「剣聖」と言えば、塚原、上泉とかだろうか。

彼らは何故「剣聖」と呼ばれたのか?

その辺、僕は詳しくないんだよね。

そっち系が詳しい友達はいたんだけど。



師匠の剣は対人より、対魔獣とか魔物を意識しているものだ。

人間同士の駆け引きとか、フェイントとかそういう技術はない。


結界で相手の動きを把握し、相手よりも速く動いて、一撃で切り伏せればいい。


「五つ星の物語」の海淵のような必殺技もなし。


このままだと僕は剣豪のままなんじゃなかろうか。

ちょっと剣聖はかっこいいんだけれど。



「よし。だいぶマシになってきおったの」


初めて結界について合格が出た。

僕も進歩している。

この修行は長かったけど。


「では次の段階じゃ」


「まだ、次があるんですか?」


「ありもありじゃ。剣の道は長く険しいのじゃ。で、何が足りないと思う?」


さて?

結界で相手の攻撃を見切り、斬る。

ならば、スピードか、攻撃か。


「攻撃でしょうか?」

「そうじゃ。相手の身体強化を切り裂く攻撃ができねば勝ちはない。剣士は剣ですべてを切れねばならん! ドラゴンもベヒモスもアザトースもすべて切るんじゃ!」


ドラゴンとベヒモスはいいとして、いや良くないけど、アザトースって確か外宇宙の神様じゃなかったっけ?

いや、神様とかはさすがに無理だと思う。

物語ではよく神殺しの魔剣とか出てくるから可能かもしれないが、少なくとも「神殺し」なんて関わりたくない。


「そうじゃ、『次元斬』じゃよ。かの千年氷城の竜妃を討伐した剣聖、ハインリヒ・アルフベルクが得意としていたと伝わる伝説の剣技じゃ」


ああ、それか…

それもたまに物語で見るやつだ。

空間自体を切ってしまうので、基本的に防御力とか関係なくなる。

この世界では実在していたのか…いや、なんか物語臭い話だ。

その実在は疑わしいのでは?


「師匠、その『次元斬』は実在してたのでしょうか?」


「つまらんな…弟子よ。男なら、そのロマンを追いかけるべきじゃろう!」


ロマンって…

ということは師匠は実現できていないのでは?


「それを追いかけている最中じゃ!」


「実現の可能性は見えたのでしょうか?」


「わからん!」


……


師匠によると、現在は武器の強化の方向で突き詰めているらしい。

基本的に身体強化より武器強化の方が難しい。

しかし、身体より武器の方が強化できる許容量が高い。

つまり武器はもっと強化ができるということだ。


ちなみに安い素材、鋼鉄とかは強化の許容量が少なく、壊れやすいとのこと。

異世界の不思議素材、ミスリルとかオリハルコンとかアダマンタイトが良いらしい…

やっぱりあるんだね、その素材。


そのような素材の剣はもちろん高価だ。

そして僕はただの村人、農民。

そんなお金は持っていない。


どうする……


金属を探知する魔法を作って、自分で掘るか?

確かそんなことをしている物語もあったはず。


トカゲ鉄の剣はどうなのだろう?

普通の剣よりは強化できそうな気がする。

錬金術の強化も普通の剣よりできた。


錬金術強化と剣術側の強化の相性ってどうなんだろう?

普通にやっているが、錬金術で強化した分、剣術側の強化できる量が少なくなってたりするのだろうか?

もしくは、錬金術での強化のやり方によっては剣術側の強化量を増やすこともできるのか?

これも検証が必要そうだ。



で、師匠の長年の成果を見せてもらえることになった。


武器破損の恐れがあるため、安めの鉄剣を使用する。

それでももったいないけど。


まずは普通に強化が始まる。

師匠の魔力がスムーズに剣に流れ込む。

完璧な強化。

美しいとすら思う。

ここから更に魔力が流れ込み、強化が強くなっていく。

そして、ある一点、そこで強化が止まる。

ここが通常の強化の限界点。

普通の人だとここまでも到達できない。

師匠が達人だから何の問題もないようにここまで到達できただけ。

師匠は更に魔力を流し込む。

剣は強化されているようには見えない。

しかし、魔力は流れ込んでいる…

これでは剣が壊れるのではないだろうか?



急に、剣が、白く輝く。

明らかに強化のレベルが違う!

通常の強化とは全くの別物!

存在感が全く異なる。

あれは脅威…


僕の身体強化では軽く切り裂かれる。

そうか、このレベルがあるのか…

これを使える猛者が何人いる?

もちろん、僕が習得することも必要だが、防げる防御方法を考えないといけない…


師匠はそれで、藁束を斬る。

軽く。

もちろん藁束は何の抵抗もなく切断される。

余った力で、地面も切り裂いた…


「ほう。儂もまだまだ…力を持て余しとる。地面まで切ってしもうたか…」


師匠でさえ制御できない力か…


「で、じゃ。ここから更に行くと…」


師匠が魔力を注入する。

剣は白く光ったまま…端の方から形を失い、砂のように崩れた。

光の粒がサラサラと落ちる。

綺麗な光景ではあるが…


「なるほど、そうなるんですね…」


貯めこんだ魔力が爆発するとかの現象でなくてよかった。


「まあ、こんなもんじゃ。儂の強化はもっといけるんじゃが、この剣では付いて来れん! 限界を見極めることが重要じゃな」


師匠は刀身が無くなり、ガードとグリップのみになったものを、僕に投げて寄越した。

剣は熱を持っているかとも思っていたが、それはなく普通だった。

熱で壊れたではなく、魔力により物質としての構造を壊された感じかもしれない。


ちょっと待って。

魔力による破壊か……破壊系の魔法も作れるかもしれないな。

ひょんなことから魔法側の収穫がある。

うん。

嬉しい。



さて、僕も武器強化、師匠を真似てみる。

普通に武器を強化する。

ここから更に強化を強くしていく。

魔法を使うときとまた違う制御が必要になってくる。

繊細な制御で大量の魔力を操る。

これが難しい。

不安定ながらも最初の壁まで強化できた。

さらに、魔力を……


ボフンという音とともに魔力が霧散した…


強化が切れた、失敗だ。


「師匠、難しいですね」


「そりゃ、そんな簡単に出来とりゃ、みんなやっとるわい。しかし、儂のように使える奴が他にいるかも知れんて。考え方は単純じゃから、少しの才能と絶え間ない努力でたどり着く者もいるじゃろう。なら、そいつと対峙した場合どうなる? おぬしがこれを使えんかったら相手にならんじゃろ。やるしかないのじゃよ」


そんな相手と戦う前提なのが間違っていると思う。

なるべく戦わないようにしたいところだ…

しかし、確かに戦いを回避できない状況はあるかもしれない。

それに備えることは重要だ。

努力をすれば手に入るスキルならば、手に入れておいた方が良いだろう。



「そういや、おぬし、エレノアの嬢ちゃんとはどうなっとる?」


いきなり話題が飛びすぎです師匠。


「どう、とは?」

「年頃の女性と何年一緒に住んどる? 手を出さんとういうのは相手に失礼じゃろが!」

「いやいや、それは師匠の常識で、僕の常識じゃありませんよ!」

「何を言うか! 漢として生まれてきたからには、女のために生き、女のために死ぬのが定め! ならば常に女を追っかけなんだいかん!」


師匠の常識が決してこの世の男性の常識ではない。

それはクリフ君にも確認済み。

ただクリフ君も見かけによらず結構肉食なんだよね…


師匠の意見を変えることはできない。

話の方向を逸らそう…


「そんなこと言って、師匠に女性はいたんですか?」

「失礼な! 世界中におるわ! 若いころは街々に女がいたもんじゃ!」


船乗りが港ごとに女性がいたような感じかな?


「それなら子供とかも沢山いるんですか?」


「それがのう…なかなかできんで、一人だけじゃ…」


そんなに女性がいても、子供一人?

女性の数は半分嘘の可能性も?

または、夜のお店の女性で、お客さんとして親しくされていただけとか?


しかし子供はいるらしい。

ならば、なぜこの村で一人暮らしをしているのだろうか?


「おお、そうじゃ!」


師匠が手を打つ。


「お主、娘の婿になるか?」

「何の話ですか? だいたい年齢に差がありすぎるでしょ」


「娘は50を過ぎたくらいかの。まだピチピチじゃて」


師匠からみれば50歳はピチピチかもしれないけれど、僕とは40歳近く差があるじゃないか。


「娘さんは、まだ結婚していないのですか?」


「そうじゃ、おぬしとが初婚じゃぞ。まだ手付かずじゃ。どうじゃ?」


行き遅れ?

何か問題が…は失礼か、たぶん縁がなかったか、結婚する気がないか…

どちらにしても僕には難しそうだ。


それにしても、娘さんのことを知っているということは、奥さんと連絡をとっているということか?

離婚しているわけじゃない?


「師匠、家族と連絡とっていたんですね?」


「長く生きているとな。色々あるんじゃよ…」


とりあえず、娘さんとの話はうやむやにしておいた。

エレノアさんとの仲を進めろとか言うくせに、娘を嫁にとか、どっちだよ?

この村で多妻を見たことがないから、よく異世界物に見るハーレムとかはなさそうに思うのだけれど…


もしかしたら師匠は本当に複数の女性と交際していたのかもしれない。

今でもこれだけの実力の剣士だ。

若いころは凄かっただろう。

しかし、それが何故この村に?


あまり踏み込んだ話を聞くのも失礼だし…

そのうちタイミングがあるのかな?

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