第42話 【イザベル視点】薬草、ゴブリン
【イザベル視点】
「常緑の猪」という冒険者パーティ。
森出身の冒険者が組んでいる。
3人。
槍。
女。
ネルさん。
リーダー。
盾。
男。
マークさん。
魔法。
女。
アルマさん。
全員Aランク冒険者。
前は王都の方で頑張っていたらしい。
今は故郷の近くでペースを落として活動している。
私のように森からの冒険者志望をサポートとかもしている。
「なるほど…ウィリアムさんの娘ねえ…」
「確かに…似ているわね」
「で、トカゲ狩りだろ。ま、戦闘は問題ないんじゃないか」
食堂で話をしている。
ソーセージ、野菜を炒めたもの、硬いパン。
味付けはまあまあ。
肉の質が悪い。
うま味・強さが足りない。
村の食事はもっと美味しかった。
森の魔獣は美味しいと聞いたことがある。
早速帰りたくなる。
…お肉もっと持ってくればよかった。
エリカさんからもらったマジックバッグは時間の遅延効果が付与されている。
それでもお肉は悪くなる。
だからそれほど持ってこなかった。
これは失敗だ。
そのうち一回戻ってお肉を確保したい。
「そうね。イザベルも王都とかもっと賑やかとこに行きたいでしょ。基本的なことを教えるだけでいいでしょ」
「…ん。よろしく」
でももったいないから食べる。
食べられるときにちゃんと食べる。
冒険者の基本。
翌日から簡単な依頼を受ける。
ネルさんが付いてきてくれている。
槍の人だ。
あとの二人は近くの村でオークが増えているとこのことで行っている。
オーク程度なら二人で十分らしい。
この街で最高の戦力。
忙しそうだ。
まずは薬草の採取とゴブリン討伐。
ゴブリンじゃつまらないがしょうがない。
私はまだ冒険者になりたて。
街のそばの草原。
初心者の冒険者が薬草採取するのであまり生えてないとのこと。
だが結構生えている。
「…次に生えてくるために、わざと残している?」
「いや。ただの取り逃し。初心者には見えてないんだよな…イザベルはずいぶん慣れてるじゃない」
「…森でいっぱい採っていた」
森にはたくさんの薬草が生えている。
この辺の草原に生えているヤツよりも質が良い。
それを使ってママが薬を作ってた。
村ではそれほど病気とか怪我する人はいないけど村の外で売れるらしい。
「なるほどね。じゃあ、採取はお手の物だ!」
一時間程度で薬草は依頼の指定量を採取した。
あとはゴブリンだ。
薬草採取のときには見なかった。
この辺にはいないのだろうか?
' ========
「サンバートフォード王国」の北西にある街「ザンピリエ」。
高ランクの魔獣が跋扈する「絶望の森」、「漆黒の森」と呼ばれる森に最も近い街だ。
その街から近い別の小さな森に彼は生まれた。
生まれながらに他のものと違っていた。
まず、体格からして違う。
生まれたときにすでに他の者と同じサイズだった。
普通に生まれ落ちることはできず、母の腹を破って生まれ落ちた。
母はそれで死んだ。
産んでくれたことは感謝したが、彼はそれに罪悪感も感じなかった
自分を産めたのだから名誉なことだろう。
その程度の認識だ。
母がおらず、寂しいと思ったこともない。
他のすべての者が彼の世話をする。
特に問題なかった。
成長すると他の者との差は更に顕著になった。
他の者の3倍の体格、力も比べ物にならない、そしてその威厳。
彼が言葉を発すれば、他の者はすべて従った。
彼は王だった。
生まれ落ちたときから決まっていた。
そして当然に群れを統率した。
彼は思う。
彼の群れはまだ小さい。
しかし、我々の繁殖力はすさまじい。
少しの間に大きな群れになるだろう。
それまで待てばよい。
そこからだ。
そこから俺はこの世界を蹂躙する!
襲い、奪い、犯し、殺す!
我々一人一人は小さいが、群れとしての力、数の暴力で圧倒する。
数こそがすべて!
我々の武器は数!
彼は焦っていなかった。
じっくりと時を待つ。
まだ、そのときではない……
その時、群れの端で悲鳴が上がった。
一人の兵士が慌てて王に駆け寄る。
「王! 敵襲です!」
彼、王は鉄の塊のような巨大な剣を手に取り、立ち上がった。
人間ではとても振るえないような巨大な剣だ。
そして、叫ぶ。
「我らに盾突く賊徒どもを殺せ! 我に逆らうものはすべて消し去るぞ!」
この王に向かってくるとは何て無謀な者がいるのだ。
無知!
無謀!
彼は高らかに笑った。
自分の勝利を疑いもしない。
その精神こそが王の証。
しかし…
王とはまた謙虚でなくてはならない。
自分が無知で、無力であることも知らねばならないだろう。
さて、彼は……
' ========
見つけた。
近くの森に集まっていた。
「うーん…数は100程度か…どうする?」
「…殲滅」
「そうだよな。所詮ゴブリンだ!」
ネルさんと頷きゴブリンの群れに突撃する。
特に作戦もない。
ただ斬るだけだ。
ネルさんも身体強化・武器強化して槍を振り回す。
一振りで複数のゴブリンを切断する。
私も負けてられない。
とにかく目に入ったゴブリンを斬る。
「…大きいの来る」
3メートルくらいの大きなゴブリンだ。
巨大な剣を持ちユックリ歩いてくる。
他のゴブリンとは違いそうだ。
「イザベル、一人でやる?」
「…いいの?」
「貴方の実力も見たいしね」
ネルさんに大物を譲ってもらった。
彼女もやりたかっただろうに。
有難い。
「グギャギャガガ!」
何か叫んでいる。
ゴブリン語なんて分からないから気にしない。
ヤツに駆け寄り頭に斬り付けてみる。
剣で受け止められる。
意外に速い。
このゴブリンは身体強化を使えるようだ。
何合か斬り結ぶ。
ちゃんと付いてくる。
面白い!
「ギャギャギャ」
笑っている?
軽い攻撃だとか言いたいのか?
ならもう少し強くいこうか!
身体強化を上げる。
体が金色の魔力を放ち、剣が紫に光りだす。
…うん。
この剣はよい。
ビリビリと力を感じる。
試しにヤツに受けられる速度で攻撃してみる。
ギャインと音がしてヤツの鉄板のような剣を切り裂いた。
うん!
よし!
良い切れ味だ。
ヤツもリーダー。
剣を切られたくらいで戦意を失わない。
拳で殴りつけようとしてくる。
でももう終わり。
戦力差は覆らない。
ヤツの突き出す腕を切り落とし両の足を斬り裂く。
地面に倒れるが残った一本の腕で上体を起こし私を睨みつける。
「グギャアァァァ!」
何か言っている。
やはり分からない。
首を切り落として終わり。
うん。
ちょっと歯ごたえがあった。
楽しかった。
「ヒュー。さすが!」
ネルさんが褒めてくれた。
ネルさんは私が大物と戦っている間も周りのゴブリンを倒し続け死体の山を築いていた。
ゴブリンたちはリーダーが討たれたため戦意を喪失し散り散りに逃げ出す。
さあ残党狩りだ!
逃げるゴブリンどもを斬っていく。
力の差がありすぎてちょっとかわいそうだが残すと悪さをするらしい。
なるべく減らすのがよい。
だいたい見える範囲のゴブリンを倒した。
少し逃したのが残念。
「ま、こんなとこだね」
「…全部は無理だった」
「しょうがないさ。数が多かったからね」
「…討伐証明部位はどうする?」
魔物を倒したのをギルドに証明するために魔物の体の一部を切り取り提出しないといけない。
ゴブリンの場合は耳で良いらしい。
「イザベルはマジックバッグ持ってる?」
「…うん」
「じゃ、それに大物の頭入れて、あとは依頼数だけその辺の小さいのの耳とって、残りはギルド報告してでいいんじゃない」
ぜんぶ耳を切るのは面倒だ。
なのでそれで行く。
ネルさんはAランク冒険者なのでギルドの信用も高い。
たぶん大丈夫と思う。
魔物用のマジックバッグを別に持っている。
食べ物とかと同じバッグに入れるのは気持ちが悪い。
マジックバッグなので中のものが接触することはないが、気になる。
ギルドへ帰り報告する。
薬草をテーブルに出す。
受付の女性がそれを確認する。
「はい。確かに。依頼達成です」
続けてゴブリンを出す。
「ちょっと、なんでゴブリンの頭…って、大きい!」
受付が慌てている。
「…大きかった。3メートルくらい?」
「…3メートルですか?」
受付がネルさんを見る。
ネルさんは頷く。
「ああ、それくらい。イザベルがバババって、足を切っちまったから今はそんなにないけどな。はは!」
「いやいや、3メートル級のゴブリンって!」
受付さんは「マスター」と叫びながら2階へ。
何かやってしまった?
悪いことしていないはずだけどな。
すぐにドタドタとマスターが下りてくる。
「おいおい、でけえゴブリンって…ホントじゃねえか…こりゃゴブリンキングだ」
ゴブリンキング?
話によると…
よく分からない。
まあゴブリンにもたまに王様がいるらしい。
今回のはまだ王様も強くなってなくて、群れも大きくなってなかったので良かったとのこと。
それでも王様単体でもたぶん脅威度Aに入りたてくらい。
放っておけばSになって災害級の危険があるらしい。
国が軍隊で対処するレベル。
相当な死人がでるとのこと。
「これをお嬢ちゃん独りでか……ま、ブラウンの家系じゃ、不思議じゃねえか!」
マスターがガハガハ笑う。
やはりうるさい。
「よくやった」
ガシガシと頭を撫でられる。
年長者じゃなければ殴っているところだ。
お年寄りは大切にしないといけない。
母さんからの言いつけ。
これは守る。
「んじゃ、お嬢ちゃんはCランク昇格だな。昨日の今日で昇格たあ、早えもんだ」
「お、C級! そうなるよね。おめでとう、イザベル!」
ということで冒険者ランクがCランクに昇格した。
ランクが高いほうが強い魔物の討伐依頼を受けられるので嬉しい。
そのあとギルドからゴブリンの死体除去の依頼が張り出され若い冒険者がそれを受け死体を処理してくれた。
周囲に残ったゴブリンも討伐された。
これで終了。
住民の安全は守られたとのこと。
ちなみに常緑の猪の残り2人はオーク退治に出ていたけどオークジェネラルがいたとこのこと。
この辺だとわりと珍しい現象らしい。
ちょっときな臭いとギルドマスターのおっさんが言っていた。
魔物の活性化とかいうヤツかな?
ちょっと忙しくなりそうだ。
早く実力をつけたい。
そのあと常緑の猪と一緒に何回か依頼をこなして冒険者の基本を教えてもらった。
だいたい分かったので彼らに別れを告げて王都へと向かう。
たぶんそっちの方が面白そうな気がする。
もしかしたら私と同じくらいの実力の子がいるかもしれない。
それならパーティを組んでもよい。
やっぱり一人ではできることに限界がある。
大きな依頼を受けるのならパーティが必要だ。
そんな子がいるだろうか?
まあ人間がいっぱい居るだろうから何とかなると思う。
ちょっと楽しみだ。
じゃあ、王都に向かおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます