第44話 【絵里香視点】幸せだったよ

【絵里香視点】


やだな…

もう歳かな?


最近すごくそれを感じる。

体は動かなくなってきたし、節々は痛むし。

魔力も少なくなってきている…

昔は「星降りの魔法使い」なんて呼ばれていたんだけどなあ。

あー、やだやだ。


だけどね。

最近は楽しいんだ。

幸せだ。

人生は素晴らしい!


この村「漆黒の森」にある、「森の村」にやってきて、静かに暮らして、幸せだったけど、最近は特にね。


ルー君が来てくれてすごく嬉しい。

ルー君は転生者。

私と同じ世界、同じ国を知る人。

漫画の趣味はちょっと違うけどね。

漫画も小説もけっこう幅広く読んでいる人。

ちょっと考察が浅い気もするけど。

深すぎて頭が固くなるよりはいいんじゃない。


ま、趣味だから、人の好き好きだよね。


一緒に漫画・アニメの話をして、ちょっとディープな話題に入ったり。

ちょっと討論で熱くなったりもするけど、それが楽しいかな。


…元の世界に戻れる能力を持った転生者とかいないのかな?

漫画の続きか気になる、非常に…



では!

ちょっとこの村の説明をしておこう!


ここは一部では「英雄の隠れ里」として有名だったりする。

そもそも村を作ったのが召喚者なんだよね。

「英雄! 英雄!」言われて疲れちゃったみたい。

それで静かに暮らしたいって、魔境の中に村を作ったそうな。


この森に村を作るくらいだから、すごく強かったんだろね。


そんなこんなで、静かに暮らしたい英雄さんたちが集まって、村は少しずつ大きくなったってこと。

英雄だって色を好まないのも、権力欲が無いのもいるってことだね。


あ、私もそんな感じか?

国で貴族なんて息苦しくってしょうがないよねー。


そんな感じで村人さんたちはみんな英雄の血族。

強い強い!

みんな外に出ればエース級。

それが魔境の魔獣に鍛えられたらどうなるって?

国のお偉いさんは恐怖だろうなー。


でも、怖すぎて手を出せない。

藪蛇、藪蛇。



でね。

私が召喚されたのは16歳、ピッチピチのJK。

高校3年生になったばかり。

受験勉強どうしようかなー、面倒くさいなーって、遅まきながら考えていたとき。

これが受験直前で準備万端、やったるぞー! ってときだったらすごく恨んでいただろうな。

私の場合はこれで受験勉強なしだ、異世界召喚! やったーって気持ち。

命のやり取りをしないといけない恐怖もだいぶあったけど、それは内緒ね。


一緒に召喚されたのは幼馴染の2人。

親友の宇賀神 詩子。

男友達の田村 樹(たつき)。

同い年だ。


詩子は聖女で、樹が聖騎士だ。

この世界では勇者という職業はつかないらしい。

勇者はその人の功績で大衆から呼ばれる称号で職業ではないとのこと。

ちなみに私は賢者。

全ての魔法を使える可能性があるというもの。

可能性なので、頑張って努力しないと何もできない。

そりゃ、頑張りましたよ。

だって、魔法を使えるんだよ!

憧れの魔法だ!


他の人だって異世界召喚されて魔法が使えるって知ったときには、テンション上がって、床を転げまわるはずだ!

私たちの場合、残りの2人は割と冷静だった。

おかしな人たちだよね。


私たちは魔王を倒すために呼ばれた。

魔王ったって、この世界では結構ポコポコ湧いて出るとのこと。

今回のは「金色のオーガ」だった。

うん。

オークでなくてよかった。

オークだと色々ヤバそうだ。

主に女性が。


なんやかんやあって、どうにか魔王を倒せた。

いやあ、結構ギリギリだったんだ。

樹なんてほんとぼろぼろで死にそうだったんだけど、ま、詩子が聖女のなので死ななければOKみたいな。


んで、魔王倒したけど、元の世界に戻れないってのはデフォだよね。

この世界、基本そうみたい。

どこで召喚されても同じみたい。

だから、森の村なんてできているんだし。

この村、結構召喚者の住民がいたんだよね。

最近は来ていないみたいだけど。

元剣聖のおじいちゃんはこの世界の人みたいだし。


で、だ。

旅の途中で詩子と樹がくっついてたんだけど、樹が王女と結婚しやがったんだ!

まー、勇者が王女と結婚するのはありがちなんだけど、詩子はたまったもんじゃないわね。

詩子は隣の国の王子と結婚したわよ。

国同士の関係も悪化したっけな。

今も小競り合いをしてるって話だ、バカみたいな話でしょ?


私はさ、詩子に世話になって、そっちの国の公爵のところに嫁入りしたんだよね…

旦那自体は嫌いじゃなかったんだけど、子供ができなかった。

貴族の嫁なんて、子供産んでなんぼって、感じなんだよね…

全く古臭いたらありゃしない!

妾に子供ができて、居づらくなって、こっちの村に逃げてきたって話さ。


まあ、よくある話、さね。


こっちに来れる実力があるだけましなんかね?

その後は静かに暮らせたから良かったよ。


もうさ、詩子も樹もいないんだよね…

ずいぶん前にさ。

こっちに来てから百年くらい経っているからしょうがない。


私は魔法で若干長寿になっているから、普通の人とは寿命が違うんだ。

これぞ魔女って感じだ。


人生の後半、彼女たちに会ってなかったな。

もう少し連絡しとけばよかったなって今はちょっと後悔していたり…



この村では結界の維持とか、魔法を教えたり、結構やることはあったんだよね。

マジックバッグも作ったし、村境の壁も補強したし、毎年花火も上げてたし。

貢献してたと思うよ、私。


やれるだけはやった。

人生悔いなしってところだ。

ま、結婚生活はうまくいかなかったけどさ。


…そうね。

ルー君だったらもう少しうまくいっていたかなぁ?

同じ世界の人だし。

ルー君は転生者だからちょっと違うか。


彼は優しいからきっと色々受け入れてくれると思うんだよね。

私の我儘とかさ。


彼がもう少し早く生まれてくれてたら、なんてね…


だけど、ほんと、もうちょっとだけ早く出会えたら…

もうちょっとだけ幸せな時間が長かったのにね。

ちょっとだけ残念。



それにしても、もうそろそろかな……

さすがに長生きしすぎたようだ。


ちょっと眠くなってきたかな……


私が死んだら悲しんでくれるかな?

みんな泣いてくれるだろうか。

ルー君もきっとね。

悲しんでくれるのを望んでるなんて、嫌な女だよね、全く。

三つ子の魂百までってね。

ああ、やだ、やだ…



最後に、ちょっとだけ悪戯をしようと思う。

彼が気に入ってくれるといいな。

きっと、笑って許してくれると思う。

いつものように。


きっとね……

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