第46話 15歳、魔法が改造できました
「おはよう」
「おはよう。ルー君」
エレノアさんに挨拶して朝食の席に着く。
彼女ともだいぶ打ち解けて、彼女も敬語を話さなくなった。
良いことだ。
「もう少し待ってて。今、目玉焼きができるから!」
エリカさんの料理をしている後姿を見て、待つ。
僕も料理ができるのだけど、彼女の仕事が少ないということで任せている。
彼女も仕事があるということで、ここにいていいんだという、安心感を得ているのかもしれない。
僕にも手伝わせて楽をすればいいのにね。
しかし、料理をしている女性の後姿というのはいいなあ。
僕もちょっと成長してきて女性を意識し始めている。
ま、しょうがない、そういう年頃だ。
これは生物として必要なことであり、しょうがないことだよね。
あまり下品にならないようにしたいとは思っている。
「いつもありがとうね。エリカさん」
感謝はちゃんと伝えようと思っている。
その方が気持ちが良いよね。
「何よ…そんなこと言われたって品数は増えないわよ」
あまり素直には伝わっていないようだけど、僕は毎日、本当に、彼女に感謝しているんだ。
この2年。
彼女がいてくれたから僕はやってこれたと思う。
ふと、寂しくなるとき、悲しくなるとき、誰かがそばにいてくれる。
それだけでだいぶ楽になった。
エレノアさんの料理の腕もだいぶ上がった。
最初は目玉焼きさえ満足に作れなかったのに、今ではパン、目玉焼き、ベーコン、スープ、ヨーグルト(これはクリフ君とこから購入)が並ぶ。
「スープ美味しいよ」
「いつもと同じ味よ。でも、ありがと」
朝食を食べ終え、食後のハーブティーをいただく。
この後は畑の続きだ。
頑張ろう。
畑の仕事は意外と時間がかからない。
なにせ、僕には精霊の助けがある。
雑草もほぼ生えないし、虫もつかない。
水やりもすぐに終わる。
野菜に必要な肥料も分かる。
収穫がちょっと手がかかるくらいかな。
それはエレノアさんにも手伝ってもらっている。
彼女もだいぶ農家らしくなってきた。
はたして、それが良いことか、彼女が望んでいることかは分からないけど…
農作業が終われば、剣の修行か、魔法の修行、または錬金術の修行。
魔法については最近だいぶ進歩したと思う。
魔法陣の理解がだいぶ進んできて、何となくどこがどのような機能の部分かが分かってきた。
属性を決める部分、形を決める部分、それを打ち出すのか、速度は…等々。
この家には大量の魔法書があり、それを毎日のように見ていたので成果が出始めたらしい。
同じような魔法を比べて、違いを確認したりして、だんだん理解してきた。
そこで、既存の魔法をちょっとだけ改造してみようかと思う。
自室に戻り、紙に魔法陣を書き出す。
ベースにする魔法は「火の矢」。
簡単な魔法からが良いだろう。
この魔法の形「矢」を変えてみる。
「矢」と言っても本物の矢のように矢じりが付いたようなものではなく、先端のとがった棒のようなものだ。
まず、ただの球にしてみようと思う。
魔法としては劣化しているけど…
魔法陣を機能別に分解して紙に書いてみる。
ここが形を決める部分だ。
これを変更すればよい。
球の形は、別の魔法「水球」から持ってくればよい。
「水球」は、生活魔法系のもので水を生み出すだけのも。
このとき形が球になっている。
すぐに形が崩れて落下してしまうのだけれど。
形を作る機能の部分を入れ替えるとそのままではうまく魔法陣に収まらない。
ちょっと形が違うからだ。
何とか調整する。
通常、魔法を覚えるというのは、魔法陣を記憶するを意味する。
しかし、魔法を発動するだけならば、紙に書いた魔法陣のままで使用可能だ。
魔法陣を描くインクを、錬金術で使用するものにすればよい。
一度だけで焼ききれて、再利用はできないが、効果を試すだけなのでこれで十分だ。
この技術は意外と知られていない。
たぶん錬金術師が少ないためと思われる。
裏技みたいなものかな。
早速庭に出て、試してみる。
…
うん。
期待通り、火の球が出現する。
そして期待とは違い、火の玉は飛んでいく過程で形を崩して、消滅した。
球形は飛ばすには不向きな形かもしれない。
形を保存する機能を強化してやる必要がありそうだ…
とりあえず、これで魔法を改造できることが証明されたということだ。
よし!
一歩前進!
数日間、魔法陣の簡単な改造を楽しんでいた。
本当に簡単なものだ。
速度を変える、大きさを変える、魔力量を変える、まあそんな感じだ。
興味本位に色々いじり倒す。
ここを変えたらどうなるだろう?
ここはどうだ?
あれだな、前世でプログラム言語を覚える感じに似ている。
まずは書籍に乗っているプログラム例を打ち込んで動くのを試してみる。
そこから興味に従って変更して、その結果を見る。
違いを見てみる。
それによって体で理解をしていく。
懐かしい感じがする。
仕事じゃないと楽しいんだけどね…
仕事だと思っちゃうとなんだかなあ、ってなる。
まあ、前世のことは横に置いておこう。
今は楽しいから良い。
そんなことをしていたある日、ステータスを確認したところ…
「あれ? 称号が増えた!」
魔法作成者…
魔法を改造して遊んでいただけで、作っていたわけではないけれど…
まあ、何かを作るということは、ほとんどの場合0から1を作るのではない。
何か元になるものを改造する、または他のものを掛け合わせるが大抵だ。
だから、僕のしていたことも作成と言えば、そうなるのかも?
もしかして転生者って称号を得やすかったりする?
チートの一種?
そして、この称号を得たことで何か変わるのだろうか?
試しに魔法書を取り出して、魔法陣を眺めてみる。
ふむ…魔法陣の構成がより理解できるようになった感じがする。
新しい魔法陣の作成を試みる。
「火の矢」の「矢」を「蝶」に変えてみる。
「蝶」の形にする魔法は無いため、参考にすることはできない。
しかし、何となくどうすればよいのかが分かる…
それを魔法陣にまとめ、魔法を発動する。
拙いが火が蝶のような形に発現した。
これはすごい!
なるほど称号は何かしらの効果があることが判明した。
そして、拙い蝶の形、その修正内容もなんとなく分かる。
目標はアゲハ蝶の形だ。
僕が見たことがあるのは、アゲハ、モンシロ、シジミくらいだ。
その中から選択するならアゲハの一択。
黒いアゲハは綺麗だった。
アゲハの種類では、黒くて、輝くのがいるらしいが、残念ながら見たことがない。
数回の試行を経て満足のいく蝶が飛んだ。
ただ、飛び方が直線なので、これを改善する必要がある。
目標は、数匹の蝶を発現し、蝶らしく前方に飛ばすことだ。
漆黒の夜にこの魔法を使ったら、美しくも、儚い感じがして…
ちょっと厨二病的な…
さらに日本の着物が欲しい。
僕じゃなくて、黒髪の美女がいい。
はい、横道にそれました。
しかし、これは面白い!
僕のオリジナルの魔法が作れる。
アイデアによっては全く新しい魔法を作れるかもしれない。
「すごい。綺麗…火の蝶々。初めて見た」
庭で魔法の試し打ちをしていると、エレノアさんが洗濯物を干しにきた。
洗濯物を燃やしてしまったらいけないので、今日はこの辺で終わりだね。
「うん。珍しい魔法で覚えている途中なんだ。もっと蝶々っぽく飛ぶはずなんだけど。まだまだだね」
「習得したら見せてね。火魔法なので危ないかな?」
「大丈夫だと思うよ。攻撃力は低めの魔法だから。この魔法は本当はもっと綺麗だと思うよ。期待しててね」
「うん。待ってるね」
月夜に炎の蝶が舞い踊る。
隣にエレノアさん……
「ルー君、綺麗ね…」
「そうだね、エレノアさん」
顔を見て、微笑み合う…
僕がぎこちなく、彼女の手を握ろうとして…
ちょっと失敗して、緊張して、握れなくて…
だけど彼女が握り返してくれて…
もちろん妄想!
…うーん。
ちょっと意識しているな。
彼女、以前はガリガリだったけど、もう女性らしい体つきに戻ってしまって…
目のやり場に困ることがあるんだよね。
たまにだけど。
胸とかに視線がいっちゃっていることきっと気づいているんだろうな…
男性だからしょうがないことなんだけど、それを女性に言ってもしょうがないよな。
余裕のある男になりたいものです。
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