第47話 15歳、魔法改良の考察、実験

魔法を創れるようになった。

では、これを農業に活かせるか?

目下の問題だ。


僕の職業は農家だ。

習得した技術はなるべく農業に活かしたい。

しかし、僕には精霊が付いている。

彼女たちが実に優秀で頼めばほとんどのことをこなしてくれる。


畑。

畝づくりは、土の精霊にお願いできる。

種まきは、土の精霊と風の精霊で。

水やりは、水の精霊に。

雑草は、土の精霊。

害虫は、風の精霊で。

病気は、土の精霊、風の精霊、光の精霊で何とかなる。

収穫は人手でやるしかないけど。


…新しい魔法が必要だろうか?


今のままでも大丈夫な気がしてきた。

問題なく農業ができている。


うん。

前言撤回。

習得する技術を全て本業に使う必要はない。



では…開墾は?


木を切るのは、斧を使えばそれほど問題なく切れる。

斧も錬金術で強化してあるので、問題ない。

だが、魔法でできると効率が上がるかもしれない。

風または水属性?

他の世界なら無属性の斬撃系の魔法、こちらにもある?

もしくは分子の結びつきを切るような魔法?


木の根、岩を掘り起こすのは、土魔法の穴を掘るやつを使っている。

これはこれで良いとして、もう少し小さい石を取り除く魔法があったらよいな。

範囲内の物の大きさを仕分けする魔法?

いっそ、石を砕くか?

いや、石を砕いたものは、畑にはいらない。


土を耕すのは…土の精霊にやってもらえばよいが、魔法でできてもよいかも。

他で何かに使えそうな気もする。


うん、開墾はいくつか魔法を開発してもよいだろう。



さて、戦闘方面は?


光魔法の発動時間を短くしたい。

あれは威力・効果が大きく有効なのだけれど、発動が遅く、実戦での使い方が難しい。

発動が短くなればチート級だと思う。


それと、威力が強いが効果範囲の狭い攻撃魔法が欲しい。

上級魔法・超級魔法になると威力は高いが効果範囲も大きくなる。

これもまた実戦で使いにくい。

平野での殲滅戦でならいいんだけど、森とか、魔獣一匹を倒すには向かない。

魔獣の場合は肉を美味しくいただくため、なるべく体は綺麗に残したい。

どうすればよいのだろうか?

槍系の魔法を単純に威力を上げられるものだろうか?


あると便利なのが雷系の魔法だ。

攻撃を当てると動きを一瞬止めることができるはずだ。

魔法自体のスピードも速そう。

有名ゲームでは勇者専用の魔法になっていたりする。

別のだと普通に使えるけど…

弱い威力だとスタンガンのように使えるかもしれない。

殺さないで捕縛するときとかに有効そうだ。


戦闘系の魔法は色々と検討の余地がありそうだ。



錬金術。

レア関連については正直全く進捗はなかった。

しかし、この魔法作成がカギになるかもしれない。


僕が今できる錬金術関連は、武具の強化とかで、そちらについてはだいぶ成長したと思う。

だが、ホムンクルス系はまったく異なる技術で、難易度が高い。

そして、前マスターは天才だ。

その天才ができなかったことをしなくてはいけない。


僕が前マスターに勝てるかもしれない技術が魔法作成という訳だ。

どこまでどんな魔法を作れるようになるかはこれからの鍛錬と検証が必要だと思う。

可能性はあると思う。

十年後には何とかできるとよいなあ……



どの魔法を作っていくか?

優先度・効果が高く、作成難易度が低いものが良い。


農業、開拓系は無くても何とかなりそう。

だとすると戦闘系。

開拓でも森に入っているので、魔獣に襲われる危険がある。

森で使える攻撃魔法?

いや…光魔法の短縮だな。

光の移動魔法で逃げられるからね。

村の結界の中まで逃げられれば良いのだから。



光の移動魔法の魔法陣は魔法書にない。

手書きで書きだし、魔法陣を眺めてみる。


考慮する部分は…

1.魔力を入力する部分

2.魔力を光属性に変換する部分

3.光属性の魔力を光魔法の効果に変換する部分

4.各機能部のつなぎ

あたりか。


光魔法が特に発動が遅いため、2、3あたりに特に時間がかかっていると思われる。

1は他の魔法も共通部分なので、ここを改良できたら他の属性魔法も短縮できるだろう。

4はほぼ共通、一部魔法ごとに調整が必要って感じだろうか。



まずは無駄な処理を削り軽くしたい。

1、2、3の処理を眺める。

無駄な繰り返しとかないかな……

魔法陣を詳細に眺めて、ちょこちょこ修正してみる。

そして魔法を発動で試す。


発動時間なんて測れないので、肌感覚だ。

何となく軽くなった、引っ掛かりがあるとかそんな感じ。


これの繰り返しを行い、2日間かけて作業を完了した。

まあ、今の僕の技量だとこんなところか。

将来もっと技術を磨けばもっと改良できそうな気もする。



シンプルになったところで、4.を行ってみる。

よく分からないが、ちょっと見、綺麗でない混雑している個所を見直す。

機能部の位置関係を見直していく。

こちらも2日程度の作業だった。

うん。

まあまあ、美しくなった気がする。


この「美しい」という感覚が重要だと思う。

引っかかる感覚が重要だ。

「美しくない」と感じる部分はだいたい複雑になっていて効率が悪い…ことが多い。

前世でソースコードだってそんなものだったし。



このシンプルな光の移動魔法の効果のほどは…

若干使いやすくなった?…

心持ち早く発動する?…

まあ、少しだけ改良された感じ。

よし、よし、こんなところだろう。



あとは…

どこで時間をとっているか、ボトルネックってやつが分かればいいのだけれど…

各機能の時間を測れるわけでもないし、難しい……


何度も魔法を使ってみる。

どうも魔法効果と魔力が釣り合っていないような気がする……

ただの主観だけど。


風属性とかは魔力を使った分だけ効果が発動するような気がするが、光魔法は魔力をバカ食いするように思う。


想定としては、以下か?

・光魔法が魔力を大量に使う属性である

・魔力を光属性に変換する効率が悪い


とりあえず前述の「1.魔力を入力する部分」を見てみる。

どちらにせよ素早く大量に魔力を入れれば魔法は早く発動するのでは? ということ。

この機能の効率化はこれ以上難しいので……複数つけてみるか?


魔法陣で魔力の入力部は大体外側についているのだが、ランクが上がってくると複数の入力部を備えている魔法陣が増えてくる。

外側すべて入力部なんてものもあったりする。


入力部を増やすためには魔法陣を大きくして、他の機能部も調整が必要になる。


……


出来上がり、試す。



魔力の入りは良くなった…が、途中までで、その後詰まる感じ。

たぶん、魔力の変換が間に合っていない。


「2.魔力を光属性に変換する部分」か…

ちょっと今の自分には難しいんだよね、ここを改善するのは。

この機能部も複数にして並列にしてみる。



うん。

だいぶ、発動が早くなった。

が、魔法陣が大きくなった。

今は紙の状態から発動しているから良いが、通常は魔法陣が大きくなると制御が難しくなる。

まあ、僕の魔法制御ならこの程度問題ないかも。


…うん。

いいじゃないか?



作業途中でもう一点思いついたことがある。

劣化版にすればよいんじゃないかということだ。

何かの機能を敢えて弱くする。

例えば、移動距離を短くすれば必要な魔力は少なくなるはずだ。


通常の光の移動魔法は1キロメートルくらい移動できる。

緊急時にそれほど距離は必要ないだろう。

20メートルくらいあれば良いんじゃないか?

発動が早くなるのだったらそれを複数回使えば相手から逃げられるのでは?


試しに作ってみる。


これは……

いいんじゃないか!


移動距離を50分の1まで削ったところ、魔力は4分の一程度まで減った。

発動時間は3分の1程度かな?

軽くなったので、制御もしやすい。

戦闘で使いやすくなったのではなかろうか。



この2つの魔法。

大きくなった改善版移動魔法と、軽くなった劣化版移動魔法を習得する。



では、劣化版移動魔法を実戦で使ってみよう。


森に入り、魔獣を探す。

なるべくなら熊以上がいい。


そんなに都合よく熊が出てくるはずもなく、数匹の鼠を倒したところで、猪と遭遇。


猪の突進をわざわざ劣化移動魔法で回避してみる。

普通に回避するより面倒だが、慣れれば使えそう。

おお!

猪が驚いている。

何回も試していると猪の息が上がってくる。

突進の速度も遅くなってきたので練習にならないと判断し、狩る。

今日は猪のカツを食べたい。


エレノアさんにパン粉をつけて揚げる調理法を覚えてもらったので、カツを食べられるようになった。

これは食の革命!

野菜のカツも美味しい!

串カツみたいな感じ。l

茹でたジャガイモをカツにしたり…これは美味しいヤツだ。

ただ、中濃ソースが欲しい。

あれってどうやって作っているんだろう。

野菜?が原材料にあったのは覚えているんだけど…

ワインとかで煮れば何とかなる?

今度作ってみよう。


ちなみに天ぷらは微妙だった。

この村では基本的に油がラードなので、その風味が付きすぎて、コッテリしてしまう。

ちょっと天ぷらとは違うかな。


植物脂が高いんだよね。

村では魔獣が沢山獲れるので、その油でラードが作れる。

油のとれるものを栽培した方が良いかもしれない。



続けて探索を続けると、大きめの魔獣の気配を察知。

この気配…

トカゲ!


そういえば、トカゲのカツは食べたことないな。


トカゲが僕を認識する。

爬虫類の表情は良く分からないけれど、何となくニヤリと笑った気がする。


ヤツめ、いきなり魔法か!

魔力を溜めに入っている。


こちらの移動魔法の方が発動が早い。

トカゲの背中に移動する。


トカゲの魔法は僕がいた位置を襲う。

空振りだね。


うん。

移動魔法、使える。



このまま首を落とせば終わるのだけれど、もう少し実戦で移動魔法を練習した。


戦闘を継続する。

爪攻撃、尻尾攻撃、噛みつき攻撃…移動魔法でかわしていく。

光の移動魔法は見える範囲へ移動できるもので、視線によって移動先が分かるかもしれない。

剣の師匠とか達人と戦うのなら、意識しないで目的の位置に移動できるように熟練が必要だろう。

魔力による結界を応用するなら、視界の外、例えば後ろにも移動できるか?

これも考察が必要だ。


トカゲも攻撃疲れで動きが鈍くなってきた。

終わりにしよう。

移動魔法でトカゲの首付近に移動し、素早く首を切り落とす。


この魔法自体ではないけれど、問題点を一つ発見した。

移動までは良い。

移動の最中に攻撃できないので、移動完了後に攻撃を開始する必要がある。

ちょっとだけ間がある。

また、移動先が空中だった場合、踏ん張りがきかないため、まともに剣を振れない。


剣での攻撃が難しいなら、魔法でどうかというと、魔法の準備をした状態での移動がこれまた難しい。


まあ、ちょっと改善点はあるが、おおむね満足だ。

劣化移動魔法は戦闘で使える。



次は、森で使える攻撃魔法だね。


その夜も部屋で魔法の研究をしていた。


闇の精霊に使えそうな魔法を教えてもらい、それの習得をしつつ、飽きたら攻撃魔法の改良を考えたりしている。

光の移動魔法で改良した経験で、攻撃魔法もシンプルに整理されて、使いやすくなっている。

そこから威力を上げていきたい。

発動する魔法の大きさはそのままに、速度、魔法密度を上げていきたい。

さて、どうしようか…


トントンと戸を叩く音。

もう深夜なのに、エレノアさん?


「ルー君、頑張りすぎちゃだめだよ。睡眠も大切よ」


「はい。ほどほどにします」


「お腹空いたでしょ、お夜食ね」


野菜のスープだ。

優しい味付けだけど、野菜のうまみが出ている美味しいスープ。

ほっこりする。


「ありがとう。すごく美味しいよ」


「ん。よかった。無理しないでね。早く寝るのよ」


エレノアさんは優しい。

僕が夜遅くまで研究していると、今回のように彼女のお世話になってしまうかもしれない。

ほどほどにしないとは思っていても、楽しいと時間を忘れてしまうのですよ。

これはある程度はしょうがないよね。


…エレノアさんの睡眠時間を削らないように、ほどほどにね。

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